援助の現場から 9

独自技術で取り組む太陽光発電
~ ガーナで活動するシニア海外ボランティア ~

自動太陽追跡パネル「ソーラーキング」と円子さん
(写真:円子正良)

自動太陽追跡パネル「ソーラーキング」と円子さん (写真:円子正良)

2012年3月、アフリカ西部のガーナの首都アクラで国際貿易見本市が開催されました。各地から様々な商品が出品された会場の一画では、クマシ技術短期大学のブースに人だかりができています。国内に70余りある大学の中でこの見本市に参加したのは、同大学が初めてです。展示品は「フフママ」。ガーナではヤムイモなどをお餅のようについたフフが主食ですが、この装置は太陽光発電による電力でフフをつくものです。

大学の関係者が熱心に説明する様子を微笑ましく眺めるのは、円子正良(まるこまさよし)さんです。円子さんはJICAのシニアボランティアとして教員や学生に実践的な電子工学を教えています。「太陽光発電装置の出品だったため、会場は温度計が壊れてしまいそうな炎天下のテントでした。それでも、同僚の講師たちは19日間の期間中、不平顔一つしませんでした。見本市への参加は、具体的目標を立てて学生にやる気を起こさせる目的もあって、いわば私の先走りで半ば強引に行いました。学校側には当初かなりの戸惑いがありましたが、学部長や生徒部長も頻繁に会場に訪れ、メディアの取材にも積極的に対応してくれました。」

ガーナでは、農村地域での電力供給網の整備が進んでいません。とりわけ同国北部の3州は貧しい地域で、集落が分散しているために、送電線を整備するコストが割高になり、送電網からの電気を利用できるのはわずかに35%にとどまっています。一方、この3州は日射量が多いことから、送電網に依存しない太陽光発電への期待が高まっています。円子さんは青森県十和田市でカーオーディオの専門店を営んでいました。電子工学の知識と技術を持つ円子さんのお店には、オーディオだけでなくあらゆる種類の電気製品の修理が持ち込まれてきました。JICAのボランティア経験者の知人に、「あなたの技術は絶対に役に立つ」と熱く語られたことがきっかけで、JICAのシニア海外ボランティアに応募しました。ガーナの焼きつけるような日差しを太陽光発電の源ととらえる円子さんは、「開発途上国の多くは赤道近くに集中しています。ここガーナにも、究極のクリーンエネルギーはふんだんにあり、将来は輸出大国の可能性があります。」といいます。

国際貿易見本市会場でフフママを見学する高校生たち(写真:円子正良)

国際貿易見本市会場でフフママを見学する高校生たち(写真:円子正良)

しかし、ガーナでは電子工学の知識を持った技術者が多くないため、一般の電子機器もそうですが、もし太陽光発電装置が故障すると修理ができず、新品に買い替えるしかありません。ガーナ第二の都市クマシにある技術短期大学に赴任した円子さんは、太陽光発電の普及を目指し、電子機器の製作や修理など実践的な指導を行っています。冒頭に登場したフフママも、太陽光発電の具体的な活用法として学生たちと一緒に製作したものです。見本市にはほかに、電動ミシンの「ソーラーテイラー」、夜間の照明としてローソク代わりに使う発光ダイオード照明灯なども出品されました。

杵で勢いよくヤムイモをつくフフママですが、直流(DC)のまま駆動させているので電力の無駄がなく、ソーラーパネルは55Wのものが1枚だけで十分です。従来の太陽光発電では、家庭用電源と併用できるように蓄電した直流をわざわざ交流に変換しますが、これには高価な変換機が必要であり、変換に伴う電力のロスも生じます。電子機器のほとんどはもともと、それぞれの機器内部で変換された直流電源で作動しています。円子さんは、直流で蓄電した電気をそのまま直流で使用しています。この方法論は、日本の地方都市であらゆる修理に応じてきた経験から生まれた発想によるものといえるでしょう。

現在は究極の発電効率を目指して、学生とともに自動太陽追跡パネル「ソーラーキング」を製作中です。このパネルは1時間おきに太陽を追い、夜間は休眠、翌朝再び働き始めるというものです。円子さんは、ガーナという国が先進諸国に追随するのではなく、独自の方法論を開発していってほしいとの考えから自らが開発したオリジナルの太陽光発電の指導を行っており、今後もその独自性を大切にしてほしいと語ります。「目先のことにとらわれることなく、これからの長い歴史を独自の着眼と手腕で切り開いていってほしいと思っています。どの国にとっても、ただ単に他人のものに憧れるのではなく、自分たちにとって何が必要かを見極めていく時代に差しかかっているように思います。」


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