国際協力の現場から 18

コミュニティの力で美しい島をごみから救う
~ トンガ・ババウ島で廃棄物問題に取り組む日本人 ~

川畑さんと環境省および保健省の担当者たち(写真:川畑友里江)

川畑さんと環境省および保健省の担当者たち(写真:川畑友里江)

太平洋の島々では、自然の恵みを糧とした伝統的な生活様式から、先進国からの輸入に頼る生活に大きく変わってきているため、ごみの種類も量も急速に増えています。処分場はごみをそのまま埋め立てるだけの場合が多く、悪臭対策や汚水処理も十分でないため処分場の周辺環境に影響を及ぼすなど、問題が深刻化しています。

JICAでは2000年、太平洋の島国でごみ問題解決に向けた支援を開始しました。2011年からは「大洋州地域廃棄物管理改善支援プロジェクト」がスタート。地域の11か国に専門家を派遣し、廃棄物管理のための組織・人材育成および制度構築を支援しています。専門家の一人、トンガとフィジーを担当する川畑友里江(かわばたゆりえ)さんは、2004年に青年海外協力隊員としてフィジーに派遣されて以来、太平洋島嶼国のごみ問題に取り組んでいます。

プロジェクトが行われている離島のババウ島は、ヨットの寄港地として名高く、世界中から年間約8000人の観光客が訪れます。観光客が持ち込むごみも大きな割合を占めています。

プロジェクトではまず、発生するごみの量と種類、処分までのごみの流れを調査しました。島内では1日に20トンを超えるごみが発生していますが、処分場に持ち込まれているのはそのうち2トンだけ。しかも、ごみを収集するサービスがありません。各家庭で飼育されているブタや犬のエサとなる生ごみやリサイクルごみも一部ありますが、家庭で燃やされたり、不法投棄されたりしているごみがかなりの量に上ります。そこで、プロジェクトでは、既存処分場の改善と適切なごみ収集システムの確立に取り組むことになりました。

処分場改善工事では、ごみを特定の場所に投棄するよう周辺との境界を明確にしました。また、水質汚染の対策として、埋め立てたごみから出る汚水を集め処理する施設を設置しました。処分場改善で活躍したのはババウ島に駐在する保健省の職員だったと川畑さんは語ります。

「とても内気な人物でしたが、日本での3か月の研修を終え、帰国後、処分場の改善が始まると、率先して仕事に取り組みました。雨の日でも休日でも処分場の現場に状況を確認しに行くほどの熱心さです。きっと日本で学んだことをすぐに実践でき、状況の改善を目の当たりにして大きなやりがいを感じたのでしょう。彼のやる気に他のメンバーも刺激を受け、チーム全体に活気が出ています。」

青年海外協力隊員の池田陽介(いけだようすけ)さんも川畑さんの活動を補助してきました。川畑さんは、トンガだけではなく、フィジーやアフリカなど様々なプロジェクトにも従事しています。川畑さんがトンガを不在にする際は、ババウ島に常駐する池田さんが大いに力になりました。池田さんは電気工学が専門で、太陽光発電普及のため2011年にトンガに赴任しましたが、活動が本格的に動き出すまでの時間を利用し、ごみの調査補助や学校での環境教育活動などを行いました。

ごみ問題が専門ではなかった池田さんですが、徐々に関心を深め、任期を終える直前にある事業を企画しました。

「離島では、太陽光発電機に使われて寿命の切れたバッテリーが放置されていました。私はごみ問題のプロジェクトで得たネットワークを活かし、廃棄バッテリーの回収キャンペーンを企画し、10日余りで約300個を回収しました。ごみ処理と太陽光発電の両方にかかわった自分だからできた活動だったと思います。」

現在は、ごみ収集の仕組みづくりが進められています。川畑さんが注目しているのは、トンガ国特有のコミュニティの強い団結力と組織力、地域社会に対する高い奉仕精神です。

「コミュニティでは募金活動等を通じて独自の基金を設け、様々な地域奉仕活動をしています。この既存のシステムをごみ収集事業にも適用できればと、いくつかのコミュニティで試験的に実施していますが、期待以上の成果が出始めています。」

処分場の負荷軽減のため、生ごみ、剪定(せんてい)ごみ、リサイクルごみの家庭での分別やごみの削減化も促進しています。現地政府や住民からのプロジェクトに対する評価は高く、日本の経験や教訓から貢献できることは多いと、川畑さんは活動の成果を実感しています。

保健省の担当者にごみ質・ごみ量調査の指導をする川畑さん(写真:川畑友里江)

保健省の担当者にごみ質・ごみ量調査の指導をする川畑さん(写真:川畑友里江)


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