(3)貿易・投資、ODA以外の資金との連携
開発途上国の持続的な成長のためには、民間部門が中心になって役割を担うことが鍵となります。産業の発展や貿易・投資の増大などの民間活動の活性化が重要です。しかし、数々の課題を抱える開発途上国では、民間投資を呼び込むための環境整備を行うことが困難な場合があり、国際社会からの支援が求められています。
< 日本の取組 >
日本は、ODAやそれ以外の公的資金(OOF)*(注21)を活用して、開発途上国内の中小企業の振興や日本の産業技術の移転、経済政策のための支援を行っています。また、開発途上国の輸出能力や競争力を向上させるため、貿易・投資の環境や経済基盤の整備も支援しています。
スイスで行われた第3回WTO「貿易のための援助(AfT)」グローバル・レビュー閣僚級会合に出席し、ラミーWTO事務局長と会談する高橋千秋外務副大臣
2001年にスタートした「世界貿易機関(WTO)ドーハ・ラウンド交渉(ドーハ開発アジェンダ)」*においても、開発途上国が多角的な自由貿易体制に参加することを通じて開発を促進することが重視されています。日本は、WTOに設けられた信託基金に拠出し、開発途上国が貿易交渉を進め、国際市場に参加するための能力を強化すること、およびWTO協定を履行する能力をつけることを目指しています。
日本市場への参入に関しては、開発途上国産品の輸入に際し、一般の関税率よりも低い税率を適用するという一般特恵関税制度(GSP)(注22)により、特に後発開発途上国(LDCs)*(注23)諸国に対しては無税無枠措置*をとっています。また、日本は、経済連携協定(EPA)*(注24)を積極的に推進しており、貿易・投資の自由化によって開発途上国が経済成長できるよう支援しています。
ジブチで家政学校卒業の女性たちにビーズ細工を教える青年海外協力隊員。できた製品をお土産として日本の自衛隊などに販売している(写真提供:玉井誠子)
こうした日本を含む先進国による支援をさらに推進するものとして、近年、WTOや経済協力開発機構(OECD)をはじめとする様々な国際会議(フォーラム)において「貿易のための援助(AfT)」*(注25)に関する議論が活発になっています。日本は、2009年7月のWTO第2回「貿易のための援助」グローバル・レビュー会合において、総額約120億ドルの貿易関連プロジェクトへ支援することなどを柱とした「開発イニシアティブ2009」*という独自の貢献策を発表しました。これは、2009年から2011年の3年間で4万人の専門家を派遣し、研修員を受け入れるなどの技術協力を含むもので、多くの国から高い評価を得ました。現在、このプロジェクトは、着実に進められています。具体的な取組としては、貿易を行うために重要な港湾、道路、橋などの輸送網の整備や発電所・送電網などの建設事業への資金の供与や税関職員の教育などの貿易関連分野における技術協力が挙げられます。さらに開発途上国の小規模生産グループや小規模企業に対して「一村一品キャンペーン」*への支援も行っています。また、開発途上国へ民間からの投資を呼び込むため、開発途上国特有の課題を調査し、投資を促進するための対策を現地政府に提案・助言するなど、民間投資を促進するための支援も進めています。
また、日本は、アジア地域における輸出によって経済成長に貢献した開発援助の成功事例を研究する「貿易のための援助」アジア・太平洋地域専門家会合に積極的に取り組んでいます。2011年7月のWTO第3回「貿易のための援助」グローバル・レビュー会合において、日本の開発援助の成功事例など専門家会合での議論の成果を、世界の他の地域に紹介し、参加国から好評を得ました。
シニアボランティアの指導の下、グアテマラで伝統的な織物を織るマヤ系住民(写真提供:村岡貞夫)
用語解説
*ODA以外の公的資金(OOF)
公的部門による開発途上国への資金の流れのうち、開発を主たる目的とはしないなどの理由でODAにはあてはまらないもの。輸出信用、直接投資、国際機関に対する融資などがこれに当たる。
*後発開発途上国(LDCs)
国連による開発途上国の所得別分類で、開発途上国の中でも特に開発の遅れている国々。1人当たり国民総所得(GNI)905ドル以下などの基準を満たした国。現在、アフリカ33か国、アジア9か国、大洋州5か国、中南米1か国の48か国。
*経済連携協定(EPA)
特定の国または地域の間で、関税の撤廃や物品およびサービス貿易の自由化などを定めた自由貿易協定(FTA:Free Trade Agreement)に加え、貿易以外の分野、たとえば人の移動や投資、政府調達、二国間協力など幅広い分野での経済協定。
*一村一品キャンペーン
