国際協力の現場から 08

考えて、試行錯誤しながら自分たちの制度を手に入れる
~ タンザニア、地方政府改革への支援 ~

ムプワプワ県のファシリテーター(村落普及員)と下田さん(写真:下田道敬)

ムプワプワ県のファシリテーター(村落普及員)と下田さん(写真:下田道敬)

アフリカのタンザニアでは、独立以来進めてきた独自の開発政策が行き詰まり、その結果、援助国・機関の主導する様々な改革を受け入れたもののなかなか成果が上がらず、試行錯誤を続けてきました。そうした中でタンザニアは、1990年代終わりから地方分権化に着手します。しかし、この改革も容易ではなく、同国は日本に技術支援を求めました。2002年、JICA国際協力専門員の下田道敬(しもだみちゆき)さんは調査のために現地政府を訪れました。

「まず、こんな急激に地方分権化を進めて大丈夫なのか?と率直に思いました。また、分権化の会議に参加してみると、タンザニア政府側は援助国のいいなり状態。自国の根本に関わる問題なのに自分たち自身で考えて進む道を決めることもできないこと自体が最大の問題と感じました。」

下田さんは地方自治庁の幹部に日本の経験を紹介しました。日本は明治維新後、欧米の制度を学びつつ、国民的な議論を重ね、試行錯誤しながら自国に合った「和洋折衷」の行政システムを構築してきました。また、第二次世界大戦後、経済開発を進めるかたわら地方自治体の能力を育み、2000年にようやく本格的な地方分権化に踏み切った、「ゆっくりではあるが着実な」改革の経験を持ちます。下田さんは、「あなた方が自ら考え、議論し、自分たちの地方行政制度を創り上げるための助けになるような研修をしよう」と提案しました。

2002年から始まった通称「大阪研修」では、州と県の地方行政長官が参加。日本の行政の歴史を学んだ上で、大阪府茨木市や大分県、熊本県水俣市を訪れて、現地で行政サービスや住民とのかかわりの実態を視察しました。下田さんは、地方自治体と住民が力を合わせた施策づくりが可能であると感じてもらうことを心がけました。

大分県を訪れたときのことです。同県では貧しい地域でも土地に合った産品を住民自らが育み、行政が応援する「一村一品運動」に取り組んできました。ある地域では、農家の母親たちが、かりんとうを商品化して大きな売上げを達成しました。そのグループは、自分たちも真似したいとやって来る周辺地域の人たちにノウハウを惜しみなく与えました。その結果、自分たちの売上げが大きく減ってしまうにもかかわらずです。

研修生たちは「それで幸せなのですか?」と尋ねました。そのときグループの女性リーダーは、「自分たちだけが儲けるよりも、みんなでちょっとずつ良くなるほうが幸せです」と答えたのです。下田さんが「大分県の精神は “Not I, but we.(自分がではなく、みんなで)”なんですよ」と説明すると、共同体を大切にするタンザニア人たちはその言葉に大きくうなずいたといいます。

大阪研修が終わると、研修生たちから「自分たちの学んだことを同僚にも伝えていきたい」という声が上がり、すべての州で日本での学びを共有するためのセミナーが、タンザニア人自らの手で開かれました。

各地ではそれらの学びをもとに、次第に独自の試みが芽生えてきています。たとえば、ある県では安定財源を確保するために固定資産税の徴収に取り組み始めました。気候風土に合わないのに主食のトウモロコシばかり作ってきた地域に、その土地に合った作物はほかにないのかという観点から、ソルガム(穀類の一種)やサツマイモを奨励して農民の現金収入を増やした県もあります。

そして、大阪研修の参加者たちのイニシアティブによって、全国すべての州・県の地方行政長官が一堂に会して地域の成功事例を共有するとともに、課題を話し合うための大阪同窓会が設立されました。

2013年からは新しい世代の地方行政長官たちに向けた新たな大阪研修も始まりました。下田さんは、タンザニアの地方行政を支援するJICAの取組は、欧米ではなく日本だからこそできる「寄り添い型」の支援モデルだと考えています。

「予算や人材が極端に限られている途上国政府は、地域住民の主体的取組をもっと重視してこれを後押しし、みんなで自分たちの地域を良くしていくしかないと思っています。また、大阪同窓会のように地方行政のトップが集まり、課題を共有できれば、国に対しても具体的な政策提言を行っていけるでしょう。自身で考え創り上げるというタンザニアの成果は、きっと他の開発途上国にも応用できると信じています。」

地方自治政府高官と職員とともにコーヒーの苗木を視察する下田さん。村人も参加。(写真:下田道敬)

地方自治政府高官と職員とともにコーヒーの苗木を視察する下田さん。村人も参加。(写真:下田道敬)


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