水と衛生の問題は人の生命にかかわる重要な問題です。水道や井戸などの安全な水を利用できない人口は、2010年に世界で約7億8,000万人、下水道などの基本的な衛生施設を利用できない人口は途上国人口の約半分に当たる約25億人に上ります。(注5) 安全な水と基本的な衛生施設が不足しているため下痢を引き起こし、年間150万人以上の5歳未満の子どもが命を落としています。(注6)
< 日本の取組 >
2006年に開かれた第4回世界水フォーラムで日本は「水と衛生に関する拡大パートナーシップ・イニシアティブ(WASABI)」を発表しました。日本は、水と衛生分野での援助実績が世界一です。この分野に関する豊富な経験、知識や技術を活かし、(1)総合的な水資源管理の推進、(2)安全な飲料水の供給と基本的な衛生の確保(衛生施設の整備)、(3)食料増産などのために水を利用できるようにする支援(農業用水など)、(4)水質汚濁を防止(排水規制)・生態系の保全(緑化や森林保全)、(5)水に関連する災害の被害を軽減(予警報システムの確立、地域社会の対応能力の強化)など、ソフト・ハード両面で全体的な支援を実施しています。
2008年の第4回アフリカ開発会議(TICAD(テイカッド) IV)では、(1)650万人に対する安全な飲料水の提供を目標に給水施設や衛生施設の整備、(2)5,000人の水資源管理に関する人材育成などの支援策、(3)「水の防衛隊(W-SAT)」*の派遣を表明しました。その結果、(1)2012年3月末までに、水と衛生分野において約985万人が受益する有償・無償資金協力が合意されました。(2)2010年末までに13,064人に対する人材育成が実施されました。(3)2012年上半期までに142名の水の防衛隊が派遣されました。
さらに、2010年12月には国連総会において国際衛生年(2008年)フォローアップ決議案の採択を日本が中心となって進め、MDGs達成期限となる2015年に向けて「持続可能な衛生の5年」を実現するために地球規模での取組を支援しています。
現地の技術者に給水施設の運営維持管理の指導をする日本人専門家 (写真:クリスティーン・ルワンプング/JICAルワンダ事務所)
ムワンザ州における給水施設から水を汲んで運ぶ子どもたち (写真:山本哲也)
用語解説
注5 : (出典)WHO/UNICEF “Progress on Sanitation and Drinking-Water: 2012 Update”
注6 : (出典)UNICEF “Progress for Children: A Report Card on Water and Sanitation”(2006)
●ケニア
ソマリア難民キャンプホストコミュニティの水・衛生改善プロジェクト
技術協力プロジェクト(2010年11月~2012年10月)
ケニアの北東州、ソマリアとの国境近くに位置するダダーブ難民キャンプでは、本来収容人数9万人と計画されていたところに、現在約45万人のソマリア難民が収容され、流入する難民の増加によってキャンプはさらに拡大し続けています。これに伴い、キャンプ周辺に居住する現地のケニア人ホストコミュニティは環境や治安の悪化などの負の影響を受けています。また、年間雨量300mm以下の半乾燥地という厳しい自然環境の中で、行政サービスが行き届いていないケニア人のホストコミュニティ住民と、医療や教育等の援助を受けているキャンプ内のソマリア難民との間で、生活環境の格差が問題となっています。
このような問題を解決するため、日本はケニア人のホストコミュニティが最も必要としている給水分野を支援することにしました。このプロジェクトにおいて11のホストコミュニティで、深井戸給水施設建設、溜め池建設、給水車の調達、給水施設の維持管理および衛生向上のための研修を行っています。これにより、ホストコミュニティ住民約28,400人への給水量および衛生環境が向上し、拡大する難民キャンプとホストコミュニティとの関係が円滑化されることが期待されます。
水汲みの順番を待つ人たち(写真:JICA)
●カンボジア
上下水道インフラ整備プログラムにおける上水道整備支援
カンボジアの上水道施設は、1990年代初頭まで続いた内戦により破壊され、維持管理も行われていない状況にありました。日本は内戦終了後の1993年、まずカンボジアの首都で「プノンペン市上水道整備計画」の策定を支援し、その後も、無償資金協力による施設整備や水道事業人材育成プロジェクト等を行いました。また、各援助国・機関も、日本が策定した計画に基づいてプノンペン市の上水道施設の整備を行った結果、現在、プノンペン水道公社は給水普及率の向上、24時間給水の実現、黒字化などを達成し、アジアにおける最良の水道事業体の一つとなっています。
さらに日本は、プノンペン水道公社の成功事例を地方都市の公営水道事業体へ展開する方針の下、無償資金協力によるシェムリアップ市の浄水場の整備や、主要8都市の公営水道事業体に対する技術協力プロジェクトを行い、施設整備と職員の技術的能力の向上という一体的な支援を行いました。こうした協力の結果、高いレベルで安定した上水道施設の運転が行えるようになっています。
また、これらの長年の協力の蓄積は、同分野における日本への信頼や人的ネットワークの構築にもつながっており、2011年には、日本の厚生労働省とカンボジア鉱工業エネルギー省の間で、水の安全供給を促進するための協力に関する覚書が締結されました。今後も日本の官民で連携し、カンボジアの衛生状態の改善に寄与するとともに、日本の水道産業の海外展開にもつながる協力を行っていきます。
上水道施設の維持管理をプノンペン水道公社の職員に指導する日本人専門家(写真:北九州市上下水道局)