国際協力の現場から 05
地域に合った農作物を農民たちと一緒に育む
~ 農業普及員への研修が始まったザンビア ~
マスタートレーナーと研修教材を制作する佐々木さん(写真:佐々木剛一)
アフリカのザンビアでは、雨季の雨水を利用して、主食となるメイズ(トウモロコシ)を栽培している小規模農家が全農家の85%を占めています。しかし、種や肥料を購入する資金は限られ、降水量によって収穫が大きく左右されるので、生産性の低い状態が続いています。
ザンビアの農業畜産省は、それぞれの郡をキャンプと呼ばれる地域に分割し、各キャンプに農業普及員を配置しています。しかし、農業普及員は十分な研修を受けないまま現地に派遣されてきました。そして、郡や州、農業畜産省からのフォローもほとんどありませんでした。
このような中、JICAは、ザンビア政府の要請を受け、2002年6月から同国の小規模農家の状況を改善する支援を開始。2009年12月からは「農村振興能力向上プロジェクト」を開始しています。その重要なプログラムの一つが農業普及員の研修です。
佐々木剛一(ささきごういち)さんは、青年海外協力隊員として2000年からザンビアでの農業支援に関わり始めました。現在は上記プロジェクトの農業専門家として、農業普及員の研修の計画から実施、教材づくりをサポートしています。
「農業普及員は、首都でリクルートされると研修もほとんど受けずに現地に派遣され、何のフォローもないまま放置されてきました。農業畜産省、州、郡、そして農業普及員までの連携がうまくいかないので、国は小規模農家の実態を把握できず、一方の普及員は省庁が持つノウハウを活用できずにいます。この国の農業を改善するためには、タテの連携を強化しなければなりません。」
2012年からは、全国で現職の農業普及員を対象とした研修が始まりました。農業普及員が担当する地域に合った作物を農民とともに考え、特定し、栽培にチャレンジしていく内容です。各州での研修を計画し、研修の指導員を育成するマスタートレーナーも組織されました。
この研修を受けたジョセフィン・ムレンガさんは、農業普及員として仕事を始め、その後、農業研修所に転属となりました。彼女は担当する地域でキノコの栽培が適していると考えていました。JICAの本邦研修にも参加し、日本の農家からキノコの栽培法について学びました。ザンビアに帰国した後、地域の農家を集め、キノコ栽培の研修を自ら実施。現在では、農家は栽培に成功し、キノコは北部の都市カサマで売られるようになりました。
また、北部のカプタ郡では質の高いコメを水稲栽培できる環境がありました。郡の職員たちは、農業普及員、地元農家と共に、本格的なコメ栽培を開始。郡では収穫したコメを「カプタ米」として州の農作物品評会に出品しました。カプタ米は見事、最優秀賞を獲得、現在では、首都ルサカのスーパーマーケットでもカプタ米のブランドで売られるまでになりました。
2012年9月、ザンビア政府は約300名に及ぶ農業普及員を新規採用しました。2011年9月に発足した現政権が主導する雇用創出施策の一環です。農業畜産省は、マスタートレーナーが直接指導を行う新人研修を実施。同省が新人研修を実施するのは1980年代後半以来のことです。4日間の新人研修では、国家公務員としての基本的な知識、農業普及員の役割などについて学びます。この新人研修の実施は、農業普及員のレベルを向上させ、農業を改善したいという同省の姿勢の現れといえるでしょう。
佐々木さんは、農業普及員たちへの期待をこう語ります。
「ザンビアは地域ごとに気候や風土が違うのに、栽培するのはメイズばかりです。農業普及員が地域に適した作物を農民と共に発見し、地域のビジョンを打ち出せるようになってほしいと思います。どんな仕事にも課題はあります。大切なのは課題にどうやって向かい合うかです。困難な道のりですが、がんばってほしいですね。」
農業試験場の研究員によるレモン苗木の移植実演。普及員の研修の場で(写真:佐々木剛一)