国際協力の現場から 16

東アフリカ経済の大動脈、ケニアの道路を守れ!
~ 高速道路のプロが挑んだ道路管理の仕組みづくり ~

地元メディアに道路の維持管理の重要性を説明する西林さんと現地の技術者(正面)(写真:西林素彦)

地元メディアに道路の維持管理の重要性を説明する西林さんと現地の技術者(正面)(写真:西林素彦)

アフリカの東海岸に位置するケニアでは、貨物など物流の約95%を道路での輸送に依存しています。インド洋に面するモンバサ港は、ウガンダやエチオピアなどの近隣内陸国にとっても貿易の要です。しかし、国内全体で14,000kmに及ぶ幹線道路でも管理が十分でなく、損傷が放置されていたり、未舗装の区間も依然残っています。そのため、ケニアの道路を改善することは東アフリカ経済にとっても重要な課題です。

「開発途上国では道路を造ることに目が向けられがちですが、道路は人間の身体と同じです。人間が健康診断や予防接種を受けるように、道路も定期的にきちんと維持管理(メンテナンス)してあげなければ、すぐに傷んで使い物にならなくなってしまいます。」こう語るのは阪神高速道路株式会社の西林素彦(にしばやしもとひこ)さん。約25年間にわたり、道路の計画から維持管理まで携わってきた西林さんは、JICAの技術協力「道路メンテナンス業務の外部委託化に関する監理能力強化プロジェクト」におけるチーフアドバイザーとして2010年7月から3年間ケニアに派遣されました。

近年、ケニアでは道路管理の改革が進められてきました。2009年には実務を担う道路公社が設立され、維持管理は民間業者への委託が基本になりました。このように道路管理体制の基盤は整いましたが、委託の際の契約や監理体制にはまだ弱点がありました。そこで、同様の体制が確立している日本の道路管理の手法や経験を活かし、ケニアに即した仕組み作りを行う本プロジェクトが始動します。

「私の役目はケニアの制度の弱いところを発見して、強化すること。赴任してからは、道路省の事務次官から地方の担当官まで道路の仕事に携わっている人々の話に耳を傾け続けました。生の声を聞くことで本当のニーズを理解することに努めたのです。」西林さんが数か月に及ぶヒアリングで実感したのは道路関係者の意識の高さでした。彼らは道路行政の抱える課題を理解しており、異口同音に「この国の道路を直したい」と西林さんに訴えました。彼らの意欲と現状、課題を認識した西林さんは、仕組みづくりの作業に入る前に、まずは日本での研修を行いました。

この研修では、清掃作業、作業機材の準備、記録写真の撮り方、契約者との間で取り交わす書類、さらには毎朝のラジオ体操まで、管理の行き届いた日本の道路を支える「裏側」を見せたのです。「めちゃくちゃ地味な研修でしたが、彼らには響きました。『こういう仕組みがケニアにも欲しい』という声が上がりましたよ」と西林さん。立派な道路現場や技術を見せるだけでなく、その道路がどのように日常管理されているのかを体験することに研修の狙いがありました。彼らにそれを理解してもらうことで維持管理の仕組みづくりのイメージをつかみやすくさせたのです。

ケニアに戻った彼らは、道路の維持管理の仕組みづくりに取り組んでいきます。草刈、清掃作業を含む維持管理の予算や入札標準価格を算定できる積算マニュアルを作成。契約工事の進め方を客観的にチェックし、完了段階で点数付けにより評価し、その結果を公社間で共有するシステムを構築。日本で開発された簡易路面点検機器を導入。また年間維持管理契約の標準入札図書を作りました。これにより、入札の時間や手間を省くことができます。このように道路維持の予算計画から契約、実施、評価までのサイクルを強化する流れを整え、それを実務に適用していったのです。

「中身の作り込みはケニア側主導です。現地の細かい習慣や制度などは私には分かりませんから。また、完璧な内容よりも、完全な枠組み作りを心がけました。でも、彼らがしっかり吸収して実践に移してくれたので、ケニアで定着できる仕組みが完成しました。」道路建設といったハード面だけでなく、日本が持つ道路の維持管理というソフト面でのノウハウをケニアに合わせた形で伝えることを通じて、経済を支える重要な道路インフラを守りたいというケニア人たちの強い思いに応えることができたのです。

サバンナを通る道路での舗装補修工事の現場(写真:西林素彦)

サバンナを通る道路での舗装補修工事の現場(写真:西林素彦)


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