コラム 6
東日本大震災を教訓に取り組む
~ 大洋州地域コミュニティ防災能力強化プロジェクト ~
フィジーのワークショップで(写真提供 : 松岡めぐみ)
フィジーはオーストラリアの東、約3,000キロの太平洋上の300を超える島からなり、毎年のようにサイクロンなどに伴う集中豪雨による洪水に見舞われます。また、6つの大きな島と約1,000もの小島からなり、同じく大洋州に位置するソロモン諸島では、人口の9割以上が沿岸部や河口部に住んでいるため、津波、高潮および洪水などの災害に対して大変脆弱です。日本としては、自然災害に関する経験を無駄にすることなく、世界の必要としているところで役立てるという考えの下、フィジーとソロモン諸島からの要請を受けて、2010年10月から3年間の計画で「大洋州地域コミュニティ防災能力強化プロジェクト」を開始しました。このプロジェクトで、コミュニティ防災、避難計画・訓練などの指導に精力的に取り組んでいるのが金谷祐昭(かなやまさあき)専門家です。
「まず大切なのは、地域レベルでの防災に対する意識の向上です。洪水発生のメカニズム(仕組みや特徴)を知り、リスク回避、避難準備などについての認識を高め、自然と調和しながら住民一人ひとりの“自助の精神”を培ってもらいたいと考えています。」と金谷さんは抱負を語ります。
金谷さんは、活動の一環として、2011年2月25日、ソロモン諸島のタンボコ村にある小・中学校で「洪水リスク認識ワークショップ」を開催することになっていました。しかしその3日前に、タンボコ村では川で生徒が溺れて亡くなるという事故が起こりました。川に飛び込んで遊んでいた二人の生徒が、川の中で誤ってぶつかり、一人はなんとか岸へ這い上がったものの、もう一人は意識を失ったまま流されて数時間後に遺体となって発見されたのです。原因は増水した川が茶色く濁っていたことにありました。相手の姿が見えずに衝突してしまったのです。このような事故の後、タンボコ村では10日間、喪に服すのが習わしで、その間催事などは一切行わないことになっています。当然ワークショップも中止になるところでした。事故の翌日、打合せのために村を訪れていた金谷さんは村長と相談しました。村長は熟慮の結果、「悲しい出来事の後だが、増水した川の危険性をもう一度村全体で確認したい。」とワークショップの開催を決めたのです。
翌週、金谷さんは学校の生徒を含む村の住民と共に、川沿いの道を歩きながら増水した川の危険性を説明し、危険箇所などを一緒に確認しました。その様子は後日、地元新聞の一面で取り上げられ、記事を読んだ村の住民たちは、二度と同じような事故を起こさないように「今回のことを忘れない」と語り合いました。
また、日本で起こった東日本大震災の経験も、このプロジェクトに活かされています。
東日本の津波災害では、住民にハザードマップ(危険・安全確認地図)がうまく利用されていなかったり、避難手段や避難場所についての正しい情報が住民に把握されていなかったことが報告されています。その教訓をもとに、フィジーとソロモン諸島では、自分たちの居住地域の状況を再確認するために、住民たちと共に、高台、低い箇所、重要施設、河岸の決壊箇所などを詳しくベースマップに記入していくことにしました。また地域ごとに近くの安全な避難場所を確認しながら、地域の実情に合った避難計画を作成しています。
金谷さんは両国の人たちに、日本の経験から『設備や施設などの構造物対策だけでは完全ではない』ということを繰り返し伝え、自分たちの安全を自分たち自身で守るという意識を持ってもらいたい、と話しています。「自然災害リスクを抱える国の一人でも多くの人たちに“自助精神”を伝えることが私の使命だと思っています。」
タンボコ村で避難計画を説明する金谷さん(写真提供 : 大庭隆)