コラム 12 海を越えて情報にアクセスを~大洋州へのICT支援~
夜空の満天の星のように多くの島々が点在する南太平洋。大洋州の島国では、昔ながらの多彩な文化が絶えることなく伝えられるとともに、域外からの技術も取り入れて、個性豊かな社会をつくっています。こうした色とりどりの国々に海を越えて高等教育を行う大学が、フィジーに本校のある南太平洋大学(USP*1)です。その加盟国・地域*2にもキャンパスや学習センターがあり、衛星通信による遠隔教育が行われています。
USPの加盟国・地域では、たとえば、ツバルやキリバス離島部のように、情報源がラジオに限られてしまうなど、情報へのアクセスが課題です。日本は1998年からUSPの通信手段である情報通信技術(ICT)を活用した教育や施設整備などに対し支援を行っています。また、2003年に沖縄で開かれた太平洋・島サミットでは、USPをICTの拠点とすることが打ち出されました。
このICTの技術協力プロジェクト*3にJICAジュニア専門員として活躍するのが村上信也(むらかみしんや)さんです。村上さんは、大学時代にアフリカのアンゴラでボランティアを経験し、社会人となってからも青年海外協力隊員としてミクロネシアで活動するなど国際協力に関心を持ち、実務に携わって来ました。
村上さんは、ICT 企業での勤務経験から、ネットワーク分野の専門家として協力活動をするかたわら、日本から派遣されるICTの専門家とUSPの担当者が順調にプロジェクトを進めることができるよう支援をしています。USPのプロジェクトについて、「ICTは大洋州地域の特殊な地理的条件を乗り越える大きな可能性を持っています。同じ大洋州地域内でも経済規模の大きい国と小さい国の間、さらにそれぞれの国内でも本島と離島の間に大きな情報格差(デジタル・デバイド)が生じています。技術移転と人材育成を通じ、最終的にこの格差の是正に貢献することが目標です」といいます。そして、2010年7月には、Japan-Pacific ICTセンターのA 棟とB棟が完成しました。センター設立に情熱を傾けられた故牧野JICA国際協力専門員をはじめとする関係者の多大な努力が実を結んだのです。今後、このセンターが、各種技術協力と相まって、ICT 教育と域内各国へのICT発展のための拠点として発展していくことが期待されます。USPの副学長であるラジェシュ・チャンドラ教授は、「大洋州の人々の生活をより良くするために、USPは持てる知識と人材、インフラのすべてを活用していきます。このきっかけを与えてくれた日本政府と日本の人々に大変感謝しています」と語ります。
今、村上さんは、プロジェクトが着実に進行し、ICT が域内に広がる手応えを感じています。「ICTの活用方法は、地域や文化によって様々です。USPが有能なICT人材を輩出し、彼らが中心となってアイデアを出し合い、今後大洋州地域の地理的隔絶性を克服していってほしい。そのための土台構築を支援するのがこのプロジェクトの役割だと思っています」と村上さんは、大洋州でのICT 発展の可能性に期待します。
碧い空とエメラルドブルーの海を越えて、共有される情報。伝統と先端技術が入り交じるパレットのように多彩な社会が南太平洋に築かれつつあります。
*1 : The University of the South Pacific 太平洋地域の12の国・地域が加盟する国際機関大学
*2 : フィジーをはじめ、バヌアツ、サモア、トンガ、キリバス、ソロモン、マーシャル、ツバル、ナウル、ニウエ、トケラウ、クック諸島
*3 : 南太平洋大学 ICTキャパシティデベロップメント プロジェクト
大洋州地域ICT大臣会議にてトンガのピロレヴ王妹殿下(中央)、USPカウンターパートたちと(右端が村上さん)(写真提供 : 村上さん)
プロジェクト拠点であるJapan-Pacific ICTセンター(USPフィジー・ローザラキャンパス)(写真提供 : 村上さん)