ODA大綱では、貧困削減、持続的成長、地球規模課題への取組、および平和の構築の4つを重点課題として掲げています。本節では、これらの課題について最近の日本の取組を紹介します。
(1)教育
教育は、貧困削減のために必要な経済社会開発において重要な役割を果たします。また個人個人が持つ才能と能力を伸ばし、尊厳を持って生活することを可能にし、他者や異文化に対する理解を育み、平和の礎となります。ところが、世界には学校に通うことのできない子どもが約6,100万人もいます。最低限の識字能力(簡単で短い文章の読み書きができること)を持たない成人も約8億人に上り、その約3分の2は女性です。(注1) このような状況を改善するために、国際社会は「万人のための教育(EFA)」*を実現しようとしており、2012年9月には国連事務総長が教育に関するイニシアティブ「Education First」*を発表し、国際社会に教育普及のための努力を呼びかけています。
< 日本の取組 >
日本は従来から、「国づくり」と「人づくり」を重視して、開発途上国の基礎教育*や高等教育、職業訓練の充実などの幅広い分野において教育支援を行っています。2002年に「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN)」を発表し、日本は、(1)教育を受ける機会の確保、(2)教育の質の向上、(3)教育行政・学校運営方法の改善を重点項目に、学校建設などのハードや教員の養成などソフトの両面を組み合わせた支援を行ってきています。
ニジェールの農村で小学校の昼休みを利用して文字を学ぶ女性たち(写真:玉井誠子)
アフガニスタンの識学教室で読み書きと計算を学ぶ男性たち。識学教育を通じて得られる個人の生活と自尊心の向上は社会の発展にもつながる(写真:JICA)
2010年に日本は、2011年からEFAおよびミレニアム開発目標(MDGs)(目標2:初等教育の完全普及の達成、目標3:ジェンダー平等推進と女性の地位向上)の達成期限である2015年までの間の新教育協力政策として「日本の教育協力政策 2011-2015」を発表しました。新政策では、(1)基礎教育の支援、(2)基礎教育後の支援(初等教育終了後の中等教育、職業訓練、高等教育等)、(3)紛争や災害の影響を受けた脆弱(ぜいじゃく)国への支援の3つに力を注ぎ、2011年からの5年間で35億ドルの資金的支援を約束しています。日本は、質の高い教育環境を整えることを目指し、疎外された子どもや脆弱国など支援が届きにくいところにも配慮し、初等教育の修了者が継続して教育を受けられるような支援を行っていきます。この支援によって少なくとも700万人の子どもに質の高い教育環境を提供します。また、この新政策において日本は、基礎教育支援モデルとして、すべての子どもたちに教育の機会を提供することを目指す「スクール・フォー・オール」を提案し、学校・地域コミュニティ・行政が一体となって、(1)質の高い教育(教師の質)、(2)学校運営の改善、(3)貧困層、女子や障害児など就学が困難な状況の子どもたちへの取組、(4)安全な学習環境(学校施設整備や栄養・衛生面)など様々な面での学習環境の改善に取り組んでいきます。2011年6月に東京で開催したMDGsフォローアップ会合の教育分科会では、教育の質の改善等をテーマとして議論を行い、効果的な取組例をまとめた文書を作成しました。
また、2015年までに初等教育を完全普及することを目指す国際的な枠組みである「教育のためのグローバル・パートナーシップ(GPE)(旧称:ファスト・トラック・イニシアティブ:FTI)」*に関しては、2008年1月から日本はG8議長国として共同議長および運営委員を務め、2012年は理事を務めるなどGPEの議論および改革への取組に積極的に参加してきています。そして、GPEの関連基金に対して、2007年度から2011年度までに総額約1,090万ドルを拠出しました。
2008年4月、日本は、「万人のための教育(EFA)」の自立と持続可能性に関する国際シンポジウムにおいて、質・量両面における基礎教育のさらなる充実、基礎教育後の多様な教育段階における支援の強化、教育と他分野との連携、内外を通じた全員参加型の取組を重視すべきとのメッセージを発信しました。その具体的な取組として、2008年5月に開催された第4回アフリカ開発会議(TICAD(ティカッド) IV)において、2008年からの5年間でアフリカにおいて1,000校5,500教室の小中学校建設、10万人の理数科教員の能力向上支援、学校運営改善支援の1万校への拡大を表明しました。現在までに、小中学校874校(4,589教室)を建設し、約40万人の理数科教員の能力向上支援を実施し、18,376校で学校運営改善プロジェクトを実施しました(2012年3月時点)。さらに、アジア太平洋地域の教育の充実と質の向上に貢献するため、国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))に信託基金を拠出し、コミュニティラーニングセンターの運営能力の向上等の事業を実施しています。
