(4)政策立案・制度整備

開発途上国の持続的成長のためには、インフラ(経済社会基盤)の整備とともに政策の立案・制度の整備や人づくりが重要です。汚職を撲滅し、法・制度を改革し、行政を効率化・透明化して地方政府の行政能力を向上させるなどの支援が必要です。

< 日本の取組 >

政策立案や制度整備への支援の一環として、法制度整備支援を進めています。法制度整備は良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく自助努力による国の発展の基礎となるものです。この分野への支援は、日本と相手国の「人と人との協力」の代表例であり、日本の「顔の見える援助」の一翼を担っています。

また、これにより開発途上国の法制度が整備されれば、日本企業がその国で活動するためのビジネス環境が改善されることとなり、制度的な基盤を整えるための重要な取組となります。法制度整備への支援は、日本のソフトパワーによるものであり、アジアの成長力の強化を下支えするものです。

さらに、民主的発展の支援のために、法制度、司法制度、行政制度、公務員制度、警察制度などの各種の制度整備や組織強化のための支援、民主的な選挙を実施するための支援、市民社会の強化、女性の地位向上のための支援などの取組を行っています。汚職の防止や統計能力の向上、地方行政能力の向上も支援しています。

国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)を通じて、刑事司法分野の様々な課題について、アジア・太平洋地域を中心とした開発途上国の刑事司法実務家を対象に、研修・セミナーを実施しています。

また、特定のプロジェクトだけではなく、開発途上国の財政に資金を投入する政策立案・制度改善も支援しています。

国内治安維持の要となる警察機関の能力向上については、制度づくりや行政能力向上への支援など人材の育成に重点を置きながら、日本の警察による国際協力の実績と経験を踏まえた知識・技術の移転と、施設の整備や機材の供与を組み合わせた支援をしています。警察庁では、インドネシア、フィリピンなどのアジア諸国を中心に専門家の派遣や研修員の受入れを行っています。これらを通して、民主的に管理された警察として国民に信頼されている日本の警察の姿勢や事件捜査、鑑識技術の移転を目指しています。

マレーシア警察庁警察科学捜査研究所において、マレーシア国家警察の科学捜査能力向上を目指すため、指紋採取や鑑識の技術指導を行っている日本人専門家(写真:菅原アラセ/JICA)

マレーシア警察庁警察科学捜査研究所において、マレーシア国家警察の科学捜査能力向上を目指すため、指紋採取や鑑識の技術指導を行っている日本人専門家(写真:菅原アラセ/JICA)

●カンボジア

「法制度整備支援プロジェクト」
技術協力プロジェクト

2011年12月21日、カンボジアで民法が施行されました。この法律は12年にわたる日本の技術協力により起草されたもので、記念式典においては、起草作業の中心となった森嶌昭夫(もりしまあきお)名古屋大学名誉教授ら多くの日本人関係者に対して友好勲章が贈られました。

カンボジアでは1970年代後半のポル・ポト政権時代に、法律家を含む知識人が大量虐殺され、法律関係の文献もほとんどが焼失し、人材も制度もほぼ皆無の状態となりました。こうした状況を受け、内戦後、まずは国連の監督の下、憲法の制定が進められました。続いて基本法典の整備が各国・機関の支援により始まり、国の治安に関わる刑法、暮らしに関わる民法が整備されることとなりました。このとき、隣国ベトナムで行われた日本のODAによる法制度整備支援の評判を耳にしたカンボジアは、日本に民法の起草支援を依頼したのです。

1999年、日本は「民法」の整備に取りかかりました。当時、欧米先進国が行う法制度整備支援は、外国人アドバイザーが、簡単な調査の後、短期間で法案を起草するというものでした。一方日本の援助は、法律が相手国社会で機能するものとなるよう、起草や運用のための人材育成を行い、相手国の法曹人材と協議しながら、共同で起草作業をするという、独自の方法をとりました。具体的には、法学者や裁判官、弁護士や法務省の職員などを派遣し、起草だけでなく、法案成立のための議会対応支援なども含め、12年間という長い協力を行いました。

また、この民法が適用されることは、日系企業にとっても利点があります。この民法は、日本の法律をモデルに作成されているため、類似する制度が多く、日本語版も存在するため、日系企業がカンボジアの法律を容易に知ることができるからです。民法の適用により、投資環境が整い、日系企業の進出などによって、カンボジアがますます発展することも期待されます。

カンボジアの民法、民事訴訟法(写真:JICA)

カンボジアの民法、民事訴訟法(写真:JICA)


<< 前頁   次頁 >>