コラム 13 子どもたちから地域に広がる交流~マケドニアの民族間交流支援~
マケドニアでは春と秋の年に2回、政府ばかりでなく、国民総出で植林を行います。2010年の春の植林は3月30日に行われました。例年どおり、この日は全国休日となり、政府の職員も学生、生徒も一斉にそれぞれ所定の場所に集まり、森野局から配られる杉や松の苗木を数時間かけて植えました。
上田貴子(うえだたかこ)さんも、この日、マケドニア南部にあるスツルガ市で地元の小学生や、教師ら約300人の人々とともに植林に参加した一人です。上田さんは日本のNGO、日本紛争予防センター(JCCP)の在バルカン駐在員です。一緒に苗を植えた人たちは、JCCPが日本政府の資金協力*1を得て、スツルガ市で行っている共同清掃とワークショップ事業*2にも参加しています。
旧ユーゴスラビアから1991年に独立したマケドニアの人々は、穏和で親切な国民性で知られています。スツルガ市は、このような人々が暮らす、歴史ある建物や石畳の目抜き通りが美しい、文化の香り高い街ですが、市内はマケドニアの他の地域と同じように異なる雰囲気を持つ地区から形作られ、マケドニア系住民とアルバニア系住民がそれぞれ分かれて住んでいます。
スツルガ市では、2009年の大統領選挙を間近に控えた時期に、2つの民族の高校生の間で、大きな対立がしばしばありました。そして、民族ごとに住む場所や学校が異なるアルバニア系住民とマケドニア系住民の交流の必要性があらためて確認されました。
2010年にJCCP は、スツルガ市で小学生を対象に、民族や宗教を越えて定期的に、共同で市街地を清掃したり、お互いの学校を訪ね合い、一緒に折り紙や歌をうたうワークショップを行うなどの活動を通して、民族の融和をはかるプロジェクトを始めました。
この事業でJCCP在バルカン代表の松元洋(まつもとひろし)さんとともに、活躍したのが上田さんです。上田さんは、大学時代にボスニア・ヘルツェゴビナの紛争を紹介したテレビのドキュメンタリー番組に衝撃を受け、国際協力に関心を持ち、ポーランドで青年海外協力隊員として活動したほか、NGOなどで開発途上国の青少年を支援してきました。「地域に住む人々がいつまでも幸せで健康に生きる社会を一緒につくることが私のライフワークです」と上田さんはいいます。
上田さんは、「自分自身の子どもが民族間対立に巻き込まれた校長先生が、清掃活動やワークショップについての校長会議で積極的になってくれたおかげで、最初は消極的だったもう一つの民族の校長先生もやる気になってくれました」と、スツルガの人々が自ら積極的に共同事業に参加したことによって、プロジェクトに弾みがついたといいます。
「プロジェクトの成果が子どもたちから家族へ、そして地域住民へと伝わるにつれ、あるコミュニティに他の民族の子どもたちが訪れたという話を聞いたときは、とてもうれしかったです」。そして、「この子どもたちのために、一緒に頑張ってくれる人々とつながり、ネットワークを広げていきたい」と明るい未来への思いを語ります。
*1 : 日本NGO連携無償資金協力
*2 : 異なる民族間の交流促進/スツルガ市の小学生による共同清掃とワークショップ事業
スツルガの子どもたちと(右から5人目が上田さん) (写真提供 : JCCP)
植林をする子どもたち(写真提供 : JCCP)