(6)国境を越える犯罪・テロ

グローバル化やハイテク機器の進歩、人の移動の拡大などが進み、国際組織犯罪やテロは、国際社会全体の脅威となっています。薬物や銃器の不正取引、不法移民、女性や児童の人身取引、現金の密輸出入、通貨の偽造および資金洗浄(マネー・ロンダリング)などの国際組織犯罪は、近年、その手口が一層多様化、巧妙化しています。また、テロについては、国際テロ組織「アル・カーイダ」および関連団体の勢力はいまだ軽視し得ず、加えて、アル・カーイダの思想、テロ手法の影響を受けた組織による過激主義運動が新たな脅威となっています。国境を越えて進行する国際組織犯罪やテロに効果的に対応するには、一国のみの努力では限りがあります。そのため各国による対策強化に加え、開発途上国の司法・法執行分野におけるキャパシティ・ビルディング支援などを通じて、国際社会全体で法の抜け穴をなくす努力が必要です。


< 日本の取組 >

薬物対策については、日本は国連麻薬委員会などの国際会議に積極的に参画するとともに、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の国連薬物統制計画(UNDCP)基金への拠出などを通 じ、アジア諸国を中心とした開発途上国を支援しています。2009 年度には、UNDCP基金への拠出を活用して、ミャンマーにおけるけしの不正栽培監視、不正合成薬物製造調査、東南アジアおよび太平洋地域における薬物統制・犯罪防止に関するプロジェクト、ラオスにおける薬物統制主要計画作成支援などのプロジェクトを実施しました。また、2010年3月には2009年度補正予算により、アフガニスタンの麻薬対策のためにUNDCP 基金およびUNODCの犯罪防止刑事司法基金(CPCJF)へ拠出し、アフガニスタンやその周辺国における国境管理、刑事司法分野の能力強化、代替作物開発、若者による麻薬使用の予防などのプロジェクトを支援しています。

人身取引対策については、被害者の緩和ケアおよび社会復帰支援に重点的に取り組んでおり、2009 年度には、CPCJFへの拠出を通じてタイのパタヤにおける人身取引対策プロジェクト(人身取引および性的搾取からの脆弱な子どもの保護)を実施するなど、東南アジアを中心に支援しています。また、日本で保護された被害者については、国際移住機関(IOM)を通じて被害者の安全な帰国と本国での社会復帰を支援しています。さらに日本は、不法移民・人身取引および国境を越える犯罪に関するアジア太平洋地域の枠組みである「バリ・プロセス」への支援も行っています。

腐敗対策については、 CPCJFへの拠出を活用して、2009年10月、ベトナムにおける腐敗対策セミナーの開催を支援しました。同セミナーでは、ベトナム政府関係者や国際機関の専門家が参加してベトナムが締結した国連腐敗防止条約の効果的な実施促進についての課題が話し合われました。これにより、日本のODAの供与対象国でもある同国において腐敗対策の取組を強化することに貢献しました。

また、国連アジア極東犯罪防止研修所(UNAFEI)では、アジア・太平洋地域を中心とする開発途上国の刑事司法実務家を対象に、2010年8月から9月にかけ「犯罪収益の剥奪及びマネー・ローンダリング対策」、10月から11月にかけ「汚職防止」、12月には「証人及び内部通報者の保護」など、いずれも国際組織犯罪防止条約および国連腐敗防止条約上の重要論点をテーマとする研修・セミナーを実施し、各国における刑事司法の健全な発展と協力関係の強化に貢献しています。

テロ対策に関しては、テロリストにテロの手段や安住の地を与えない、そしてテロに対する脆弱性を克服するという観点から、テロ対処能力が必ずしも十分でない開発途上国に、テロ対策能力向上のための支援をしています。特に2006年以降、テロ対策等治安無償資金協力が創設され、日本は開発途上国でのテロ対策の支援を強化しています。

とりわけ日本と密接な関係にある東南アジア地域におけるテロを防止し、安全を確保することは、日本にとっても重要であり、重点的に支援を実施しています。具体的には、出入国管理、航空保安、港湾・海上保安、税関協力、輸出管理、法執行協力、テロ資金対策、テロ防止関連諸条約などの各分野において、機材供与、専門家の派遣、セミナーの開催、研修員の受入れなどを実施しています。たとえば、日本は1987 年度以降毎年「出入国管理セミナー」を開催し、東南アジア諸国などの出入国管理行政機関の担当者を招き、情報・意見交換を通じた相互理解の増進や協力関係の強化、そして各国の出入国管理業務に携わる職員の能力の向上を支援してきました。

また、2010年3月にはシンガポールとの共催により、日本およびAPEC加盟国関係者間で海上貿易の安全を高めるための施策や支援について意見交換・議論を行うことに焦点を当てたセミナーを開催しました。さらに、UNODCテロ防止部へ2009年度に約6万7,000ドルの拠出を行い、インドネシアを中心としたASEAN諸国へのテロ対策法整備支援を実施しました。

このほか、海賊行為についての対策も講じる必要があります。日本は、石油や鉱物などのエネルギー資源の輸入のほとんどを海上輸送に依存しており、海上交通路における海賊対策は日本の平和と安定に直結します。特に、ソマリア沖・アデン湾では海賊事案が多発、急増し、国際社会の取組にもかかわらず、海賊の活動地域が拡大しており、引き続き国際社会の大きな脅威となっています。日本は、2009年6月に成立した「海賊対処法」に基づき、自衛隊を派遣し海賊対処行動を実施しています。

ソマリア沖海賊問題を解決するためには、海賊対処行動に加え、沿岸国の海上取締り能力の向上と不安定なソマリア情勢の安定化を含めた多層的な取組が必要です。日本は、これを実現するため種々の支援を行っています。たとえば、ソマリア周辺地域における海賊対策の訓練センターおよび情報共有センター設立を支援するため、日本が主導し、国際海事機関(IMO)に設置された基金に約14億円を拠出しました。また、海上取締り能力向上のために、ソマリア周辺国の海上安保機関職員を引き続き日本に招へいして研修を行っています。さらに、ソマリア和平の実現に向けて2007年以降、ソマリア国内の治安の強化、および人道支援・インフラ整備の2つの柱からなる約1億2,440万米ドルの支援を実施しています。

外務省 テロに強い世界へ向けて  パンフレット

外務省 テロに強い世界へ向けて パンフレット

●ウズベキスタン「大型貨物用検査機材整備計画」

中央アジアの中心に位置するウズベキスタンは、隣接するアフガニスタンからの麻薬・武器などの非合法物資の輸送ルートとなっています。現在、ウズベキスタンの国境税関所においては手作業による貨物検査を行っていますが、中央アジア域内での道路輸送網の整備に伴い物流が増加する中で、国境における通関の迅速化が求められています。こうした状況を踏まえ、日本は、ウズベキスタンにおけるアフガニスタンとの国境税関所とタジキスタンとの国境税関所に対し、大型のX線検査機材を各1台ずつ供与し、ウズベキスタンにおける非合法物資の流出入の阻止を支援し、迅速で安全な通関手続の整備を支援しています。


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