コラム 11

豊かに暮らすツバルの人とともに
~ 日本のツバルへの調査支援 ~

有孔虫を育てる松舘さんとパイニウさん(写真提供:松舘文子)

有孔虫を育てる松舘さんとパイニウさん(写真提供:松舘文子)

9つの環礁と島が首飾りのように輝く南太平洋の国、ツバル。赤道と日付変更線が交差する位置にあり、5月から10月にかけては心地よい貿易風が吹く熱帯性海洋気候の国です。それぞれの島の面積は小さく、首都フナフチのある一番大きな島でも縦12km、最大幅700mほどで、国土のほとんどが標高1~3mという低平な土地です。また地球温暖化の影響による海面上昇により水没の危機に瀕している国として国際的に注目されています。自然の恵みに支えられた生活を送るツバルの人々ですが、フナフチでは満潮時に地面から水が湧き出して道路や家が浸水したり、海岸浸食により椰子(やし)の木が倒れるなど自然が住民の生活の脅威となることもあります。

海岸侵食の原因の一つとしては、島をかたちづくるサンゴや“星の砂”と呼ばれる有孔虫の減少があるといわれています。人口が首都に集中した結果、増加した生活排水による汚染のため、有孔虫(ゆうこうちゅう)が生きることができなくなってしまった可能性や、堤防などの人工的な構造物が、“星の砂”の流れを阻み、島の地盤を維持したり、形成することができなくなった可能性もあるといわれています。

日本は従来より、港の整備や技術移転、人材育成など様々な分野でツバルを支援してきましたが、2009年からは、島の形成・維持のメカニズム(仕組みや特徴)を調査するプロジェクトを行っています。*1このプロジェクトにより島の形成・維持メカニズムに基づく対策が提案されることで、同国の気候変動による影響への適応力が高まることが期待されています。

松舘文子(まつだてふみこ)さんは、プロジェクト調整員としてこの事業を現地で支えています。プロジェクトでは、様々な調査が行われていますが、有孔虫飼育の実験もその中の一つです。日本から来る専門家が帰国すると、松舘さんがツバル人のスタッフと共に、実験の進ちょく管理をしたり事業の円滑な実施を図ることになります。最初は有孔虫の飼育も、水槽の管理の経験もなかったため、夜も眠れなくなるほど心配になりました。またツバル人のスタッフもプロジェクトへの関心が薄く、果たしてこのままやっていけるのだろうかと不安にもなったそうです。

そこで松舘さんは、活動に興味を持ってもらうように学校訪問や会議の場でツバルの人たち自身によるプロジェクト発表の機会を増やしました。この試みはうまくいき、次第にツバル人のスタッフは自分から仕事の話をするなどだんだんとプロジェクトに積極的に参加するようになっていきました。

松舘さんには忘れられないエピソードがあります。ツバル人のスタッフであるパイニウさんは、初めのころプロジェクトへの参加に気乗りしないように見えました。ところが、ある日彼が、「水槽中の巻貝が有孔虫を食べているのではないか。」と気付いたことを、日本人の専門家に連絡すると、巻貝を採ってくれという指示がすぐに返ってきました。この日が金曜日であったため、松舘さんが「今度の月曜日にやりましょう。」といったところ、「いや、明日やる。早い方がいい。」と譲らず、休日にもかかわらず、翌日二人で巻貝を一生懸命とったそうです。この日を境に、パイニウさんの「自分が有孔虫を育てている」という気持ちが行動に現れ、率先して、水産局の同僚と一緒に水槽などの掃除をするようになりました。

プロジェクトが折り返し点を過ぎた今、ツバルの人たちが自分たちで島を守っていくためには、どうしたら良いのかを考えることが課題となっています。

松舘さんはいいます。「これからは、今まで以上に、住民たちと一緒に活動することになります。限られた自然と共に豊かに暮らす知恵を持つツバルの人たちにふさわしい活動の方法を見つけ出すことができればと思っています。」


*1 : (科学技術)海面上昇に対するツバル国の生態工学的維持(2009~2014年)

“星の砂”を手にとっての説明(写真提供:松舘文子)

“星の砂”を手にとっての説明(写真提供:松舘文子)


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