1979年に大分県で始まった取組を海外でも活用。地域の資源や伝統的な技術を活かし、その土地独自の特産品の振興を通じて、雇用創出と地域の活性化を目指す。アジア、アフリカなど開発途上国の民族性豊かな手工芸品、織物、玩具など魅力的な商品を掘り起こし、より多くの人々に広めることで、途上国の商品の輸出向上を支援する取組。
*ドーハ・ラウンド交渉(ドーハ開発アジェンダ)
WTO加盟国が多国間で、鉱工業品、農林水産の関税の削減・撤廃、サービス分野の規制緩和など幅広い分野について、貿易の自由化を目指すための交渉。貿易を通じた途上国の開発も課題の一つ。
*無税無枠措置
後発開発途上国(LDCs)から先進国への輸出に関しては、関税や数量制限などの障壁を無くした、先進国による措置。これまで対象品目を拡大してきており、LDCsから先進国への輸出品目の約98%が無税無枠での輸入が可能となっている。(2011年11月時点)
*貿易のための援助(AfT)
開発途上国がWTOの多角的貿易体制の下で、貿易を通じて経済成長を達成することを目的に、途上国に対し、貿易関連の能力向上のための支援やインフラ整備の支援を行っている。
*開発イニシアティブ
貿易を通じて開発途上国の持続的な開発を支援するための総合的な施策。途上国が自由貿易体制から恩恵を得るためには、貿易の自由化だけでなく、<1>生産(競争力のある製品を生産する能力の向上)、<2>流通・販売(流通インフラを含む国内外の物流体制の整備)、<3>購入(市場の開拓)という3つの要素を柱とする。これら3つの局面に、「知識・技術」「資金」「人」「制度」といった手段での支援を組み合わせ、途上国における生産者、労働者と先進国、途上国の消費者を結び付ける総合的な支援の実施を目指している。
注21 : ODA以外の公的資金 OOF:Other Official Flows
注22 : 一般特恵関税制度 GSP:Generalized System of Preferences
注23 : 後発開発途上国 LDCs:Least Developed Countries
注24 : 経済連携協定 EPA:Economic Partnership Agreement
注25 : 貿易のための援助 AfT:Aid for Trade
●ウクライナ
「ウクライナ日本センタープロジェクト」
技術協力プロジェクト(2006年5月~2011年5月)
1991年にソビエト連邦から独立したウクライナでは、市場経済に移行する過程でこの新しい考え方の導入・定着・発展を担う人材が欠如しており、そうした人材の育成が課題となっていました。このような課題の解決に向けて、日本はウクライナの経済発展に貢献する人材を育成し、様々な分野における両国の協力を促進する「拠点」として、「ウクライナ日本センター」の体制整備を行いました。同センターでは、<1>ビジネス人材育成(経営管理コース、貿易投資関連セミナー、産学官連携等)、<2>日本語教育、<3>相互理解促進事業(日本文化紹介等)の3つを主軸に、多岐にわたる活動を行っています。こうした取組により、日本発の管理手法が政府や企業で採用されたほか、「広島・長崎平和講座」が大学のカリキュラムに採用されるなどの成果につながりました。また、政財界間や一般の国民とのネットワークが形成されたほか、両国国民間の相互理解が深まりました。同センターは、日本の「顔の見える援助」として、ウクライナ国民に広く浸透していて、日本との交流の拠点となっています。
日本人専門家によるビジネスセミナー(写真提供:ウクライナ日本センター)
●インド
「製造業経営幹部育成支援プロジェクト」
技術協力プロジェクト(2007年8月~実施中)
2007年8月、インドの製造業が変革を模索していた時期に、日本の「ものづくり」技術を伝え、インド流の製造業手法を開発し、インドの製造業界を強化することを目的として、このプロジェクトは始まりました。インドでは前例がなかった産・官・学(産業界・政府・学術界)の協同体制の下で、参加する各企業内の職位レベル別に4つのコースが運営され、これまでに400名以上が必要課程を修了し、その後インドの製造業界で活躍しています。日本から派遣されたチーフアドバイザーと専門家の献身的な指導によって、参加者は製造業手法のみならず、日本型の労働規律も学び、製造業におけるリーダーへと育っています。また、本プロジェクト修了者たちは、簡易型冷蔵庫「チョットクール」や、顧客である農民と共に水中ポンプを開発するなど、製造業界に影響を与える製品を生み出してきました。本プロジェクトは当初2010年8月に終了予定となっていましたが、インド側が持続的かつ自律的に事業を実施していくことができるよう、日・インド間で2013年3月まで延長することに合意しました。
上級経営幹部コースの日本での研修(写真提供:JICA)