(6)内外の援助関係者との連携

日本は、民間企業、NGO、大学、地方自治体、国際機関や他の援助国とも連携しながら国際協力を行っています。


ア.NGOとの連携

近年、NGOは開発、環境、人権、貿易、軍縮など、主要外交分野における政策提言などを通じて、国際社会において重要な役割を果たしています。日本のNGOは、教育、保健・医療、水供給、難民支援、地雷処理など様々な開発協力分野において質の高い援助活動を実施しているほか、大規模災害や紛争の現場で迅速な人道支援活動を展開しています。地域住民のニーズに知見を有するNGOは、政府では手の届かない地域での活動が可能であり、日本の「顔の見える援助」の実現にもつながります。日本は、ODA大綱やODA中期政策においてNGOとの連携推進を掲げており、NGOによる援助活動への資金協力、能力強化への支援、対話の促進など、様々な連携推進策を実施しています。


(ア) NGOが行う事業との協力

日本は、NGOが円滑に援助活動を実施できるように様々な協力を行っています。たとえば、NGOの草の根レベルの経済社会開発事業に資金を供与する日本NGO連携無償資金協力を通じて、2009年度に47団体が、学校建設、障がい者支援、職業訓練、井戸の建設など計81件の事業を実施しました。また、2000年にNGO、政府、経済界の連携によって設立された緊急人道支援組織であるジャパン・プラットフォームには、2010年9月現在で32のNGOが参加し、事前に拠出されたODA資金や企業・市民からの寄付金を活用して大規模災害発生時などに迅速に生活物資配布、医療支援などを行っています。2009年度には、スマトラ島沖地震やハイチ地震、フィリピンにおける水害の被災者支援,スーダン南部やスリランカ北部における人道支援など、8か国において73件、総額約15 億7,000万円の事業を実施しました。

JICAの技術協力プロジェクトはNGO を含む民間団体に委託して実施される場合があります。2009年度は、201件のプロジェクトが民間団体によって実施され、NGOや大学といった様々な団体のノウハウが活用されています。さらに、JICANGOや地方自治体などが提案する案件で、開発途上国の地域住民の生活向上に直接貢献し、政府が定める国別援助計画に沿っているものについて事業の委託を行う草の根技術協力を実施しています。特に、この協力制度の中の「草の根パートナー型」では、既に開発途上国において国際協力に一定の実績を有しているNGOなどが蓄積してきた経験や技術を活かした開発途上国への支援を行っています。


(イ) NGO活動環境の整備

NGO活動のさらなる支援策として様々な活動環境整備事業を実施しています。たとえば「NGO相談員制度」では、外務省の委託を受けたNGOの職員がNGOの設立、組織運営や活動、国際協力活動などに関する市民やNGO関係者からの照会にこたえています。そのほか、国際協力イベントなどで相談に応じたり、出張して講演をするサービスを行っており、NGO活動の促進およびNGO活動に対する理解促進を図っています。また、「環境」や「企業との連携推進」などのテーマごとにNGOが自ら学習会やシンポジウムを実施する「NGO研究会」を主催するなど、NGOの組織運営能力や専門性の向上を支援する取組も行っています。

JICAは、NGOスタッフのため様々な研修を行っています。たとえば、開発途上国でのプロジェクトの実施能力の向上を図るプロジェクト・マネジメントや国内での広報・資金調達能力を強化する組織マネジメントに関して研修を行うNGO人材育成研修、草の根技術協力などの事業計画立案・評価手法の習得を図るプロジェクト・サイクル・マネジメント(PCM)研修、NGOが団体ごとに抱える問題に対し個別にアドバイスを行うための国内外へのアドバイザー派遣などを行っています。


(ウ) NGOとの対話と連携

1996年以降外務省は、NGOとの対話および連携を促進するため、NGO・外務省定期協議会を開催し、日本の援助政策や日本NGO連携無償資金協力などのNGOを対象とした資金協力制度に関する協議を活発に実施しています。2002年以降は開発途上国でのNGOとの意見交換の場として「ODA大使館」を開設し、これまでネパールやスリランカをはじめとする27か国で、大使館、援助実施機関、NGOODAの効率的・効果的な実施について協議を行っています。JICAは、より効果的な国際協力を実現するため、NGOを含む市民の理解と参加を促進するNGO-JICA協議会を開催しています。


イ.民間企業との連携

(ア) 成長加速化のための官民パートナーシップ

民間企業の開発途上国における活動は、雇用創出、税収の増加、外貨獲得、技術移転、貿易投資の拡大などのODAだけではできない規模の開発効果を開発途上国にもたらすことが期待できます。このような民間企業の開発途上国における活動を推進するために、2008年4月に官民連携促進策「成長加速化のための官民パートナーシップ」を発表し、民間企業からの、開発途上国の経済成長、貧困削減に資する民間企業の活動とODAとの官民連携案件に関する相談や提案を受け付けています。

また、最近注目されている、民間企業が進出先の地域社会に積極的に貢献することを目指すCSR(Corporate Social Responsibility)活動や、低所得階層を対象にビジネスを展開し、生活の向上や社会的課題の解決への貢献を目指すBOP(Base of the economic Pyramid)ビジネスを、現地NGOなどと連携して企業が行う場合に、草の根・人間の安全保障無償資金協力や各種技術協力施策を活用するなどの新しい取組も行っています。


