国際協力の現場から 11
校内清掃や子ども会活動で学校を改善する小学生たち
~ イラクを支援するセーブ・ザ・チルドレン・ジャパン ~
子ども総会で学校改善活動に参加することの大切さを訴えた少女たちと西本さん(写真:セーブ・ザ・チルドレン)
イラクでは、過去の長年にわたる紛争の影響と、未だ不安定な治安情勢や財政的な困難から教育予算が十分に分配されず、子どもたちの学習環境は、未だ整備が不十分なままです。国際NGOであるセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンでは、2010年から外務省の日本NGO連携無償資金協力の助成を受けながら、イラク南部のバスラ県で「コミュニティ参加型の学校修復・運営改善事業」を展開しています。
大きな課題は校舎の不足です。一つの校舎を2校から3校の学校で使っているのです。2校の場合は、午前と午後に分けて、それぞれの学校が授業を行います。1クラスはおよそ50人。教室が足りず仮設テントで学んでいる生徒たちもいます。校舎の老朽化が進み、壊れている設備も数多くありますが、予算が十分ではないために修理もままならない状況にあるのです。
プロジェクトでは、バスラ県の教育局と連携しながら、県内の22施設を共同利用する40校を対象に、学校運営委員会の立ち上げを後押ししました。委員会は、校長や教職員、保護者、地域住民などの関係者によって構成され、学習環境の問題点を洗い出し、整備を行ってきました。校内に花壇を整備したり、学校設備の修復工事を実施するなかで、これまで希薄であった同じ施設を利用する学校間の協力が促進され、イベントの共同実施や用具等の共同管理も始まりました。
現地で活動するセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンのプログラムマネージャー、西本敦子(にしもとあつこ)さんはプロジェクトの意義をこう語ります。「イラクでは学校の運営について教師や保護者が自主的に話し合い、活動する習慣がありませんでした。限られた施設を有効に使いながら、子どもたちの教育環境を改善するためには、当事者自らが運営にかかわる必要があります。課題を発見し、改善計画を立て、実行し、その成果を検証する。この過程を通じて関係者の間で学校の問題に対する意識が共有され、設備の修繕を行えばその成果を実感することができるようになります。」
プロジェクトのもう一つの意義は、子どもの権利である、「子どもの参加」を促進していることです。学校環境改善において、子どもたちを単なる受益者ではなく、パートナーとしてとらえるのです。対象校40校に「子ども会」が設置され、子どもたちが自ら意見を発表したり、大人や他の子どもたちに対してメッセージを伝えたり、子ども自身が学習環境改善などの活動を行う仕組みを作りました。子どもたちは、「子ども会」活動として、花壇づくりや演劇、読書、ポスター制作などを行っています。
「イラクの小学校の就学率は約85%と極端に低くはありません。それでも、地域によっては、家計が苦しくて、または、女の子だからという理由で、学校に来られない子どもたちもいます。不登校になってしまった子が、あるきっかけで子ども会の活動に参加して、学校が楽しくなって通えるようになったという声を聞いたときは、とてもうれしかったですね。」
清掃キャンペーンでは、子どもたち、教員、学校運営委員、地域住民が集まり、学校の清掃活動を行いました。施設を維持管理していくには、子どもたち自身が校舎に愛着を持ち、大切に使うことが必要です。しかし、イラクをはじめとする諸外国では、子どもによる校内清掃は一般的ではありません。
「日本の学校の習慣である校内清掃を実践した背景には、紛争以前に培われた日本への信頼があります。第二次世界大戦後、焼け野原から世界有数の経済大国へと成長した日本から学びたいという気持ちがイラクの人々にはあると強く感じます。」
今年(2013年)はイラク戦争開戦から10年目を迎える節目の年です。戦後復興から自立再建への過渡期にあり、教育を通じた人づくりはイラク再建と発展には不可欠です。西本さんは、治安上の制約から現地を訪れることができる機会は限られていますが、効果的な支援が行えるよう努めています。「プロジェクトの成果の一つは、県の教育局の職員自らが教師への研修を行えるようになったことです。外国による援助はいつか終了します。バスラ県の人々が、このプロジェクトで得たことを継続し、県内のより多くの子どもたちのために、そして、他の県の模範となれるよう活動を続けていきたいですね。」
子ども会作成、学校改善の啓発用ノート。「きれいにしよう。イスラムもそう教えている」と校内清掃をよびかけるメッセージも(写真:セーブ・ザ・チルドレン)