援助の現場から 12

メイド・イン・ボツワナ手づくり工芸品で生活向上を
~ 少数民族の定住地域で活動する青年海外協力隊 ~

ショップとして見本市に参加する地域住民と白岩さん
(写真:白岩鮎美)

ショップとして見本市に参加する地域住民と白岩さん(写真:白岩鮎美)

アフリカ南部のボツワナには、アフリカゾウやライオンなどの野生動物が生息する大自然が残っています。また、狩猟採集を本来の生業とする先住民族、サンの人たち(入植した白人から「ブッシュマン」と呼ばれてきた人たち)が住んでいます。しかし、開発が進み、野生動物を追って移動していた彼らの多くは、ボツワナ政府の政策により定住して生活するようになりました。

定住したサンの人たちが多く居住する地域に、青年海外協力隊の隊員として派遣されたのが白岩鮎美(しらいわあゆみ)さんです。高校生のころから国内でボランティア活動を続け、アクセサリーや銀細工などのものづくりにも取り組んできました。アフリカでのボランティアを希望し、ボツワナで村落開発に取り組むことになりました。

2010年10月、白岩さんは首都ハボロネから600kmほど離れたセントラル県ボテティ郡の中心地である任地のレタカネに赴きました。まずは土地とその住民を知るために、社会福祉の職員と共に、周辺に点在するサン人定住地での配給活動等に参加しました。

白岩さんが村落で目にしたのは、農村部に暮らすサンの人たちの姿でした。狩猟という伝統的な生活を失った人々の中には仕事が見つからない人たちも多く、政府の先住民族保護政策によって生活物資や現金は支給されるものの、福祉制度のことを知らずに困窮する人たちもいました。定住したサンの人たちの状況に直面し、白岩さんは自分が村落開発普及員として何ができるのかを考えました。「あるときサン人の女性がオフィスに、編んで作ったバスケットを持ってきたのです。また、村を歩いていると、思ったよりも多くの人がバスケットを編んでいることに気づきました。ここには、こんな伝統工芸があるのだと思い、自分でビラを貼って、ものづくりに興味がある人を探し始めました。」

伝統的なバスケット作りをするサンの女性たち(写真:白岩鮎美)

伝統的なバスケット作りをするサンの女性たち(写真:白岩鮎美)

ものづくりによって人々の暮らしを改善できないかと考えた白岩さんは、女性たちの作ったバスケットを定期的にハボロネまで持って行き、販売しました。それまでは、こぢんまりと村に買いにやって来る人に、作ったバスケットをその人の言い値で売っていた女性たちは、白岩さんに販売を委託するようになりました。白岩さんはさらに、「旅行者は大きいと持ち帰れないので小さなバスケットを作ったほうがいい」「質の良い材料で作らないと、ヨーロッパや日本の観光客は買ってくれない」と、より良い製品づくりに向けて指導を行いました。底抜けに明るいサンの女性たちは、白岩さんの真剣な取組に懸命に応えてくれました。

白岩さんは、レタカネに工芸品販売のためのクラフトショップを作れば、工芸品を売りたい人たちが売るためのスペースを確保できると考え、実現に向けて動きだしました。そんな店ができれば、ボテティ郡に18ある村落の工芸品を代理販売することもできます。それまでボツワナではほとんどの生活物資を隣国から輸入しており、観光客への土産物も例外ではありませんでした。白岩さんたちの活動によって「メイド・イン・ボツワナ」の工芸品が商品化されたのです。ボツワナ政府の観光省も白岩さんたちの活動を理解し、協力を申し出てくれました。

自分たちの作ったものが売れて、現金収入になるとの実感は少しずつサンの人たちの意識を変えていきました。「バスケット作りの材料を集めにブッシュに行きたいから車に乗せていってほしい」「人形づくりを覚えたいから講習会を開いてほしい」「友人を紹介するから売る手助けをしてやってほしい」と自発的に要望が出るようになったのです。徐々に商品を委託する人が増え、白岩さんのオフィスでは手狭になってきました。店を開くのであれば、ある程度の広さが必要です。白岩さんはビジネスプランを書き、企業に支援をお願いしました。幸い協力者が見つかり、大きなショップをオープンすることが決まりました。現在はオープンに向けてその準備中です。

「私は残念ながら2年間の任期が終わり、帰国することになりましたが、このプロジェクトが続けられるよう、JICAや国連ボランティア計画などに提案を行っています。私自身が現地で手助けすることはできませんが、これは彼女たちサンやボツワナの人たちのプロジェクトです。私がいなくても、自分たちで続けられなければ意味がありません。彼女たちが主役となって、プロジェクトが続いていくことを願っています。」


<< 前頁   次頁 >>