第2節 課題別の取組

ODA大綱では、貧困削減、持続的成長、地球規模課題への取組、および平和構築の4つを重点課題として掲げています。本節では、これらの課題について最近の日本の取組を紹介します。

1. 貧困削減

(1)教育

教育は、貧困削減のために必要な経済社会開発において重要な役割を果たすとともに、個人が自らの才能と能力を伸ばし、尊厳を持って生活することを可能にします。また教育は、他者や異文化に対する理解を育み、平和の礎となります。しかし世界には、学校に通うことのできない子どもが約7,200万人おり、そのうち女子が54%を占めています。最低限の識字能力を持たない成人も約7億5,900万人にのぼり、その約3分の2は女性です(注7)。このような状況の改善に向け、国際社会は「万人のための教育(EFA注8))」の実現を目指しています。


< 日本の取組 >

日本は、従来から、「国づくり」と「人づくり」を重視しており、開発途上国の基礎教育や高等教育、職業訓練の拡充などの幅広い分野における教育支援を行っています。2002年には「成長のための基礎教育イニシアティブ(BEGIN注9))」を発表し、教育の機会の確保や質の向上、マネジメント改善を重点項目に、学校建設や教員養成などハード・ソフト両面を組み合わせた支援を行っています。

また、2015 年までに初等教育の完全普及を目指す国際的な枠組みであるファスト・トラック・イニシアティブ((FTI注10))においては、2008 年1月からG8 議長国として共同議長および運営委員を務め、FTIの議論および改革への取組に深く関与するとともに、FTIの関連基金に対して、2007 年度から2009年度までに総額約480万ドルを拠出しました。

2008年4月、日本は、EFAの自立と持続可能性に関する国際シンポジウム(注11)において、質・量両面における基礎教育のさらなる充実、基礎教育を超えた多様な教育段階における支援強化、教育と他分野との連携、内外を通じた全員参加型の取組を重視すべきとのメッセージを発信しました。

その具体的取組として、2008年からの5年間で、アフリカにおいて約1,000校(約5,500教室)の建設、全世界で約30万人(うちアフリカで約10万人)の理数科教員の能力向上、アフリカにおける学校運営改善の取組の1万校への拡大を表明し、その着実な 実施を行っています。また、識字分野では、アフガニスタンにおいて2008年から4年間で国連教育科学文化機関(UNESCO(ユネスコ))を通じた総額約15億円となる無償資金協力により約30万人の識字教育を支援しており、同国の識字教育の推進に貢献しています。

近年では、国境を越えた高等教育機関のネットワーク化の推進や周辺地域各国との共同研究、「留学生30万人計画」に基づく日本の高等教育機関への留学生受入れなど多様な方策を通じて開発途上国の人材育成を支援しています。さらに、国内の大学が持つ「知」(研究成果や高度人材育成機能)を活用して国際協力の質的向上を目指す「国際協力イニシアティブ」 事業を実施しています。その主な取組として、日本の教育研究関係者が持つ知見をもとに国際協力に有用な教材やガイドラインなどを作成し、それらを広く活用できるよう公開しています。また、「青年海外協力隊現職教員特別参加制度(注12)」を通じて現職教員の青年海外協力隊への参加を促す努力を行っています。開発途上国へ派遣された現職教員は、現地に おいて教育や社会の発展に貢献するとともに、帰国後には国内の教育現場でその経験を活かしています。さらに、2010年には、2011年からミレニアム開発目標(MDGs)の達成期限である2015年までの間の新教育協力政策を策定しました。


注7 : (出典)UNESCOEFAグローバル・モニタリング・レポート2010」(2010)

注8 : EFA:(第Ⅰ部 注6参照)

注9 : BEGIN:(第Ⅰ部 注5参照)

注10 : FTI:(第Ⅰ部 注7参照)

注11 : 2008年4月21日から25日にかけて東京にて行われた「万人のための教育(EFA)」実務者会合及び関連会合の一環として、外務省、広島大学、早稲田大学の共催で開催されたシンポジウム。

注12 : 文部科学省がJICAに推薦した教員は、一次選考の技術試験が免除され、また日本の学年に合わせて、派遣前訓練開始から派遣終了までの期間を4月から翌々年の3月までの2年間(通常2年3か月)とするなど、現職教員が参加しやすい仕組みとなっている。


●ケニア「理数科教育強化計画プロジェクトSMASE」 

日本は、アフリカにおける産業発展に必要な人材育成のため、ケニアの中等理数科教師約2万人に研修を行い、教授法の改善を通じて生徒の学力向上に貢献しています。さらに、他のアフリカ諸国でもこの取組を普及させてほしいとの要請を受け、日本は、ケニアを中心に設立されたアフリカ理数科教育域内連携ネットワーク(SMASE-WECSA(注13))を通じ、ケニアによるアフリカ域内の国に対する理数科教育教科活動の支援を行っています。

ケニア「理数科教育強化計画プロジェクトSMASE」

理数科教育を受けているケニアの子どもたち(写真提供 : JICA

ASEAN工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net(注14)) 

ASEAN諸国では、持続的・安定的な経済開発とそれを支える工学系人材の養成への認識が高まっています。そこで日本は、産業界に貢献する人材を輩出するため、ASEAN10か国19大学と日本の11大学の大学間ネットワークを形成し、各国中核大学の教育・研究能力強化と工学系人材の育成を目指す事業を行っています。科学技術分野の日本の知見を活かし、ASEAN域内・日本での若手教員の学位取得(修士号・博士号)、国際共同研究、教員相互派遣、地域学会形成などの活動を行い教員の能力強化や大学院プログラム改善などの成果を挙げるとともに、日本の科学技術外交や大学の国際化などにも貢献しています。

ASEAN工学系高等教育ネットワーク

SEED-Net地震被害調査プロジェクトチーム(写真提供 : JICA


注13: SMASE-WECSA: Strengthening Mathematics and Science Education (SMASE)-Western, Eastern, Central and Southern Africa

注14: AUN/SEED-Net: ASEAN University Network/ Southeast Asia Engineering Education Development Network


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