コラム 10
友達になり目標の共有を!
~ アンティグア・バーブーダへの漁業支援 ~
水産加工場で指導する石田さん(写真提供:石田光洋)
夜明けの海を多くの人が泳ぎ、賑やかなビーチに朝が来ます。365を数えるビーチに地元の人たちだけではなく、多くの観光客が訪れるカリブ海の国、アンティグア・バーブーダ。
果てしなく続く青い空と海、緑さす島に広がる白浜の美しさを求め、外国から多くの観光客が訪れ、観光業は同国の主要産業となっています。その一方で、ハリケーンなどの自然の脅威が観光資源にも影響を与えていることから、観光のみに頼らない産業の多角化が課題となっています。
アンティグア・バーブーダには日本の支援によって整備された港湾施設や水揚げ場などの水産施設があります。石田光洋(いしだみつひろ)さんは、JICAの専門家*1として、こうした施設を活かし、豊富な水産資源を安定的に近くの国々に輸出するための支援をしています。
大学で食品生産化学を専攻した石田さんは、これまで5か国で合計17年間の国際協力の経験を持っています。中南米での経験もあり、英語に加え、スペイン語も流暢に話します。
アンティグア・バーブーダでは、ロブスターやハタ、フエフキダイ、ブダイといった水産物が豊富に獲れます。こうした水産物を輸出することで、国の収入源が多角化することが期待されているのです。しかし、外国で販売するためには、衛生基準などの条件を満たし、輸出先の許認可を得る必要があります。石田さんは、水産局のスタッフと共に、輸出に向けた制度を整えたり、水産加工場の作業員を指導したり、販売体制の強化に向けて取り組んでいます。その一つが漁獲物の衛生管理指針の設定です。衛生管理の状況を体系的に記録として残すのです。これがないと問題が起きた時に後から状況を確認できないため、とても大切な作業です。石田さんは、ドミニカ共和国からの出稼ぎが多い加工場で得意のスペイン語を使い、スタッフの意見をまとめ、状況と問題点を把握したうえで衛生管理指針を完成させました。石田さんは、「よく話し、友達になれば、はっきりと目的意識を共有することができます。」と支援に当たって心がけている“秘訣”を明かします。
また、現在は国際取引が規制されているクイーンコンク貝を何とか輸出に結びつけられないかと石田さんは考えています。ロブスターのようにサイズによっては取引可能であることを明らかにするため、今はサンプル調査をもとに指標を作成しているところです。サンプルを集める時にも、漁民に協力してもらうため、一緒に船に乗ったり、港で何時間も漁民の帰りを待って彼らの理解を求めました。そして、時には自分で海に潜り一時間で70個ものサンプル調査をしたこともあるそうです。調査の結果によっては、有力な輸出水産物への道がひらけるかもしれません。
衛生管理能力の向上に向けた努力が実り、石田さんの指導する水産加工場は、EUへの活ロブスターの輸出が認められた唯一の水産加工場となりました。石田さんは、この活動がアンティグア・バーブーダの他の水産加工場にも広がって、国全体として水産物輸出が増加し、観光に並ぶ収入をもたらすことを期待しています。「この度の成功例がアンティグア・バーブーダからさらにカリブ全域に広がっていくことを期待しています。この国ならカリブの発展モデルとなると信じています。」と力強く話します。
*1 : 水産開発アドバイザー(アンティグア・バーブーダ、セントクリストファー・ネーヴィス、ドミニカ国の3か国を担当する広域専門家)
コンク貝の大きさを測る石田さん(写真提供 : 石田光洋)