コラム 7
草の根レベルの相互理解を
~ パレスチナのオリーブ農家支援 ~
農家農場でオリーブの栽培指導をする吉田さん(写真提供:吉田真由美)
平和を象徴するともいわれるオリーブ。原産地はパレスチナともいわれ、パレスチナ人の食卓には欠かせないものとなっています。また肌や髪の手入れにも使われるなど、生活と深いつながりがあります。
降雨量の少ないパレスチナでは、オリーブの栽培には大きな困難が伴います。加えて、オリーブミバエと呼ばれる害虫が実を傷めるため、収穫量が減ったり、品質の低下をもたらすといった問題が起きています。また、年間1万5,000トン程のオリーブオイルが消費されるパレスチナでは、豊作の年にはその2倍以上の量が収穫されますが、売れ残ったオリーブオイルは品質が悪いため、輸出することもできず、そのまま捨てられることもありました。
日本のNGOである日本民間国際協力会(NICCO)*1は、日本政府の協力を得て、*2 2007年からパレスチナ・ヨルダン川西岸の北東にあるトバス県で、貧しいオリーブ農家を支援しています。
NICCOパレスチナ事務所のプロジェクト・マネジャーである吉田真由美(よしだまゆみ)さんは、コソボでの難民支援にボランティアとして参加したことをきっかけに、民族対立や紛争問題に関心を持つようになりました。2007年9月に、パレスチナに配属された吉田さんは、「オリーブという作物を通じて、貧困農家の生活向上はもちろんのこと、政治的に対立し合う者同士が草の根レベルで相互理解を深めることができればと思います」と話します。
吉田さんが初めに取り組んだのは高品質のオリーブオイルを生産することでした。輸出販路を開拓し、農家の収入増を図るためです。さらに、農家の女性に対しては、オリーブオイルや自然原料を使った石けんの開発・販売や、有機栽培の野菜とオリーブオイルを使った加工食品の製造販売など、商品開発と女性の地位向上を兼ねた事業も進めています。事業開始前、トバスの農家はオリーブオイルの品質基準には無頓着で、製品は酸度の高い低品質なものでした。食用油レベルのオリーブオイルを酸度が低い高品質のエキストラバージンのレベルにまで引き上げたいと考えていた吉田さんは、指導に当たっていろいろと苦労しました。たとえば、タバコを片手に作業を行うのが当たり前に行われているオリーブの搾油(さくゆ)工場で、衛生管理の指導を徹底しました。また、搾油時に枝葉などを取り除くこと、低温で通常より長めの時間をかけて搾油することにより、品質が格段に良くなることを繰り返し指導しました。収穫したオリーブを高温で早く搾ることを長年の習慣としてきた農家に、このような変化を受入れてもらうには長い時間を要しましたが、製品は着実に良いものになりました。
生産されたオリーブオイルは、イスラエルやサウジアラビアでも販売されるようになっています。「販売に協力してくれているイスラエル人とは信頼関係にあります。私たちの製品の品質とデザイン性を評価して、適正な値段で買ってくれています。」と吉田さんの取組に参加している農家の組合代表、ダバク氏は話します。「オリーブを栽培しない日本人がなぜ我々を指導するのか初めは理解に苦しみましたが、事業を通じて、酸度が低いオリーブオイルは健康に良いこと、製造工程も基準どおりに管理すれば我々にも製造できることを学びました。」
吉田さんは言います。「栽培・製造から販売までのサイクルを持続的に築いていく中で、パレスチナ人とイスラエル人の民間レベルの信頼関係を深められること、占領下の状況においても努力の積み重ねにより生活を向上させる可能性があることを、この事業を通じて学んでほしいと願っています。」と語っています。
*1: 日本民間国際協力 NICCO:Nippon International Cooperation for Community Development
*2: 2007年度 草の根パートナー型
2010年度 日本NGO連携無償資金協力
農業組合との打合せ(写真提供:吉田真由美)