国際協力の現場から 13

日本発の土木技術でハノイの渋滞を緩和する
~ ベトナムと日本の友好の証(あかし)、ニャッタン橋(きょう)の建設 ~

梶村さん(左)と現場所長の西 東十郎さん(背景はニャッタン橋)(写真:梶村雄佑)

梶村さん(左)と現場所長の西 東十郎さん(背景はニャッタン橋)(写真:梶村雄佑)

東南アジアのベトナムでは、2000年から2010年にかけて平均成長率7.3%の経済成長を遂げてきました。国民所得も1人当たり1000ドルを超え、低中所得国への仲間入りを果たす一方で、急激な経済発展の弊害も生まれています。首都ハノイでは交通渋滞が慢性化しており、経済発展の足かせになっているのです。

ハノイ市はホン河(紅河)の両岸に市街地が広がっています。両岸を結ぶのは5つの橋ですが、その交通量は飽和状態に達しており、物流の効率化と交通渋滞の緩和を図るために新たな橋の建設が望まれていました。

現在、ニャッタン橋の建設が進められています。この橋は中心部に近い市の東側に位置しており、ノイバイ国際空港と市街地を結ぶアクセス道路の一部となります。建設する道路の全長は約9kmで、橋の長さは3.08km。5連の斜張橋(しゃちょうきょう)※という壮大なプロジェクトです。この橋には日本の円借款が投じられ、建設には日系企業が参加しています。

受注企業の一つ、株式会社長大(ちょうだい)の梶村雄佑(かじむらゆうすけ)さんは、同社で約30年間にわたり海外で橋を架けるODA案件の建設工事に携わってきました。ニャッタン橋工事ではプロジェクトの総括を務める梶村さんは、地元の人たちの思いについてこう語ります。

「ベトナムでは日本製品の品質の高さは信仰に近いものがあり、橋建設の技術に対しても大きな期待があります。ハノイ市の北側の玄関口に当たるニャッタン橋の建設は、そうした期待に応えるもので、その実現した様子を日々、現地の人々に感じてもらえればと思っています。」

今回のプロジェクトは日本の土木技術の移転も視野に入れています。ニャッタン橋を支える5つの塔の基礎工事には、「鋼管矢板(こうかんやいた)基礎工法」が採用されています。この工法は日本で開発されたもので、従来の工法よりも工期が短縮でき、地震や軟弱地盤に強い利点があります。ベトナム政府はこの工法をニャッタン橋建設で初めて採用しましたが、ベトナム側の期待は大きく、今後ベトナムの標準的工法にしようとしています。

工事は現地で大きな雇用を生み出しています。その規模は1日当たり1,000人以上に及び、ハノイ市内だけでなく周辺地域からの出稼ぎ労働者も数多くいます。梶村さんは現地の人々との仕事には大きな意味があると語ります。

「日本企業が受注しているといっても、日本人の技術者や事務職員はごく限られており、その数は全体で50人程度です。現地人の技術者や事務職員はその5倍以上に及びます。ベトナム人の技術者や職員はまだ若い。日本人との共同作業を通じて、大きく成長してくれるものと期待しています。」

梶村さんは、これまで長くODA案件で途上国での業務に当たってきましたが、あくまで土木技術者としての義務と責任を果たすことに専念してきたといいます。

「現在、海外で働く日本人はごく普通の人たちです。外国語が堪能かどうかは別問題です。もちろん、大きな役割を担うので技術的に成熟していることは必要です。普通の日本人が、現地の人たちとチームを作り、目標の達成に向けて作業を積み重ねる。それは国内のプロジェクトと何ら変わりません。途上国での生活は日本ほど気楽でないのは確かです。でも、悲壮感を持って仕事をしている人を私は知りません。国内と同じように、色々と苦労して、また楽しみながら仕事をしているのです。」

援助であるかどうかにかかわらず、日本人としての仕事を全うし、現地の人々の期待にしっかりと応える。職人のプロ意識と、できあがった橋の完成度の高さこそが日本というブランドをベトナムの人々に強く印象づけるものとなるのです。

ニャッタン橋の完成は2014年12月の予定。別名「日越友好橋」と呼ばれるこの橋は、日本とベトナムの友好のシンボルとなっていくことでしょう。

※ 5連の斜張橋とは、主橋部が5基の主塔から成り、それぞれ斜めに張ったケーブルを橋桁に直接つなぎ支える構造の橋

ホン河下流から眺める建設中のニャッタン橋(写真:梶村雄佑)

ホン河下流から眺める建設中のニャッタン橋(写真:梶村雄佑)


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