第2節 人づくり、国づくりの基礎を築く日本の協力

途上国の持続的発展と安定のためには、開発の担い手となる人材の養成が国づくりの基礎として欠かせません。日本はこれまでインフラ整備への支援に加え「未来への投資」としての人づくりにも積極的に取り組んできました。様々な分野で行われてきたODAを通じた人づくり協力は、途上国の発展に寄与したばかりでなく、日本と途上国の友好親善と相互理解の向上にも貢献してきました。

日本が重視する人づくり協力について、東南アジアにおける技術協力の事例を取り上げながら、人材の育成と活用への取組を振り返ります。

ベトナム・ホーチミン市の病院に派遣された渡邊青年海外協力隊員(作業療法士)(手前)。レントゲンを見て治療方針を話し合う(写真:加藤雄生/JICA)

ベトナム・ホーチミン市の病院に派遣された渡邊青年海外協力隊員(作業療法士)(手前)。レントゲンを見て治療方針を話し合う(写真:加藤雄生/JICA)

■ 東ティモール「国立大学工学部能力向上プロジェクト」

東ティモール国立大学(UNTL)は2000年11月に開校した東ティモール唯一の公的高等教育機関です。長年、政治的混乱が続いた東ティモールでは、教育機関の荒廃は著しいものがありました。開校当初は、教官の側に指導に必要な知識が十分になく、また、学校の建物や教育機材もその7割以上が1999年の独立に伴う混乱で破壊されていました。このような状況の中、日本は2001年よりUNTLの工学部に対して支援を開始し、教育機材の整備や、専門家の派遣、教官への研修など様々な協力を行ってきました。

このプロジェクトは、2001年から継続的に行ってきた支援に引き続き、適切な管理運営の下で質の高い工学教育を提供できるようにするのを目的として、2011年に始まりました。実施3年目となる2013年、指導カリキュラムは整備され、修士号を持つ教官数も24名から44名に増加し、研究活動の活発化が進んでいます。

2011年に策定された東ティモールの戦略的開発計画の中にも「国の将来のリーダーとなる人材育成のために、高等教育機関の強化をUNTLから始める」との記載があり、技術分野の将来を担う人材を育成するUNTL工学部に対する期待には並々ならぬものがあります。工学部の教育・研究能力の向上を図るこのプロジェクトは、高度な技術を持った有為な人材を輩出することを通じて、現在の主産業である農業に加え、同国の将来にわたる経済・産業基盤の発展整備に貢献することが期待されています。

日本人専門家から実験装置の説明を受ける東ティモールの現地スタッフ(写真:JICA)

日本人専門家から実験装置の説明を受ける東ティモールの現地スタッフ(写真:JICA)

■ ラオス「南部3県におけるコミュニティ・イニシアティブによる初等教育改善プロジェクト」

ラオスの南部地域は少数民族が多く暮らしており、貧困の度合いが高く、開発もあまり進んでいません。ラオス政府は、この地域の貧困の根本的解決に向け様々な分野で取組を行っていますが、教育の普及と改善をその優先事項の一つに位置付けています。

ラオス政府の取組を支援するため、日本は2007年より、この地域の初等教育に対する協力を開始しました。地域住民が学校運営に参加することを通じて小学校教育を改善するのが目標です。他の地域に比べ就学率の低いこの地域で、保護者や寺院といった地域社会の参画を得て、住民自身に考え、提案してもらいながら、学校教育の抱える課題の解決に取り組んでいます。子どもが学校に行けない、あるいは、就学を続けられないのには様々な要因があり、校舎や教室の不足や不備、教員の数の不足や質の問題など、学校側の問題もあれば、家庭の無理解や貧困などの問題もあります。学校側の努力に加えて、コミュニティの助け合いが子どもたちの就学促進と継続に大きな効果を持つことや、現場でのどのような活動が効果的なのか、このプロジェクトを通じて明らかになりました。日本は専門家の派遣や機材の供与などを通じて、学校や住民に働きかけ、プロジェクトを支援しました。その結果、対象校の平均純就学率が約73%からほぼ100%へと飛躍的に改善しています。

プロジェクトは、2007年から実施されたフェーズ1に引き続き、2012年からフェーズ2が始まりました。村や家庭ごとに異なる要因を見極め、問題解決の糸口を見つける上で、郡や県など行政の役割は重大です。フェーズ2では、そうした各学校の状況を理解し、支援の必要な学校に、必要な支援を行える行政を育成することを目指しています。また、学校の側では、地域や行政の支援を受けながら、学校それぞれが自身の問題を認識し、改善を図ることで継続的に自己発展できる学校を目指しています。こうした努力に対して、日本は専門家の派遣や研修の実施を通じて支援を行っています。

日本の協力を通じて、ラオス南部地域での教育へのアクセスの改善、教育の質の向上が実現され、同時に地域コミュニティの能力強化、人材育成の促進が同地域の貧困削減と成長につながっていくことが期待されます。

教室で学ぶラオスの子どもたち(写真:JICA)

教室で学ぶラオスの子どもたち(写真:JICA)


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