開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多いため、女性は様々な面で脆弱(ぜいじゃく)な立場に置かれています。さらに、世界の貧困層の約7割は女性であるといわれています。
持続的な開発を実現するためには、ジェンダー平等の推進と女性の地位向上の推進が不可欠であり、そのためには男女が等しく開発へ参加し、等しくその恩恵を受けることが重要となります。
< 日本の取組 >
日本は、2003年に改定されたODA大綱において、「男女共同参画の視点」を取り入れ、開発途上国の女性の地位向上に取り組むことを明確にしました。また、ODA中期政策においては、開発に取り組むにあたって反映すべき理念として「ジェンダーの視点」が規定されました。
1995年に、女性を重要な開発の担い手であると認識し、開発のすべての段階(開発政策、事業の計画、実施、モニタリング、評価)に女性が参加できるよう配慮していく考え方である「開発と女性(WID)イニシアティブ」を策定しました。2005年には、WIDイニシアティブを抜本的に見直し、援助対象社会の男女の役割やジェンダーに基づく開発課題やニーズを分析し、持続的で公平な社会をめざそうとするアプローチ「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」を新たに策定しています。
従来のWIDイニシアティブは、女性の教育、健康、経済・社会活動への参加という3つの重点分野に焦点を当てていたことに対し、GADイニシアティブは、これに加え、男女間の不平等な関係や、女性の置かれた不利な経済社会状況、固定的な男女間の性別役割・分業の改善などを含む、あらゆる分野においてジェンダーの視点を反映することを重視して策定されています。また、開発におけるジェンダー主流化*を推進するため、政策立案、計画、実施、評価のすべての段階にジェンダーの視点を取り入れるための方策を示しています。さらに、ODA大綱の重点課題である貧困削減、持続的成長、地球的規模問題への取組、平和の構築、それぞれについてのジェンダーとの関連、そして、これらに対する日本の取組のあり方を具体的に例示しています。
日本は、2011年に活動を開始した、ジェンダー平等と女性のエンパワメント(自らの力で問題を解決することのできる技術や能力を身につけること)のための国際機関UN Womenを通じた支援も実施しており、2011年度には約44.7万ドルの拠出を行い、女性の政治的参画、経済的エンパワメント、女性・女児に対する暴力撤廃、平和・安全分野の女性の役割強化、政策・予算におけるジェンダー配慮強化等の取組に貢献しています。
用語解説
●タイ
人身取引被害者保護・自立支援促進プロジェクト
技術協力プロジェクト(2009年3月~実施中)
タイにおいては、急速な経済発展や情報流通の高度化に伴い、人身取引が多数発生しており、その被害者の多くは女性や子どもです。タイは、日本・アメリカ・欧州・中近東諸国などへの人身取引被害者の「送出国」、メコン地域から連れてこられた被害者を他国へ移送する「中継国」、そして周辺国からの被害者の「受入国」となっています。日本はそうした被害者の保護・自立支援を促進するため、2009年より社会開発・人間安全保障省を中心として、国家警察、検察庁、法務省、労働省などの関係省庁や民間団体(NGO)で構成される「多分野協働チーム(MDT)※」の機能・活動強化を支援しています。MDTは人身取引の被害者に対し、救出から、被害者認定、教育・職業訓練、社会復帰までを一貫して支援するチームで、具体的には、ワークショップや研修の実施、ガイドラインの作成、被害者支援計画の策定、人材育成などにより、関係者の能力強化を図っています。また、被害者で結成するピアグループ(共通の経験や知識を持つ人々のグループ)の活動も支援していて、その情報に基づいて、MDTが被害者の視点でサービスを提供できるように努めています。
2012年度からは、タイでの経験を踏まえ、周辺国でも体制強化を行うため、ミャンマーで人身取引被害者の保護と自立支援に携わるソーシャルワーカーの能力強化、ベトナムで人身取引の予防と被害者支援を目的としたホットラインの運営体制の整備支援を実施しています。人身取引は課題が複雑であることから、各国での様々なアプローチを通じて得られた知識・経験や教訓を域内のネットワークを通じて共有を図り、地域全体の総合力を高めていきます。(2012年12月時点)
※ 多分野協働チームMDT:Multi-Disciplinary Team
保護施設で職業訓練を受けた被害者たちが、街中でラーメンを作って販売(写真:JICA)
●ネパール
ジェンダー主流化及び社会的包摂促進プロジェクト
技術協力プロジェクト(2009年2月~実施中)
多言語・多民族国家のネパールでは、2006年に11年続いた民主化を求める内戦が終わり、和平合意が結ばれました。暫定憲法では、紛争の原因となった特定の民族やカースト、女性が開発・社会サービス・教育・就労などの面で社会的に排除されたという過ちを繰り返すことがないよう、ジェンダー主流化および社会的包摂※(GM/SI※)を推進する政策を導入しています。たとえば、新しい国づくりの政治・行政プロセスに、女性、低カーストや少数民族などの参加を促すとともに、地方行政レベルでの社会的弱者支援予算の確保、行政サービス実施体制の構築を最大の課題として取り組んでいます。
日本は、中央政府および地方の2郡(シャンジャ郡とモラン郡)においてGM/SI視点に立った政策の実施を支援するための協力を開始しました。これまでに郡の開発委員会、女性開発事務所や市役所等において、GM/SIについて正しい理解と認識を促すことを目的とした研修を実施しました。またGM/SI視点に立った開発計画の計画・実施・進捗(しんちょく)状況の把握を行う委員会を設置し、その仕組みを整備するとともに、対象2郡の村落において試験的にプロジェクトを実施しています。今後、GM/SI視点に立った現場レベルにおける施策の策定と実施、そして地方レベルでの経験や教訓が中央政府の政策・施策の改善に活かされることが期待されます。(2012年12月時点)
※ 社会的包摂:異なる社会や文化的背景、障害を含む個人的特性などを理由にして起こる排斥や区別を排し、誰もが対等な関係でかかわり合い、社会や組織の一員として参加できる機会を提供すること。特に、社会的弱者や社会から除外された集団に対して参加を容易にさせること。
※ GM/SI:Gender Mainstreaming and Social Inclusion
女性と社会的に差別された人々への理解と関心を高める住民主催の研修に参加した人々(写真:JICA)