本章では、5つの視点(第1節〜第5節)から日本が世界で行っている政府開発援助(ODA)の具体的な取組について紹介していきます。
木の下の集会。ブルキナファソの村々を周りマラリア予防のために蚊帳の使用と修理方法、水周りの管理の大切さなどを伝える啓発活動を行う青年海外協力隊の下川さん(村落開発普及員)(写真:飯塚明夫/JICA)
日本のODA政策は、「政府開発援助(ODA)大綱」に沿って開発途上国それぞれに対する取組を進めています。まず第1節では、日本が開発途上国に対してODAを行っていく上で、基本となるODA大綱やこの大綱に基づく諸政策がどのような内容によって構成されているかを示します。
第2節は、ODA大綱が掲げる「貧困削減への取組」「持続的成長への取組」「地球規模課題への取組」、そして「平和の構築」について、個々の課題をさらに細かい分野に分けながら、日本がそれぞれの分野においてどのような取組を行っているかを紹介します。
一方、世界は地域や国によって経済・社会環境や文化が大きく異なるため、抱えている問題も違います。第3節では、地域ごとに日本が取り組んでいる開発援助についての具体的な事例を挙げます。地域区分は、東アジア、南アジア、中央アジア・コーカサス、中東・北アフリカ、サブサハラ・アフリカ、中南米、大洋州、欧州の8地域です。
日本政府は、ODA大綱の援助理念に基づき、国連憲章の諸原則や、環境と開発の両立、軍事転用の禁止、テロ・大量破壊兵器の拡散防止、民主化促進と基本的人権、自由の保障等の点を踏まえた上で、開発途上国の援助ニーズ、経済や社会の状況、二国間関係などを総合的に判断し、開発援助を行っています。第4節では、日本のODAがどのような点に配慮しながら実施されているかを具体的に説明します。
そして、最後の第5節は、ODAがどのような体制で行われているのか、そしてODAをより効率的・効果的なものにするために進めるべき一連の改革措置を、「援助政策の立案および実施体制」、「国民参加の拡大」、「戦略的・効果的な援助の実施のために必要な事項」の3つに分けて紹介します。
現行の日本のODA政策の理念や原則は、ODA大綱によって定められています。このODA大綱の下に、ODA中期政策、国別援助方針、分野別開発政策、国際協力重点方針、そして事業展開計画が置かれています。本節においては現行の政策的枠組みについて説明していきます。
現行のODA大綱(2003年8月改訂)は、「I. 理念」、「II. 援助実施の原則」、「III. 援助政策の立案及び実施」、「IV.ODA大綱の実施状況に関する報告」から構成されています。
「I. 理念」では、ODAの目的を「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資すること」としています。そのために日本は、(1)良い統治に基づく「開発途上国の自助努力支援」、(2)個々の人間に着目した支援を実施するための「人間の安全保障」の視点、(3)社会的弱者の状況(特に女性の地位向上)、貧富の格差や地域格差などを考慮した「公平性の確保」、(4)日本の経験、技術、人材などを開発途上国の発展に活かす「我が国の経験と知見の活用」、(5)国際機関や他の援助国、NGO、民間を含む様々な開発主体との連携を図る「国際社会における協調と連携」という5つの基本方針を掲げています。これらの目的および基本方針に基づき、(1)「貧困削減」、(2)「持続的成長」、(3)「地球的規模の問題への取組」、(4)「平和の構築」を重点的に取り組む課題としています。
「II. 援助実施の原則」では、環境と開発の両立やODAの軍事的利用の防止、開発途上国における民主化の促進などに注意を払い、援助を行うこととしています。
「III. 援助政策の立案及び実施」では、政府全体として一体性と一貫性のあるODA政策の立案・実施を行うことで、日本のODAの戦略性や機動性、効率性を高めていくことが重要であるとしています。また、ODAの原資は国民の税金であることから、国民の理解を得ることに努力することを明記しています。
「IV.ODA大綱の実施状況に関する報告」では、援助の実施状況については、毎年ODA白書を通して閣議報告することとしており、ODA実施に関する説明責任を明確にしています。
ODA中期政策は、ODA大綱のうち、より具体的に示すべき事項を中心として、日本の考え方やアプローチ、具体的取組について記載しています。2005年2月に改訂された中期政策では、(1)人間の安全保障の視点、(2)貧困削減、持続的成長、地球的規模の問題への取組および平和の構築といった重点課題、(3)効率的・効果的な援助の実施に向けた方策を取り上げています。
国別援助方針は、援助相手国の政治・経済・社会情勢を踏まえ、その国の開発計画、開発上の課題等を総合的に検討して作成する日本の援助方針であり、5年を目途に改訂していくこととしています。2009年までは、「国別援助計画」として28か国について策定してきましたが、2010年に発表した「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」を受け、より簡潔で戦略性の高いものに改編していくよう、(1)名称を「国別援助計画」から「国別援助方針」へ変更、(2)原則としてすべてのODA対象国について国別援助方針を策定、(3)簡潔でメリハリの利いた内容に改編し、策定の過程を簡素化・合理化、(4)事業展開計画を国別援助方針の付属文書として統合することとしました。この方針に沿って、2011年度から3年にわたり毎年40か国から50か国程度を対象に、途上国の「現地ODAタスクフォース」*(日本の大使館やJICA現地事務所等で構成)の意見を十分踏まえながら策定しています。
分野別開発政策は、国際社会での議論を踏まえつつ、保健、教育、水・衛生、環境といった分野ごとの援助を効果的に実施するために策定しています。つまり、分野別の開発イニシアティブの策定を通じ、分野別開発政策をODA案件の計画・立案などに反映させます。中長期的にも援助相手国にとって望ましい援助となるよう取り組んでいます。ODA大綱やODA中期政策、国別援助方針に加えて「分野別開発政策」を策定することは、日本の援助指針をより明確にし、ODAの取組を分かりやすくしています。
国際協力重点方針は、年度ごとに、日本の外交政策の進展や、新たに発生した政策課題などに素早く対応するために重点事項を明確にし、各年度の事業に反映させることを目的として、2007年度から策定しています。2011年度は、東日本大震災からいち早く復興するため、国際社会とも協力しつつ、官民一体となった「開かれた復興」を実現するためにODAを活用することを最優先課題としました。特に、(1)途上国支援にかかわる様々な担い手と連携しつつ被災地の復興と防災対応に直接貢献する、(2)日本再生・復興を支える力強い経済成長に貢献するために途上国支援を活用する、(3)東日本大震災に際して示された各国からの信頼に応えるため、日本の国際約束を誠実に実現していくための支援等を実施する、の3点に重点を置いて国際協力を実施しました。
事業展開計画は、原則として、日本のすべてのODA対象国について国別で作成します。実施決定から完了までの段階において、ODA案件を、援助を行う際の重点分野・開発課題・協力プログラムに分類して、複数年にわたって一覧できるようにまとめました。事業展開計画は、様々な援助手法を一体的に活用し、効率的かつ効果的にODAを企画、立案、実施することに加え、複数年度にわたるODAの予見可能性の向上に役立っています。なお、2010年発表の「ODAのあり方に関する検討 最終とりまとめ」を受け、今後は事業展開計画を国別援助方針の付属文書として統合することにしています。