過去に共産主義体制にあった中・東欧、旧ソ連の欧州地域の多くの国々では、その後民主化と自由化を達成し、現在は民主的政権の下で市場経済に基づいた経済発展に取り組んでいます。日本は、これら地域および欧州全体の一層の安定と発展のため、また普遍的価値(人権、民主主義、市場経済、法の支配)を共有できる関係を築くため、市場経済化、経済インフラの再建および環境問題などへの取組に対する支援を行っています。
< 日本の取組 >
西バルカン諸国(注20)は、1990 年代に発生した紛争の影響で改革が停滞していました。しかし、各援助国や国際機関などの支援があり、またそれぞれの国が自身で改革のための努力を行ったことにより、復興支援を必要とする段階を卒業しました。現在は持続的な経済発展に向けた支援が必要な段階にあります。日本は2004年にEU(欧州連合)と共同で開催した西バルカン平和定着・経済発展閣僚会合で確認された「平和の定着」、「経済発展」、「域内協力」の3本柱を援助の重点分野として支援を展開してきました。引き続き、特に「平和の定着・民族融和(異なる民族間で争いが起きないこと)」および「環境・気候変動問題への対策」を重点方針として支援しています。
旧ソ連諸国であるウクライナやモルドバは、ロシアとEUの間に位置するという政治・外交上での地理的な重要性を持っています。これら諸国の安定と持続的な発展は、欧州全体の安定にとってなくてはならないものです。民主主義が根付き、市場経済を確立させるための努力を支援しています。
日本は、欧州地域内の経済発展の格差を踏まえ、EUに加盟した国に対しては、援助を卒業したものとして、その支援を段階的に縮小させるとともに、ドナー(援助国)として欧州地域の後発国に対する援助に一層積極的になることを促していきます。一方、西バルカン地域やウクライナ等の後発国に対しては、各々の国の経済水準も考えながら、適切な支援を実施していきます。また、どの国に支援を行う場合にも、各援助国および国際機関等の動きに注意を払いながら、日本の知識と経験を活かして、より成果を重視した効率的かつ効果的な支援を行っていくことに努めます。
また、かつて日本のODA対象国であった国々の中には、EUへ加盟する際に日本のODA対象国から外れ、援助国としての国際的な役割を担い始めている国もあります。日本は、これらの国々と援助国としての経験を共有するための取組も行っています。
注20 : 西バルカン諸国:アルバニア、クロアチア、コソボ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、マケドニア旧ユーゴスラビア共和国、モンテネグロ
●ボスニア・ヘルツェゴビナ
「IT教育近代化プロジェクト フェーズ2」
技術協力プロジェクト(2010年8月~実施中)
長年にわたって民族間の対立が続いてきたボスニア・ヘルツェゴビナでは、紛争終結後17年経過した今でも、民族間に生じた不信感が根強く残っています。民族同士の和解に向けた教育統合は2002年に開始されましたが、未だに民族ごとに異なるカリキュラムの下、異なる教室で、異なる教科書を使って授業が行われている状況です。
このような状況を受けて、日本は、2006年に旧ユーゴスラビア屈指の名門校として知られていたモスタル高校において、「モスタル高校IT教育近代化プロジェクト」を開始しました。日本の高校で使われているIT教育の教科書を基に、現地語の新しい教科書を作成し、ボシュニャック系とクロアチア系の二つの民族の生徒が同じカリキュラムで、共にITの授業を受けられるようにするというものです。この活動の評判が広がり、2008年には「IT教育近代化プロジェクトフェーズ1」として、対象をセルビア系にも広げるとともに、対象校を全国18の高校に拡大することとなりました。3民族それぞれの民族的感情や自尊心に配慮し、宗教的立場を尊重しながら進めていくのは容易ではありませんが、2010年に始まったフェーズ2では、同国内のすべての普通科高校において、生徒が民族の枠を越えてIT教育を受けられるようにするための共通カリキュラム導入に向けた取組を行っています。(2012年12月時点)
生徒たちが民族の分け隔てなく学ぶ和やかな授業の風景(写真:JICA)