4.平和構築

国際社会では、依然として民族・宗教・歴史などの違いによる対立を原因とした地域・国内紛争が問題となっています。紛争は、多数の難民や国内避難民を発生させ、人道問題や人権侵害問題を引き起こすとともに、長年の開発努力の成果を損壊し、莫大な経済的損失をもたらします。そのため、紛争の再発を防ぐことや、持続的な平和の定着のため、開発の基礎を築くことを念頭に置いた“平和構築”に向けた取組が国際社会全体の課題となっています。たとえば、2005年に設立された国連平和構築委員会などの場において、紛争解決から復旧、復興および国づくりに至るまでの一貫したアプローチに関する議論が行われています。


< 日本の取組 >

日本は、紛争下における難民支援や食料支援、和平(政治)プロセスに向けた選挙支援などを行っています。紛争の終結後は、平和の定着に向けて、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR注45))への取組や治安部門の再建など国内の安定・治安の確保などへの支援を行っています。また、難民や国内避難民の帰還、再定住への取組、基礎インフラの復旧を通じて復興支援を行っています。

さらに、次の紛争が起こらないよう平和を定着させるべく、行政・司法・警察機能の強化、経済インフラや制度整備支援、保健や教育といった社会セクターへの取組を進めています。このような支援を継ぎ目なく行うため、国際機関を通じた支援と、無償資金協力、技術協力、円借款という二国間の支援を組み合わせて対処しています。

図表 Ⅲ-9 平和構築概念図

●フィリピン「フィリピンの紛争地域(ボンドック半島)における地域開発を通じた平和、安全、適正な雇用の育成共同事業」

フィリピンのボンドック半島は、共産主義勢力(CPP-NPA(注46))の活動などの影響により、開発援助が限られており、住民は極度の貧困に苦しんでいます。そこで日本は、国際労働機関(ILO)および国連食糧農業機関(FAO)が現地のNGOや地域コミュニティと連携して実施する「フィリピンの紛争地域(ボンドック半島)における地域開発を通じた平和、安全、適正な雇用の育成共同事業」に対し、国連の人間の安全保障基金を通じて約256万ドルの支援を行っています。農業・漁業分野での物資の提供や技術支援、非農業分野の生活手段への支援、起業開発訓練など分野横断的かつ包括的なアプローチを通じて、ボンドック半島住民の人間の安全保障促進への取組を支援しています。


平和構築分野での人材育成

多様化・複雑化する平和構築の現場のニーズに対応するため、日本は2007年度から、平和構築の現場で活躍できる日本およびその他のアジアの文民専門家を育成する「平和構築人材育成事業」を実施しています。この事業は、平和構築の現場で必要とされる実践的知識および技術を習得する国内研修、平和構築の現場にある国際機関などの現地事務所で実務に従事する海外実務研修、ならびに修了生がキャリアを構築するための支援を柱としており、これまでに約110名の日本人およびその他のアジア人が研修コースに参加しています。その研修員の多くが、スーダンや東ティモールなどの平和構築の現場で活躍しています。

(1)アフガニスタンおよびパキスタン支援

アフガニスタンおよびパキスタンの不安定化は、両国あるいはその周辺地域だけでなく世界全体の問題です。アフガニスタンを再びテロの温床としないため、日本をはじめとする国際社会は積極的に同国への支援を行っています。そして、アフガニスタンとの国境地域において対テロ掃討作戦を実施するなどテロの撲滅に重要な役割を果たしているパキスタンの安定も、周辺地域や国際社会の平和と安定の鍵となっています。


< 日本の取組 >

日本は、これまで一貫してアフガニスタンへの支援を実施しており、2001年10月以降の同国への支援総額は約24.7 億ドルにのぼります。2002年に日本が主催した「アフガニスタン復興支援国際会議(東京会議)」では、45億ドル以上が参加国よりコミットされ、日本は最大5億ドルの支援を表明しました。また、2009年11月には日本は、「テロの脅威に対処するための新戦略」を発表し、アフガニスタンに対して早急に必要とされる約800億円の支援を行うとともに、今後のアフガニスタン情勢に応じて2009年からおおむね5年間で、最大約50億ドル程度までの規模の支援を決定しました(注47)。

具体的には、警察支援などを通じた治安能力向上支援、元タリバーン末端兵士の社会への再統合のための職業訓練および雇用機会創出のための支援、同国の持続的・自立的発展のための農業・農村開発、エネルギー分野を含むインフラ整備、教育、保健医療などの基礎生活分野などを柱に支援を実施しています。

パキスタンについても、2001年の米国同時多発テロ後に国際社会と協調してテロ対策を行うことを同国が表明して以来、日本は積極的な支援活動を行っています(注48)。2005年2月には対パキスタン国別援助計画を策定し、経済社会インフラ、農業、生活環境などの分野において積極的に支援を行ってきています。また、2009年4月には、東京において日本政府と世界銀行との共催による、パキスタン支援国会合が開催され、日本は同国に対し2年間で最大10億ドルの支援を表明しました(注49)。さらに、2009年11月の「テロの脅威に対処するための新戦略」に基づき、パキスタンの持続的安定・発展のため、経済成長やマクロ経済改革、住民の生活改善など貧困削減、ハイバル・パフトゥンハー州(旧北西辺境州)および連邦直轄部族地域の民生安定などの重点分野を中心に支援しています。


注45 : DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration

注46 : CPP-NPA : Communist Party of the Philippines/New People's Army

注47 : これまでに約束をした総額約20億ドル程度の支援に代わるもの。

注48 : パキスタンが核実験を行った1998年以降、日本は同国に対し援助縮小措置(緊急・人道性を有する援助、草の根無償を除く新規無償資金協力、および新規円借款の供与の停止)を取っていた。

注49 : 経済・金融などを含めたマクロ経済の安定化を目的としたIMFプログラムの実施が前提。


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