水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は、2011年に世界で約7億6,800万人、下水道などの基本的な衛生施設を利用できない人口は途上国人口の約半分に当たる約25億人に上ります(注5)。安全な水と基本的な衛生施設が不足しているために引き起こされる下痢は、5歳未満の子どもの死亡原因の11%(注6)を占めています。
< 日本の取組 >
2006年に開かれた第4回世界水フォーラムで日本は「水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ(WASABI)」を発表しました。日本は、水と衛生分野での援助実績が世界一です。この分野に関する豊富な経験、知識や技術を活かし、(1)総合的な水資源管理の推進、(2)安全な飲料水の供給と基本的な衛生の確保(衛生施設の整備)、(3)食料増産などのために水を利用できるようにする支援(農業用水など)、(4)水質汚濁を防止(排水規制)・生態系の保全(緑化や森林保全)、(5)水に関連する災害の被害を軽減(予警報システムの確立、地域社会の対応能力の強化)など、ソフト・ハード両面で全体的な支援を実施しています。
2010年12月には国連総会において、国際衛生年(2008年)フォローアップ決議案の採択を日本が中心となって進め、MDGs達成期限となる2015年に向けて「持続可能な衛生の5年」を実現するために地球規模での取組を支援しています。
2008年に開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) IV)の後、2012年までの間に、日本は給水施設や衛生施設の整備を進めた結果、(1)安全な飲料水を1,079万人に対して提供するための無償資金協力および有償資金協力案件等を実施したほか、(2)水資源分野における管理者およびユーザー(村落水管理組合関係者を含む)13,000人以上の人材育成を支援しました。
また、2013年6月に開催された第5回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) V)では、向こう5年間に約1,000万人に対して、安全な飲料水や基礎的な衛生施設へのアクセスを確保するための支援を継続するととともに、1,750人の水道技術者の人材育成等の支援をそれぞれ実施することを発表しました。
ウガンダ北部、キトゥグム県で、井戸から水を汲む笑顔の子どもたち(写真:エグワル・レオナルド・フランシス/在ウガンダ日本大使館)
ルワンダにてプラスチックのジェリカンにわき水を汲む子どもたち。水汲みは子どもたちの仕事(写真:中富晶子/在ルワンダ日本大使館)
注5 : (出典)WHO/UNICEF “Progress on Sanitation and Drinking-Water: 2013 Update”
注6 : (出典)UNICEF “Committing to Child Survival: A Promise Renewed”(2012)
●ブルキナファソ
「中央プラトー地方給水施設・衛生改善プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2009年6月~2013年6月)
西アフリカのサヘル地域に位置するブルキナファソ。安全な水の確保の問題は、常に人々の優先的な課題となってきました。日本は、中央プラトー州と南部中央州において、無償資金協力により300基の井戸設置を行うとともに、井戸を適切に維持管理することを目的とした技術協力プロジェクト「中央プラトー地方給水施設・衛生改善プロジェクト」(PROGEA)を実施しました。
この技術協力プロジェクトでは、住民自らの手で井戸の維持管理を行う体制をつくっていこうとするものです。井戸ごとに住民による井戸管理委員会を組織する等の活動により、井戸の稼働率を向上させることができます。
また、地方自治体、複数の井戸管理委員会から成る水利用者組合、ポンプ修理業者といった主要関係者の役割と責務を明確にしたり、手洗いなどの衛生的な行動を習慣として定着させるための支援を行いました。
さらに、プロジェクトの活動として80村落で試験的に設立した水利用組合は、住民の理解を得ながら、州内のほぼすべての村落(563村落)に広がっており、全国展開の可能性も見えてきています。
水利用者組合の維持管理する井戸で水を汲む住民(写真:小野健/アースアンドヒューマン社)
●南スーダン
「南スーダン都市水道公社水道事業管理能力強化プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2010年11月~2013年11月)
南スーダンは2011年7月に独立しましたが、20年以上も続いたスーダン内戦により、国内のインフラ設備の維持管理はほとんど行われてきませんでした。上水道施設も例外ではなく、南スーダンの首都の給水施設は1930年代に建設が行われたあと、一部の施設更新を除いて管理が十分に行われてきませんでした。その結果、独立後の供給量は人口の約8%程度(約3万人)をカバーするに過ぎず、多くの市民はナイル川から取水された未処理水や、塩分濃度の高い浅井戸の水に依存している状況でした。また、上水道施設を管理する南スーダン都市水道公社職員の知識・技術不足、そして、同公社の予算不足などにより、計画的かつ効率的な配水が困難な状態となっていました。
そのため、日本は2010年から技術協力を開始し、都市水道公社の上水道施設の維持管理能力・水質管理能力・財務能力強化等を行いました。3年間の協力の結果、職員が自ら水質検査の記録を作成することができるようになり、水質が向上しました。また、料金徴収報告書も作成できるようになり、料金収入が増加しました。今後は、並行して実施している無償資金協力によるジュバ浄水場の施設拡張および送配水管網整備とあわせて、ジュバ市の給水人口を現在の10倍以上の約35万人に拡大することを目指していきます。
専門家が、水質試験課の職員に対して、現場で水質サンプリングについて指導している様子(写真:JICA南スーダン事務所)