(イ) 円借款の迅速化

開発途上国への開発支援に取り組むにあたり、官民連携の必要性が広く認識され、円借款と民間事業の実施とを効果的に組み合わせた迅速な開発効果発現が求められています。効果的な官民連携推進の観点からも、円借款の迅速化を一層進展させる必要があります。

日本は、借入国側のオーナーシップ、不正・腐敗防止や環境社会配慮など、説明責任や適正な手続の確保に留意しつつ、2007年の「円借款の迅速化について」および2009年の「官民連携推進等のための円借款の迅速化」を踏まえ、2010年7月にも「円借款の迅速化について」を発表し、早期段階での関心表明(プレ・プレッジ)の導入や現地モニタリング会合の増強による問題の早期発見と対応策の実施などの追加的措置を定めました。


(ウ) 大学・地方自治体との連携

日本は、より効果的なODAの実施のため、大学や地方自治体が蓄積してきたノウハウを活用しています。JICAは、大学が持つ知的財産を活用すべく、大学との契約により包括的な技術協力の実施や円借款事業を推進しています。大学にとっては、JICAと連携することで開発途上国の現場にアクセスしやすくなり、実践的な経験を得られるという利点があります。また、地方自治体とも、事業の質的向上、援助人材の育成、地方発の事業展開の活性化において連携しています。


(エ) 開発途上国の地方自治体・NGOなどとの連携

開発途上国の地方自治体やNGOとの連携は、開発途上国の経済社会開発に有益なだけではなく、開発途上国の市民社会やNGOの強化にもつながります。日本は、主に草の根・人間の安全保障無償資金協力を通じて、これら援助関係者が実施する経済社会開発事業を支援しています。この資金協力は、草の根レベルに直接利益となるきめ細やかで足の速い支援として開発途上国でも高く評価されています。

カンボジアの現地スタッフにこどもの診療に関する指導を行っている様子
 (提供: (特活)シェア=国際保健協力市民の会)

カンボジアの現地スタッフに子どもの診療に関する指導を行っている様子
 (提供:( 特活)シェア=国際保健協力市民の会)

(オ) 国際機関や他国との連携

近年、援助効果を促進するとの観点から、MDGsなど国際的な開発目標達成のため、パリ宣言(注72)やアクラ行動計画(AAA)(注73)に基づいて様々な援助主体が援助政策の協調を図っています。現在、多くの被援助国において、保健や教育など分野ごとに作業部会が形成され、その国の分野別開発戦略に沿って、プログラム型の支援が実施されています。日本はタンザニアにおいては農業、イエメンにおいては水など、多数のプログラムに参加しています。また、バングラデシュにおいては、2005年に世界銀行、アジア開発銀行(ADB)、英国国際開発省(DFID注74))と同国の貧困削減戦略(PRS)支援のための共通戦略パートナーシップを策定し、セクター横断的により効果的、効率的な援助を実施するための協調・連携を進めています。現在では、より多くのドナー間での共通援助戦略を策定するための作業部会にも参加し、援助協調に積極的に関与しています。

世界銀行などの国際機関との間では、幹部の来日の機会などをとらえ、援助政策の在り方などについて政策対話を行っています。2007年にはアジア開発銀行(ADB)との連携の一環として、日本は「アジアの持続的成長のための日本の貢献策(ESDA)」を発表し、投資の促進および省エネの促進に取り組んでいます。最近では、日本国内に本部のある国際機関との協力・連携も積極的に進めており、たとえば、アジア生産性機構(APO)との間では、政府レベルでの協力に加え、民間企業が「緑の生産性諮問委員会(注75)」を通じてAPOの政策立案に貢献しています。

これらの取組に加えて、マルチ(多国間援助)とバイ(二国間援助)の間の効果的連携を目指した取組も進めています。国際的な援助潮流の二国間の援助政策への反映および日本に比較優位のある二国間援助のアプローチを援助受入れ国内および国際場裡において主流化することを目的としたこのような試みは、日本の援助の効果向上に資するものです。

これまで国際社会では、経済開発協力機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)の加盟国が中心となって援助を行ってきましたが、近年、中国、インド、サウジアラビア、ブラジルなど、DAC加盟国以外の新興ドナーと呼ばれる国々が、開発途上国の開発における影響力を増大させています。日本を含むDAC加盟国は、新興ドナーと連携して世界の課題解決に取り組むとともに、新興ドナーが透明性の高い、説明責任を果たした責任ある援助を行うよう、対話や援助経験の共有を通して働きかけていくことが大切です。

オコンジョ世界銀行専務理事による山花外務大臣政務官表敬

オコンジョ世界銀行専務理事による山花郁夫外務大臣政務官表敬


注72 : 援助の効果向上のために必要な措置について、援助国と被援助国双方の取組事項をとりまとめたもの。2005 年にパリで開催された「第2 回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム」で採択された。

注73 : AAA: Accra Agenda for Action。2008年9月にガーナで開催された「第3回援助効果向上に関するハイレベル・フォーラム」にて採択された行動計画。パリ宣言の目標達成に向けて、援助効果のさらなる向上への決意および2010年までの取組が記載されている。

注74 : DFID : Department for International Development

注75 : 生産性向上と環境保全の両立を実現させるための戦略である「緑の生産性事業」の効果的な実施のため、日本企業から助言と協力を得るべくAPOが2003年に設置した諮問委員会。現在60社以上が参加している。


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