国際協力の現場から 15
水回りを改善しながらコミュニティと共にプロジェクトを創る
~ ヨルダンのシリア難民を支援するNGO、JEN ~
ザアタリ難民キャンプを視察する岸田外務大臣と説明にあたる佐々木さん(写真:JEN)
2011年3月に内戦状態に突入したシリア。激しい戦闘から逃れる人々の避難先の一つが隣国のヨルダンです。同国政府は2012年7月、シリアとの国境付近にザアタリ難民キャンプを設置。キャンプの難民数は、2013年8月時点で約13万人に達しました。
難民キャンプは、ヨルダン政府だけでなく、国際機関や各国政府の援助隊、そしてNGOが運営しています。その中の一つが、日本に本部を置く国際NGOのJEN(Japan Emergency NGO)です。
「JENの活動ではまず、ニーズを徹底的に調査します。ここ、ザアタリ難民キャンプでも、他の団体と共にキャンプ内の一戸一戸を調査し、冬物衣料の配布と水環境の改善が急務であることが判明しました。」
こう語るのはキャンプ内でのJENの活動を統括する佐々木弘志(ささきひろし)さんです。1985年生まれの佐々木さんは、子ども時代をインドネシアで過ごしました。小学生だった1998年、独裁政権が崩壊。混乱するジャカルタで、横行する略奪や暴力、そして同年代の子どもたちがストリートチルドレンになっていく貧困の現実を目の当たりにしました。日本に帰国後もその根本にある原因を問い続け、大学院では開発経済学を専攻。そして、常日ごろから「国際問題の現場に一番近い」と感じていた国際NGOのJENに就職し、2012年9月にヨルダンに派遣されました。
佐々木さんが担当するのは、ザアタリ難民キャンプでの支援です。JENは、2012年9月よりシリア難民緊急支援を開始し、ジャパン・プラットフォーム(JPF)※事業では、衛生的で女性が安心して洗濯できる環境整備を目的として同キャンプに21の洗濯場を設置しました。ところが難民キャンプはいわば「にわかづくりのコミュニティ」。共同体意識が弱く洗濯場はもちろん、給水所やトイレなどの共有財産は、一度壊れたり汚れたりするとそのまま放置されたり、使われなくなったりしていました。水環境が悪化し、健康へのリスクが高まるのも当然でした。
佐々木さんたちJENのメンバーは、UNICEFと共に、地区ごとに、キャンプの住民である難民の人々自らがメンバーとなる水衛生委員会をつくることを呼びかけました。「水」という共通のテーマをもとに住民の共同体意識を高める狙いもありました。
「心がけたのは、やる気のある人にボランティアで参加してもらうことです。子どもが下痢などを患っている親など、水環境の改善が必要だと痛切に感じている人々に自発的に動いてもらえるよう促しました。」
JENの呼びかけは少しずつ浸透し、自治意識が高まった委員会では、お金を出し合って掃除道具を購入し、当番制でトイレを掃除するようになりました。配管の修理も以前は支援団体に頼っていましたが、「直したいから道具を貸してほしい」と申し出る住民も現れました。JENでは、そうした住民主導の活動をサポートしながら、委員会のメンバーと共に、衛生知識の普及に努めてきました。こうした改善の積み重ねの結果、水が原因の疾患は10%から5%に減少しました。住民の声を直接聞くための家庭訪問などをきっかけに、JENという日本のNGOについてもキャンプの人たちは認識するようになったといいます。
JENの支援によって設立された水衛生委員会はキャンプ全体で191に及び、住民自治の基盤づくりに貢献しているとして、国際機関からも高い評価を得ています。今後、キャンプ全体を12の自治区に分けて運営することが決まっていますが、自治を支援する4団体の一つとして、欧米の援助団体とともにJENが選ばれました。
世界が注目する難民キャンプで着実な成果を上げるJEN。現地の責任者である佐々木さんは日本の人々に向けてメッセージをくれました。
「日々、失敗と後悔の連続です。でも挑戦してみなければ、何が正しいかも、間違っているかも分かりません。一歩を踏み出す勇気があれば、きっと自分の目標に近づけるはず。だから、何を目指すのでも、あきらめないでほしい。シリアに平和が訪れ、人々が祖国に帰ったとき、キャンプでの自治活動が国の再建に役立つと信じて日々の活動に取り組んでいます。」
※ ジャパン・プラットフォーム(JPF)は、日本のNGOが紛争や自然災害に対し迅速かつ効果的に緊急人道支援を行うことを目的に、NGO、経済界、政府の三者で立ち上げた組織(NPO法人)。2000年8月設立。
洗濯設備で井戸端会議中の水衛生委員会のメンバー(写真:JEN)