(2)感染症

HIV/エイズ、結核、マラリアなどの感染症は、個人のみならず、開発途上国の経済社会発展にとっても大きな問題であり、特にHIVと結核の重複感染、多剤耐性・超多剤耐性結核などが深刻化しています。2009年4月には新型インフルエンザA(H1N1)が発生し、高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)から発生する可能性のある新型インフルエンザも依然として脅威となっていることから、対策の強化が国際的課題です。さらに、シャーガス病、ギニア・ウォーム症、フィラリア症、住血吸虫症などの「顧みられない熱帯病」に関しては、世界全体で約10億人が感染しており、開発途上国に多大な社会・経済的損失を与えています。このように感染症は国境を越えて影響を与えることから、国際社会が一致して対応する必要があり、日本も関係国や国際機関と緊密に連携して対策に取り組んでいます。


< 日本の取組 >

HIV/エイズ、結核、マラリアの三大感染症について、日本は世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)を通じた支援に力を入れており、これまでに約12億9,000万ドルを拠出しました。また、世界基金の支援を受けている開発途上国において、三大感染症対策が効果的に実施されるよう、日本の二国間支援との有機的な連携を進める努力を行っています。

結核に関しては、日本は、「ストップ結核世界計画2006 ~ 2015年(Global Plan to Stop TB 2006 ~ 2015)」に基づき、世界保健機関(WHO)が指定する結核対象重点国などまん延状況が深刻な国に対して、感染予防、早期の発見、診断と治療継続といった一連の結核対策の実施促進を支援しています。また、2008年7月に官民5者で発表した「ストップ結核ジャパン・アクションプラン」にのっとり、日本が自国の結核対策で培った経験や技術を活かし、官民が連携して、開発途上国に対する結核対策に取り組んでいます。

HIV/エイズ対策のために、日本は新規感染予防のための啓発・検査・カウンセリングの普及や、エイズ治療薬の配布システムの強化支援などを行っています。特に予防啓発や感染者および患者のケア・サポートなどには、アフリカを中心に「エイズ対策隊員」と呼ばれる青年海外協力隊員が精力的に取り組んでいます。

乳幼児死亡の主な原因の一つであるマラリアについては、コミュニティ強化を通じたマラリア対策の取組支援や国連児童基金(UNICEF)との協力による支援を行っています。インフルエンザに関しては、日本は、2005年以来、新型インフルエンザ対策として、総額約4.16億ドル(2010年4月現在)の国際協力を表明しています。2009年4月に北米で発生し世界中に流行したH1N1インフルエンザ対策として、開発途上国におけるワクチン接種支援のため、WHOを通じて約11億円の緊急無償資金協力を実施しました。また、将来発生し得る新型インフルエンザに備えるため、ASEAN、アジア欧州会合(ASEM)との協力による抗ウイルス薬などの備蓄や供与、WHOUNICEFなど国際機関との連携による啓発や能力強化、二国間協力による発生状況の監視体制の強化などを推進しています。さらに、家きん段階における対策が緊急の課題であることから、国際獣疫事務局(OIE)を通じてアジア・太平洋地域における協力体制を構築し、高病原性鳥インフルエンザ対策や野鳥の疫病サーベイランスなどを推進しています。

世界的根絶が課題となっているポリオについては、流行国に指定されているナイジェリア、インド、アフガニスタン、パキスタンの4か国を中心に、UNICEFを通じたポリオ・ワクチン供与の支援を行っているほか、2009年4月にタジキスタンおよび周辺国で大発生が確認された事態に対応するため、20 万ドルのUNICEFを通じたポリオ・ワクチン供与支援を決定しました。

顧みられない熱帯病対策において、日本は、世界に先駆けて中米諸国のシャーガス病対策に本格的に取り組み、媒介虫対策の体制確立支援によって感染リスク減少に貢献しています。また、フィラリア症についても、駆虫剤と啓発教材の供与および協力隊員による啓発予防活動などにより、大幅な新規患者数の減少や非流行状態の維持を目指しています。

●アフガニスタン「結核対策プロジェクト」

保健状況が世界で最も劣悪な国の一つであるアフガニスタンでは、死因の第1位は感染症であり、その中でも結核が大きな割合を占めています。2004年から実施しているこのプロジェクトでは、結核治療サービスの改善を目的とし、日本人専門家の派遣や機材供与を通じて、国家結核対策プログラム(NTP(注39))の機能強化、結核検査技術の改善などについて支援しています。その結果、結核患者発見率は73%、治療成功率は89%を達成しており、質の高い結核治療サービスが普及しつつあります。

アフガニスタン_国立結核研修所

結核検査技術の向上のため、国立結核研修所(National Tuberculosis Institute)にて、研修を受けている検査技師

●ザンビア「HIV/エイズケアサービス管理展開プロジェクト」

ザンビアのHIV 感染率は14.3%(2007年)と高く、抗レトロウイルス治療(ART)と呼ばれるエイズ治療を拡大し、死亡者数を減少させることは最重要課題の一つです。日本は2006年から、先行案件である「HIV/エイズケアサービス強化プロジェクト」を通して、ARTを人的・物的資源の限られた地方部でも実施できるよう「モバイルARTモデル」の構築を支援してきました(注40)。このモバイルARTモデルでは、アクセスの良さとサービスの質の高さにより治療脱落率を低く抑えられ、またザンビア保健省による独自の治療実施が可能なことを証明しました。この成果をさらに拡大させようと、2009年度より対象地域を広げ、本プロジェクトを実施しています。2010年以降は、世界エイズ・結核・マラリア対策基金などを活用した全国へのモバイルART拡大が予定されています。

隔週で群病院から定期巡回し、地方のヘルスセンターでARTを処方する准医師

隔週で郡病院から定期巡回し、地方のヘルスセンターでARTを処方する准医師


注39 : NPT: National Tuberculosis Control Program

注40 : HIV/エイズケアサービス強化プロジェクトは2009年3月に終了。


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