また、アフガニスタンでは、約30年間にわたる内戦の影響を受け、非識字人口が約1,100万人(人口の4割程度)と推定されており、アフガニスタン政府は、これに対して2014年までに約360万人へ識字教室を提供することを目標としています。日本は、2008年からUNESCOを通じた総額約33億円の無償資金協力により、国内18県100郡で計約60万人のための識字教育を支援し、アフガニスタンの識字教育の推進に貢献しています。
近年では、国境を越えた高等教育機関のネットワーク化の推進や、周辺地域各国との共同研究等を行っています。また、「留学生30万人計画」に基づく日本の高等教育機関への留学生受入れなど多様な方策を通じて、開発途上国の人材育成を支援していきます。
また、「青年海外協力隊現職教員特別参加制度」*を通じて、日本の現職教員が青年海外協力隊に参加しやすくなるよう努めています。開発途上国へ派遣された現職教員は、現地において教育や社会の発展に尽くし、帰国後は国内の教育現場で現地での経験を活かしています。
理数科教師隊員たちが企画したルワンダのガヒニサイエンスキャンプ
(写真:今村健志朗/JICA)
ホンジュラスで活躍する青年海外協力隊員の算数指導(写真:カルロス・アギラル)
用語解説
注1 : (出典)UNESCO「EFAグローバル・モニタリング・レポート2012」
●ブルキナファソ
「学校運営委員会(COGES)支援プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2009年11月~実施中)
2008年、ブルキナファソでは、学校運営委員会の設置に関する法令を施行し、全国の小学校に委員会設置を進めてきました。全国の小学校に、保護者、地域住民、教員などから選挙によって「学校運営委員会」のメンバーを選出し、委員会を基盤に住民が参加して学校活動計画の策定・実施を行い、学校環境を改善していくことを目標とするものです。しかし、ブルキナファソには、委員会の運営方法や行政・住民の役割について、十分な知識や経験がありませんでした。
日本は、ブルキナファソの隣国ニジェールにて、2004年から学校運営委員会の機能向上等を目的とした「みんなの学校」プロジェクトを実施してきました。この経験を活かし、ブルキナファソにおいても、2009年から2013年までの計画で学校運営委員会支援プロジェクトを実施しています。
これまでに3州、約1,500校を対象に活動を行い、地域社会から資金や労働力が提供され、教室、井戸、トイレなどの学校施設の整備、補習授業実施といった教育の質の改善、学校給食の提供などの学習環境の改善などの成果が出ました。その有効性が認められた結果、日本による支援プロジェクトをブルキナファソ自身の取組により、全国約12,000校の小学校に展開していくことが、同国教育省により決定されました。
(2012年12月時点)
学校運営委員会の住民参加型の集会(写真:JICA)
●パキスタン
「パンジャブ州技術短期大学強化計画」
無償資金協力(2011年7月~実施中)
パキスタンでは、安定した経済成長のため、製造業、建設業を中心とする産業の振興に取り組んでいますが、14歳から19歳の技術教育・職業訓練校への就学率は1.5%と、アジア諸国の6~20%と比較して極めて低い状況です。また教育内容が不十分で、施設・機材も老朽化しているため、産業界の要請に応じた技術者の育成が進んでいません。こうした状況の中、パキスタン政府は技術教育・職業訓練分野の再構築を重要課題とし、各州が「特定分野における先進的モデル校」の設置を掲げ、改善に取り組んでいます。
カラチ市に次ぐパキスタン第二の工業都市であるパンジャブ州ラホール市にあるレイルウェイ・ロード技術短期大学は、同州のモデル校として位置づけられています。同大学では2008年より日本の技術協力プロジェクト「技術教育改善プロジェクト」によりカリキュラムの改訂、教員訓練、産業界との連携強化を図り、教育・訓練能力の強化を支援しています。しかしながら改訂したカリキュラムに対応した実習用機材の不足、教室数の不足などの課題を抱えており、この無償資金協力のプロジェクトによって、建築学科施設の建設、建築学科および機械学科で使用する実習用機材の近代化を支援していきます。これにより質の高い教育・訓練を毎年約500名の学生に対して提供することが可能となり、産業界の要望に合った高い技能を持った人材が増えるとともに、若年層の雇用促進を通じた社会・治安状況の安定が期待されます。
(2012年12月時点)コンクリート破壊の実習を行う建築学科の学生(写真:JICA)