その潜在力が大きな注目を集めるミャンマーは、2011年3月のテイン・セイン政権発足以来、民主化・国民和解・経済改革を急ピッチで進めています。日本政府は、こうした改革努力を後押しするため、2012年4月、ミャンマーに対する経済協力方針を見直し、本格的な支援の再開を表明しました。そして、延滞債務解消のための措置をとり、ミャンマーの国際社会への復帰を支援した上で、2013年5月、ミャンマー政府に対し26年ぶりに総額約511億円の新規円借款3件を供与しました。
3件の円借款はいずれもインフラ整備を目的とするものです。ミャンマー全体の開発と貧困の解消のためには、ヤンゴンなどの大都市だけでなく、貧困層の多くが暮らしている農村部(少数民族が居住する地域を含む)への支援が欠かせません。「貧困削減地方開発事業(フェーズ1)」は、農村部発展の妨げとなっている、道路、電力、給水といった生活基盤インフラを新設・改修し、住民の生活向上を目指しています。また、「インフラ緊急復旧改善事業(フェーズ1)」は、ヤンゴンの生活や経済活動の障害となっている恒常的な停電に対応するものです。最大の電力需要地であるヤンゴンでは今後さらに経済活動の活発化が予想されますが、この事業によって、既設の電力設備改修などにより停電の解消に取り組みます。
そして、三つ目が「ティラワ地区インフラ開発事業(フェーズ1)」です。ミャンマー政府は、経済成長を通じた国民所得の向上を実現するため、外国からの直接投資の拡大を重視しています。特に、経済特別区開発による外国企業誘致促進を方針として掲げており、中でも、ミャンマー最大の都市であるヤンゴン近郊で計画が進められているティラワ経済特別区開発事業は、日本とミャンマーが共同で取り組む大型プロジェクトとして大きな関心を集めています。この事業では、港湾ターミナル設備および電力関連施設の整備を通じて、ティラワ地区の経済活動や住民の生活向上に貢献することが期待されています。
ティラワ経済特別区はヤンゴン市から南東約20kmに位置し、総面積2,400ヘクタール(東京の山手線内側の約40%)にもわたる広大な区域です。日本政府とミャンマー政府は両国が協力してティラワ経済特別区を開発していくことを確認しており、両国の官民が一体となって工業団地等の開発を行っていきます。
現在、ティラワ経済特別区では早期開発区域約400ヘクタールの先行開業を目標に準備が進められています。早期開発区域の周辺インフラである道路や港湾の整備に、再開した上述の円借款の一部が活用されることになっています。また、日本とミャンマーの民間企業等により設立された共同事業体が中心となって早期開発区域内の工業団地開発を実施していきます。この共同事業体に対しては、2012年10月から本格的に再開したJICAの海外投融資による出資を検討しており、民間企業側の投資コストやリスクの軽減を目指していきます。
官民の持てる力を結集し、ミャンマーと協力しながら整備していくティラワ経済特別区開発事業は、まさに開発途上国におけるインフラ支援のモデルケースといえ、日本の経済界も大きな関心を寄せています。この事業は、日系企業を含む外資企業の進出の基盤となるだけでなく、ミャンマーの持続的な経済発展や安定的な雇用の拡大に大きな役割を果たすことが期待されています。
日本政府はミャンマーに対して、貧困削減に役立つ農業・保健・教育分野などの国民生活向上のための支援、少数民族への支援、人材の能力向上や制度整備のための支援に加え、経済成長を促進するインフラ分野においては、ニーズの把握に努め、今後ともミャンマーの改革の行方を見守りながら、官民が密接に連携してバランスのとれた協力をさらに行っていく考えです。
ヤンゴン旧市街の街並み。交差点の中心に位置する寺院はスーレーパゴダ(写真:谷本美加/JICA)