国際協力の現場から 17
貝の養殖を普及させて安定した収入源の確保を
~ エルサルバドル東部、貝類養殖の技術支援 ~
可児さんと貝養殖漁民のアビレスさん(右)、担当のコルネッホさん(写真:伊藤勝吾)
中米のエルサルバドルは、1979年からの13年間に及ぶ内戦、さらには2001年の大地震によって国内の経済が疲弊していました。同国は国土面積が小さく、天然資源にも乏しいことから、漁業や養殖業が経済の大きな柱の一つになっています。とりわけ貝類の採集は漁民にとって貴重な現金収入の源です。しかし、東部の沿岸地域では、内戦を逃れた人々が漁業に従事したことにより、貝類の数が急速に減少。零細な規模の漁民が採集できる貝は小さくなり、以前よりも遠くへ採集に行かなければならなくなりました。
採集作業も過酷です。アカガイの仲間である「クリル」と呼ばれる貝類はマングローブの根元に生息するので、人々はぬかるんだ干潟を歩き回り、絡み合った根元でクリルを手探りで採集します。その重労働には多くの女性や子どもが従事しているのです。
安定した貝類の収穫を目指し、JICAでは2005年から2010年にかけて、クリルとマガキの種苗(しゅびょう)(稚貝(ちがい))を生産し、養殖する技術支援を実施。2012年からは、確立された技術をより広い地域の漁民に普及するための「貝類養殖技術向上・普及プロジェクト」をウスルタン県とラウニオン県で実施しています。
プロジェクトのチーフアドバイザーを務める可児清隆(かにきよたか)さんは、貝や魚の養殖に関する専門家です。1983年からチリやモロッコ、そしてエルサルバドルで養殖を支援する専門家として活動してきました。可児さんはプロジェクトの意義をこう語ります。「自然資源だけに頼る零細漁民の収入は不安定です。貝類の採集だけでなく、沿岸での漁業や養鶏など多様な収入源を持つことが必要です。貝類の養殖には漁民の収入を安定させ、増加させる大きな可能性があります。」
広い地域の漁民が貝類を養殖するには、種苗の大量生産を目指さなければなりません。目標は、年間500万個体のクリルとマガキの種苗を生産し、ほかの援助機関とも連携をしながらこの地域で養殖業を普及させていくこと。プロジェクトではまず、種苗の大量生産に向けた課題を検証していきました。
マガキについては従来の親貝の飼育水槽を見直し、改めて管理が簡単な水槽を導入。1回の産卵で100万個体の種苗を生産することに成功し、量産をしていく見込みが立ちました。クリルは1年間で5回の採卵を実施。現地のスタッフが十分に技術を習得していることも確認できました。ただ、育成している期間に死んでしまう貝が多いという実態も分かり、今後はこの期間の飼育をいかに安定させるかが課題です。2013年7月には種苗生産施設の拡張工事も完了し、いよいよ本格的に種苗の量産試験が始まろうとしています。
また、マガキの試験養殖で生産した貝の市場の開拓も計画されています。現在、4つのグループが養殖を実施し、販売に向けての研修も始まりました。可児さんはマーケティングや市場開拓の方法、販売での工夫などを漁民に技術移転していきます。「零細な漁民自らが貝類の販売にかかわり、生産だけでなく出荷に関するマネジメントの知識を持てるようになれば、より主体的に収入の向上に取り組めるのです。」
実験的な養殖の効果を見た近隣の組合、および他県の組合からも人工種苗を希望する声が大きくなっており、可児さんは、大きな期待を感じているといいます。さらに、これまでに培われた技術を応用して、新たな養殖種を開発し、貝類養殖センターが中米での貝類養殖研究の核となることを目指しています。
ラウニオン県フォンセカ湾内のコンチャグイータ島でのマガキの養殖作業(写真:クリストファー・エスコバル)