国際協力の現場から 07

ルワンダ人自身が創る情報通信技術の戦略計画の実施
~ 国づくりとビジネスの両面からICTの基盤づくりを支援 ~

山中さんとkLabに集った学生やICT起業家たち(写真:山中敦之)

山中さんとkLabに集った学生やICT起業家たち(写真:山中敦之)

民族間の対立によって1994年に大量虐殺が起きたルワンダ。悲惨な歴史のイメージが強い同国ですが、近年は政治的に安定し、治安もよく清潔な国として「アフリカの奇跡」と呼ばれています。世界銀行の調査でもアフリカの中で3番目にビジネスがしやすい国とされ、年率8%前後の順調な経済成長を遂げています。

1998年、内戦のため人材は不足し基幹インフラがほとんど破壊された中で、ルワンダ政府は、国を一から復興させる手だてとして戦略的にICT(情報通信技術)を使うことを決定しました。そして、2000年から2020年までの5か年ごとの国家ICT戦略・計画が、ルワンダ開発の一つの柱として大統領の強いリーダーシップの下で実施され、現在ではICTインフラ整備においては他の途上国もうらやむ発展を遂げています。

JICA専門家・山中敦之(やまなかあつし)さんは、2009年3月から1年5か月にわたり、ルワンダ政府の第3次国家ICT戦略計画の策定を支援し、その後、2011年7月から1年5か月間、その計画の実施に協力してきました。策定段階では、ICTをどのように活用できるか、政府、企業、NGO、教育機関などの関係者が集い、アイデアを出し合いながら方向性を検討しました。山中さんはその戦略計画支援アドバイザーです。

「ルワンダ人は本音で話し合うことがあまり得意ではありません。一から話し合って政策方針を決めるという方法には膨大な時間がかかることは分かっていました。でも、ルワンダ人自身がオーナーシップを持ち、自国の課題に主体的に取り組んでほしかったから、あえてこの方法を選んだのです。策定には約1年かかりました。」

2000年にICT政策を強化し始めた当時、ルワンダは、国外の援助機関や民間企業の提案を受け入れました。しかし、ルワンダ人自身の要望がうまく戦略に反映されていなかったため、実施する段階になると様々な問題が生じました。だからこそ、山中さんはルワンダ人主導の戦略・計画立案にこだわったのです。

ルワンダ政府はICTの普及には民間企業の成長が欠かせないと考え、2011年にICT商工会議所を設立しました。そして、イノベーションセンターである「kLab(ケイラブ)」※が、政府、ICT商工会議所、JICAの共同で立ち上がったのです。ここは、起業を目指す若者たちや青年起業家たちがICTを使ったサービスや製品を開発するのを支援する施設です。

彼らの中からは、自国のビール会社や薬局の在庫管理システム、データベースを組み込んだウェブサイト、クラウドソーシングのソリューション作成などの実績を上げている起業家が生まれています。また、携帯電話が普及しているルワンダでは、PCより携帯を使ったアプリやシステム開発が進んでいて、それらを国内の企業に提供しています。

任期中、山中さんはルワンダのICTの潜在力について日本に売り込んだり、ルワンダのICT商工会議所のメンバーの日本での研修を支援したりしながら、日本の企業との橋渡しにも力を入れてきました。その努力が実り、現在、JETROの支援を受け、日本企業がルワンダのIT会社にスマートフォンのアプリ制作を発注するケースも誕生しています。真面目で、時間を守り、変更にも柔軟に対応するルワンダ人は、ビジネスを行っている日本企業からは、高く評価されています。

「アフリカは今、市場として急速に成長しています。そして、日本のブランドはアフリカで依然高い信頼があります。だからこそ、今、日本企業にアフリカとの間でウィンウィンなビジネス関係を構築してほしいのです。特に、JICAが支援し日本との関係性が深いルワンダを拠点にアフリカ諸国にビジネス展開する。これは非常に有効だと思いますよ。」(山中さん)

日本の支援によって経済成長に拍車がかかり、その関係を足がかりに日本企業がアフリカに進出する。ルワンダのプロジェクトは、ODAを通じて日本と支援を受ける国がウィンウィンの関係を築く大きな可能性を示しているのです。山中さんの活動はルワンダで高い評価を受けています。

※ kは首都Kigali(キガリ、ラボのある場所)のイニシャルであり、knowledgeのkでもある。

ルワンダ大統領(左から3人目)と山中さん。TICAD VのブースでルワンダICT商工会議所がICTを産業の一つとして紹介(写真:神戸情報大学院大学)

ルワンダ大統領(左から3人目)と山中さん。TICAD VのブースでルワンダICT商工会議所がICTを産業の一つとして紹介(写真:神戸情報大学院大学)


<< 前頁   次頁 >>