(5)文化復興・振興
開発途上国では、その国の文化の振興・復興に対する関心が高まっています。たとえば、その国を象徴するような文化遺産は、その国の人々の誇りであるばかりでなく、観光資源として周辺住民の社会の発展に有効に活用できます。しかし、開発途上国には、危機にさらされている文化遺産も多く、そのような文化遺産を守るための支援は、人々の心情に直接届く上に、長期的に効果が持続する協力の形ともいえます。また、これら人類共通の貴重な文化遺産の保護は開発途上国のみならず、国際社会全体で取り組むべき課題でもあります。
グアテマラのティカル遺跡
< 日本の取組 >
日本は、文化無償資金協力*を通じて、1975年より開発途上国の文化・高等教育の振興、文化遺産の保全のための支援を実施しています。具体的には、これまで開発途上国の文化遺跡、文化財の保存や活用に必要な施設、その他の文化・スポーツ関連施設、高等教育・研究機関の施設の整備や必要な機材の整備を行ってきました。こうして日本の文化無償資金協力で整備された施設は、日本に関する情報発信や日本との文化交流の拠点にもなり、日本に対する理解を深め、親日感情を培う効果があります。近年では、「日本の顔」をアピールするとの観点から、日本語教育、日本武道などの分野の支援にも力を入れてきました。
2010年度には、タンザニア、カンボジア、ホンジュラス、グアテマラの遺産・遺跡に関連した観光・教育施設の整備のための支援を行いましたが、この支援はこれらの国々の人々が貴重な遺産・遺跡に親しむ機会を提供するとともに、観光産業を通じた経済社会開発への貢献を目的とするものです。
ボスニア・ヘルツェゴビナでは、多民族で構成されている民族音楽演奏を通して、国内の民族融和・平和活動に貢献している「サラエボ交響楽団」に対し、楽器整備支援を行っています。また、異なる民族の若者同士の衝突がきっかけで情勢不安が続くキルギスに対しては、大学に語学、音楽教育分野での支援を行い、「平和の定着」に貢献することを目指しています。このほかにも、アルゼンチン、スリランカ、ラオス、ベナン、ギニアビサウ、トンガのテレビ局に対する番組制作・放送分野の支援、エチオピア、ブラジル、コスタリカ、ウクライナでの日本語教育分野の支援などを行っています。
また、日本は国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))に設置した「文化遺産保存日本信託基金」を通じて、文化遺産の保存・修復作業、機材供与や事前調査などを行っています。特に途上国の人材育成には力を入れており、国際専門家の派遣や、ワークショップ(参加型の講習会)の開催等により、技術や知識の提供による協力も実施しています。ほかにも、いわゆる有形の文化遺産だけでなく、伝統的な舞踊や音楽、工芸技術、語り伝えなどの無形文化遺産についても、同じくUNESCOに設置した「無形文化遺産保護日本信託基金」を通じて、継承者の育成や記録保存などの事業に対し支援しています。
ボスニア・ヘルツェゴビナ「サラエボ交響楽団楽器整備計画」国立劇場内での全体練習の様子(写真提供:JICA)
ニジェールで柔道の指導をする青年海外協力隊員(写真提供:玉井誠子)
用語解説
*文化無償資金協力
開発途上国が文化・高等教育振興、文化遺産保全などを目的として実施する開発プロジェクト(機材調達、施設整備など)のために必要な資金を供与する。政府機関を対象とする「一般文化無償資金協力」とNGOや地方公共団体等を対象に小規模なプロジェクトを実施する「草の根文化無償資金協力」の2つの枠組みにより実施している。
●トルコ
「カマン・カレホユック考古学博物館建設計画」
一般文化無償資金協力(2007年6月~2009年4月)
トルコ中央部、東西南北文明交流の交差点の地に位置するカマン・カレホユック遺跡からの出土品を保管・展示する「カマン・カレホユック考古学博物館」を、一般文化無償資金協力を通じて建設しました。2010年7月には、その開館式典が「2010年トルコにおける日本年」の行事として盛大に行われました。この遺跡では、1985年より日本の(財)中近東文化センターが発掘調査に取り組んでいます。博物館には、この1年間で4万人以上の人々が訪れ、地元市民・子ども向けの遺跡・考古学に関する授業や研究者向けの研修などの教育的取組も進められています。また、トルコ政府による近隣の道路整備など、観光客誘致に向けた取組も開始されており、地域への経済・社会効果も期待されるほか、多数のメディアでも取り上げられるなど、親日感情を培うことや二国間交流の進展への効果も見込まれています。
博物館内部の様子(写真提供:(財)中近東文化センター付属アナトリア考古学研究所)