コラム 5

みんなで力を合わせ、問題解決を!
~ マラウイのコミュニティ・フォレストリー ~

等高線栽培の畝立て(写真提供:金澤弘幸)

等高線栽培の畝立て(写真提供:金澤弘幸)

マラウイのシレ川はブランタイヤ市北部を流れ、その中流域は農産物がよく穫れるほか、同国最大の水力発電所があるなど重要な位置を占めています。ところが、この豊かな資源をもたらす森林が、人口増加に伴い、薪を採ったり、畑を新たに作ったりすることによって減少しています。森林資源が減少した結果、地盤がゆるみ、雨期などに流れ出した土砂が発電所への水の流れを阻むなど、森林資源の減少により住民の生活に支障を来していました。

日本はマラウイ政府から要請を受け、綿密な調査を何度かにわたって行いました。そして、住民が求めているのは “まずは所得の向上”だということがわかりました。そこで、森林の復旧・保全と所得創出活動を同時に行う全員参加型の“コミュニティ・フォレストリー(地域住民による森林管理)”を開始しました。このプロジェクト*1には日本から森林と農村開発の専門家が派遣されています。これまで隣国のザンビアでも専門家として経験がある金澤弘幸(かなざわひろゆき)さんもその一人です。「プロジェクト当初は、どうすれば農民が自主的に動くかということが課題でした。」と金澤さんは振り返ります。

このマラウイでの取組はユニークな方法で行われています。農民のニーズに合わせた研修を企画し、実施することを活動の核とし、その研修に希望者は誰でも参加できるという方法です。プロジェクト対象地域の研修対象世帯数が3万世帯以上にものぼり、当時の普及員だけでは対応しきれないため研修講師を各村で養成することにしました。その講師たちは“リードファーマー(村の研修責任者)”と呼ばれ、選挙で選ばれます。リードファーマーは普及員から研修を受けた後、それぞれの村で講師役を務めます。

プロジェクト開始当初、研修は野菜栽培、養蜂、淡水魚の養殖、土壌保全技術、育林など多岐にわたっていましたが、それではシレ川中流域のすべての村で実施するのに時間がかかりすぎるため、研修内容を土壌保全技術と育林に絞りました。そして、土壌保全技術は主食であるメイズ(とうもろこし)の収穫量を増加する効果があることや、育林研修は森林の土砂の流出を防ぐこと、現金収入につながることなどが参加した農民の間で次第に理解され始め、研修への参加者も増えつつあります。

ムテマ村のアルファゼマさんは、「研修で習った等高線栽培*2でメイズを栽培したら収量が上がり、家の中がメイズでいっぱいになった。」とうれしそうです。また、チュマ村の人たちは試験的に植えた果樹のグアバが今年から実をつけ、食べたり販売したりできるようになったと、喜んで知らせてきました。

一年に一度、各村の村長と共にリードファーマー全体の会議を開きます。その時にチワロ村の村長スンゲニさんは報告の中で、「プロジェクトは我々を援助するためにきてくれたけれど、土壌保全は自分たちの問題である。自分たちの生活を向上するには何かを人からもらうことを待つのではなく、我々自身がみんなで力を合わせ、問題を解決していくことが必要だ。」と話し、金澤さんを感動させました。

国際森林年である2011年は、森林保全・再生に世界がより一層、関心を持つ年です。日々の生活に必要な手段と、未来の安心な生活を実現するための森林復旧・保全の活動がお互いに補い合うコミュニティ・フォレストリーにより、明るい兆しが見え始めています。


*1 : シレ川中流域における村落振興・森林復旧プロジェクト(2007年11月~2012年11月)

*2 : 土砂等の流失防止のため、山等の傾斜地に等高線上に畝(うね)を作り、作物を栽培すること

村での聞き取り調査を行う金澤さん(写真提供:金澤弘幸)

村での聞き取り調査を行う金澤さん(写真提供:金澤弘幸)


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