開発途上国では、その国の文化の振興・復興に対する関心が高まっています。たとえば、その国を象徴するような文化遺産は、その国の人々の誇りであるばかりでなく、観光資源として周辺住民の社会の発展に有効に活用できます。しかし、開発途上国には、危機にさらされている文化遺産も多く、そのような文化遺産を守るための支援は、人々の心情に直接届く上に、長期的に効果が持続する協力の形ともいえます。また、これら人類共通の貴重な文化遺産の保護は開発途上国のみならず、国際社会全体で取り組むべき課題でもあります。
< 日本の取組 >
日本は、文化無償資金協力*を通じて、1975年より開発途上国の文化・高等教育の振興、文化遺産の保全のための支援を実施しています。具体的には、これまで開発途上国の文化遺跡、文化財の保存や活用に必要な施設、その他の文化・スポーツ関連施設、高等教育・研究機関の施設の整備や必要な機材の整備を行ってきました。こうして日本の文化無償資金協力で整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培う効果があります。近年では、「日本の発信」の観点から、日本語教育分野の支援にも力を入れています。
2011年度には、モンゴル、ラオス、ペルー、エジプトの文化遺産に関連した教育・研究・観光施設の整備のための支援を行いました。この支援はこれらの国々の貴重な文化遺産の保存・研究、展示を通じ、人々がこうした遺産に親しむ機会を提供するとともに、観光産業を通じた経済社会開発への貢献も目的としています。
また、開発途上国の人材育成を目的として、カンボジア、スリランカ、ドミニカ共和国、パナマ、ブラジル、セルビア、ブルガリア、ルーマニア、コンゴ民主共和国において、高等教育レベルを中心に日本語教育、体育、音楽教育等幅広い分野での支援を行っています。このほかに、コロンビア、キューバのラジオ・テレビ局に対する番組制作・放送分野の支援などを行っています。
青年海外協力隊員の指導の下、習字を習うモンゴルの子どもたち(写真:木戸久美子)
日本は、国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))に設置した「文化遺産保存日本信託基金」を通じて、文化遺産の保存・修復作業、機材供与や事前調査などを行っています。特に途上国の人材育成には力を入れており、国際専門家の派遣や、ワークショップの開催等により、技術や知識の提供による協力も実施しています。ほかにも、いわゆる有形の文化遺産だけでなく、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、語り伝えなどの無形文化遺産についても、同じくUNESCOに設置した「無形文化遺産保護日本信託基金」を通じて、継承者の育成や記録保存などの事業に対し支援しています。
用語解説
●エチオピア
「メケレ大学日本語学習機材整備計画」
草の根文化無償資金協力(2010年11月~2011年11月)
エチオピア有数の大学であるメケレ大学は、2008年にエチオピア初となる日本語講座を開講しました。この日本語講座には、日本の経済、技術などへの関心の高まりに伴い、受講希望が多数寄せられましたが、大学には講座専用の教室、設備がなく、一部の学生しか受講できなかったほか、教材も不足している状況でした。そこで、草の根文化無償資金協力を通じて日本語講座のためにLL教室や日本語教材の整備を支援しました。その結果、支援実施前と比べ、3倍以上の学生が、充実した環境で日本語講座を受講できるようになりました。
2012年3月には、この日本語講座においてエチオピアで初めての日本語弁論大会が開催され、講座代表の学生等、20名が熱弁をふるいました。
メケレ大学では、日本人研究者等の協力によりエチオピアの文化遺産の保存・研究や日本文化の紹介も行われています。このようなメケレ大学に対する日本語教育支援によって、エチオピアの人材育成への貢献とともに、日本に関する文化や社会などの知識の増大、日本との交流促進が期待されます。
整備した日本語教室にて講座優秀学生が日本語スピーチを行う様子(写真:JICA)