(5)文化の保護・振興

開発途上国では、自国の文化の保護・復興に対する関心が高まっています。たとえば、その国を象徴するような文化遺産は、国民の誇りであるばかりでなく、観光資源として周辺住民の社会・経済の発展に有効に活用できます。しかし、開発途上国には、危機にさらされている文化遺産も多く、そのような文化遺産を守るための支援は、人々の心情に直接届く上に、長期的に効果が持続する協力の形ともいえます。また、これら人類共通の貴重な文化遺産をはじめとする文化の保護・振興は開発途上国のみならず、国際社会全体で取り組むべき課題でもあります。

< 日本の取組 >

日本は、文化無償資金協力を通じて、1975年より開発途上国の文化・高等教育の振興、文化遺産の保全のための支援を実施しています。具体的には、開発途上国の文化遺跡、文化財の保存や活用に必要な施設、その他の文化・スポーツ関連施設、高等教育・研究機関の施設の整備や必要な機材の整備を行ってきました。こうして整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培う効果があります。近年では、「日本の発信」の観点から、日本語教育分野の支援にも力を入れています。

2012年度には、高等教育レベルを中心に、日本語教育や体育・音楽等、教育の幅広い分野で支援を実施しました。日本語教育支援としては、スーダン、セルビアの日本語教育施設に対する整備を行いました。またガーナ、レバノン、モルドバにおいてスポーツ施設・器材を整備したほか、音楽教育支援としてアンゴラ、コロンビアの音楽学院に対する支援を実施しました。このほか、パプアニューギニアの教育センターに対し、教育番組制作のための機材整備なども行っています。

日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))に設置した「文化遺産保存日本信託基金」を通じて、文化遺産の保存・修復作業、機材供与や事前調査などを行っています。特に途上国の人材育成には力を入れており、日本人専門家を中心とした国際的専門家の派遣や、ワークショップの開催等により、技術や知識の提供による協力も実施しています。ほかにも、いわゆる有形の文化遺産だけでなく、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、語り伝えなどの無形文化遺産についても、同じくUNESCOに設置した「無形文化遺産保護日本信託基金」を通じて、継承者の育成や記録保存などの事業に対し支援しています。

ペルーで日本語を学習する生徒に書道を指導する青年海外協力隊員(写真:伊崎弘志/JICA)

ペルーで日本語を学習する生徒に書道を指導する青年海外協力隊員(写真:伊崎弘志/JICA)

用語解説

文化無償資金協力
開発途上国が文化・高等教育振興、文化遺産保全などを目的として実施する開発プロジェクト(機材調達、施設整備など)のために必要な資金を供与する。政府機関を対象とする「一般文化無償資金協力」とNGOや地方公共団体等を対象に小規模なプロジェクトを実施する「草の根文化無償資金協力」の二つの枠組みにより実施している。

●セルビア

「ベオグラード大学言語学部日本語学科LL教室整備計画」
文化無償資金協力(草の根文化無償資金協力)(2012年2月~2012年6月)

旧ユーゴスラビア諸国の中でも日本語学習者が多いと言われているセルビアですが、日本語・日本文化専攻の学位を取得できる国内の高等教育機関は、ベオグラード大学だけです。この大学での日本語教育は1976年に始まり、セルビアで最も体系的に日本語を学べる機関として、日本とセルビアの交流の要となる人材を育成しています。セルビア国内にある日本語教育機関の講師のほとんどが同大学の卒業生です。

このように国内トップレベルの日本語学科であるにもかかわらず、LL教室に設置されていた機材は1980年代のもので、ほとんどが機能していませんでした。大学独自で改修する予算がなかったため、草の根文化無償資金協力を通じてLL教室を整備し直し、学習環境を拡充させる支援を行いました。その結果、入学希望者が増え、日本語学科はLL教室を整備した翌年に前年より2割多い新入生を迎えることとなりました。そして修士課程では、日本留学から帰国した学生たちが多数勉強を続けています。

ベオグラード大学はこれからも、日本の大学との交流事業も強化していく予定であり、今後日本とセルビアの重要な架け橋となる高度な日本語力を持った人材が多く輩出されることが期待されます。

整備した機材を使って日本留学の報告を行うベオグラード大学の学生。報告は日本語とセルビア語の両言語で行われた

整備した機材を使って日本留学の報告を行うベオグラード大学の学生。報告は日本語とセルビア語の両言語で行われた

日本からの帰国留学生の報告に聞き入るベオグラード大学の学生たち。パソコン、机、いすはこのプロジェクトで整備されたもの(写真:2点とも在セルビア日本大使館)

日本からの帰国留学生の報告に聞き入るベオグラード大学の学生たち。パソコン、机、いすはこのプロジェクトで整備されたもの(写真:2点とも在セルビア日本大使館)

ドミニカ共和国で北部地方4か所の日本語学校を週に一度ずつ巡回して授業を行う内島青年海外協力隊員(写真:佐藤浩治/JICA)

ドミニカ共和国で北部地方4か所の日本語学校を週に一度ずつ巡回して授業を行う内島青年海外協力隊員(写真:佐藤浩治/JICA)


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