コラム 12

「心の復興」がかなう支援を
~(特活)JEN木山啓子理事・事務局長インタビュー ~

木山理事・事務局長(写真提供:JEN)

木山理事・事務局長(写真提供:JEN)

国内外の紛争や災害の現場で活躍するNGOのJEN(ジェン)の木山啓子(きやまけいこ)理事・事務局長にお話を伺いました。


長年にわたり、紛争や災害に苦しんでいる人たちに対する支援に携わってこられましたが、その取組の中で、重視されてきたこと、最も力を注がれてきたことは何ですか。

紛争や災害で人々が失うのは、物質的なものだけではありません。支援を続けるうちに、人が生きていく上での目に見えないものの存在の大きさを強く意識するようになりました。それらは、愛情、絆、感謝、尊厳、自信、知識、哲学など様々です。悲しみが深すぎてこれらを感じられず、復興に向けて歩み始めることができなくなる人もいます。怪我を癒し、食料を提供し、雨をしのげる場所を確保することはもちろんですが、人間をトータルでとらえて、一人ひとりが尊厳を取り戻してゆくのを支えるという自立支援に力を注いできたつもりです。具体的には、どんな支援にも「心の復興」と「コミュニティ(地域社会)再生」の要素を取り入れるように気をつけてきました。これは時間がかかるように見えますが、尊厳を取り戻した人々が推進する復興は、後戻りしないので、撤退した後も復興が続いてゆくという重要なメリットがあります。


これまで、JENの活動の成果を実感したのはどんなときでしたか。

2000年頃に、(厳しい民族対立の紛争を経験した)旧ユーゴスラビアで実施した『羊(ひつじ)銀行』という事業があります。これは、受精した羊を各家庭に6頭配布し、生まれた子羊のうち3頭を別の被災者のために返済してもらうという事業でした。支援事業を終了して4年ほど経って、その後の様子を見に訪問した際、羊が見事に増えていたのを見て感動しました。各家庭に30頭くらいに増えていたのです。増やし方も世話の仕方も学んでもらい、さらに自らの生計を立てるという事業の成果でしたが、他の被災者のために子羊を提供するという設定も功を奏したと思っています。挨拶もできないほど深い悲しみの中にあった方々が、立派に再生し、他の被災者を支えていました。


新潟中越地震やこの度の東日本大震災に際しても、率先して被災地に向かい、支援の手を差し伸べられていますが、JENならではの取組をお聞かせください。

実は、海外での支援の経験が、日本でこれほど活かされるとは考えていませんでした。海外でも日本でも、土地の文化や習わしを尊重しながら、現地の方々が中心になって物事を進めることが大切です。人は、どれほどひどい状況にあっても自立する力を持っていると信じています。その力が発揮されるような工夫を凝らすのが、JENならではの取組です。新潟では、小さな村にボランティアを送り続けて、若者の移住を実現し、過疎化を阻止するお手伝いもしましたが、これも村人たちが自分から望んで実行するようなサポートができたからだと考えています。


外務省が公表した「ODAのあり方に関する検討」においても、日本のODAは、NGOとの一層の連携を強化することが求められています。今後の開発協力にはどのようなことを期待されますか。

良い連携とは、互いの力を活かし合うだけでなく、共に新しい何かを生み出してゆける状態だと考えています。NGOが要望を出し、外務省が資金を出す、というだけの関係では、より良い関係を発展させるのに時間がかかりすぎます。密接に連絡を取り合い、互いの優位な特性を活かし合って、本当に効果の上がる事業を生み出していくために、建設的な批判をし合い、徹底的な議論と実践を繰り返せる成熟した関係の構築が必要だと思います。様々な考え方を持つ様々なステークホルダー(関係当事者)たちであっても、貧困や紛争のない世界を共に目指すという共通の目的を持った、真のパートナーでありたいと、心から願っています。


*特活:特定非営利活動法人(NPO法人)

ハイチの孤児院を訪れる木山さん(写真提供:JEN)

ハイチの孤児院を訪れる木山さん(写真提供:JEN)


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