援助の現場から 5
島から島へ技術を伝え、きれいな水を届けたい
~ 宮古島市がサモアの水道公社を支援 ~
二人三脚でプロジェクト進める上地さんと梶原さん(左から)(写真:宮古島市)
南太平洋の島国サモアでは、断水が頻発し、雨季になると水道の水が濁るなど上水道に様々な問題を抱えていました。宮古島市水道局(旧・宮古島上水道企業団)は、JICAを通じてサモアへの支援を行ってきましたが、そのきっかけは2000年にありました。
当時、宮古島上水道企業団は信州大学の中本信忠(なかもとのぶただ)名誉教授の指導によって、藻類を中心とした微生物の働きによって水を浄化する生物浄化法の技術を向上させていました。薬品を使わないこの方法を使えば、低コストで水道水を供給できます。同上水道企業団は、この生物浄化法を技術移転することで国際貢献したいとJICAに提案したのです。
2006~2008年度の草の根技術協力事業では、サモアを含むアジアや大洋州の国々の水道技術者を宮古島に招いて研修を行い、2010~2012年度には、対象をサモアに絞りました。サモアは熱帯海洋性気候で生物活性が高く生物浄化法に適していたこと、既に生物浄化法による浄水施設が建設されていたこと、現地の水道公社が浄水場の運営技術の向上を望んでいたことがその理由です。2010年4月、JICAの草の根技術協力「サモア水道事業運営(宮古島モデル)支援協力」が始まりました。
2006年当初からかかわっている上地昭人(うえちあきと)さんは、25年の経験を持つ水道事業の専門家です。上地さんは現地でサモア水道公社職員と話すうちにあることに気づきます。「乾季になると水量が足りなくなるので、水源開発に協力してほしいという。しかし、よくよく聞いてみると、浄水場から送水される水の6割が漏水で失われていました。漏水さえ改善すれば、その地域に供給すべき十分な水量は確保できるのです。」
アラオア浄水場で水道管を流れる水量の計測機器の設置状況を確認 (写真:JICA)
当時、サモアの中心市街地アピアでは道路などで水が溢れている光景がよく見られました。日本では水道管から漏水すればすぐに修理が行われますが、アピアでは放置されることもしばしばでした。上地さんは現場担当者の漏水探知技術向上に力を入れ、簡単な漏水であればその場ですぐに修理するよう指導しました。その結果、地上での漏水は激減しました。「水道は、水源地から蛇口までを一体のものとして経営する総合力が必要です。そのため、研修にはたくさんの内容を詰め込みたい衝動にかられますが、相手国のニーズと国民性に合わせて技術指導を行うことが大切です。内容も室内での座学のみではなく、屋外実習を中心にしました。援助は押しつけではいけないですね。」
サモアでの協力が始まった2010年、上地さんは宮古島の企画政策部にいた梶原健次(かじわらけんじ)さんをプロジェクトの調整役として起用しました。梶原さんは水道技術者ではありませんが、上地さんが示した技術指導の方針を具体的にまとめて、サモアとの調整を行うのに適任でした。以来、サモアへの技術協力は、技術職の上地さんと調整役の梶原さんの二人三脚で行ってきました。ただ、参加し始めたころの梶原さんは、市民サービスを本旨とするはずの宮古島市が国際協力をする意義が分からなかったといいます。「でも実際に関わっていく中で、逆に、自分たち宮古島の現在の課題と将来の展望が見えてきたのです。国際協力を通して私を含めた市職員の資質が向上し、知見も広がり、それが市民サービスに還元できると確信するようになりました。」
サモアでは、多くの国の支援によって水道が整備されてきたため、規格の異なる資材を無理やりつないだ水道管が漏水の大きな原因となっています。またサモアと支援国とでは自然環境・社会環境が異なるため、導入された技術が必ずしもサモアに適しているとは限りません。梶原さんは、上地さんと異口同音に地域に根ざした自立の大切さを語ります。「サモアの人々が自分たちの地域にとって何が最適な技術や手法であるかを自分たち自身で判断できるようになってもらいたいですね。そして自立した水道事業を維持・運営してほしい。環境の変化による水源の枯渇や汚染のリスクは決して低くありません。子々孫々まで、サモアの人々がサモアに住み続けるために、自立した水道事業の確立は不可欠だと思います。」
水資源が限られた島嶼地域・沖縄が歩んできた水道の歴史は、サモアをはじめとする太平洋の国々の自立にきっと役立ち、その支援を通じて沖縄が学ぶこともあると上地さん、梶原さんは信じ、支援活動を続けています。