コラム 11 信頼関係で世界遺産を保存~グアテマラ・ティカル遺跡への協力~

「常春の地」といわれる温暖な気候を有するグアテマラ。うっそうと茂るジャングルが続くその北部に忽然と姿を現すのが紀元3世紀から9世紀ごろ栄えたマヤ文明最大の都市ティカルの遺跡です。その神殿、彫刻などは、人類史の上で重要な価値があり、多くの観光客が訪れるグアテマラ随一の観光資源であると同時に、保存、修復が課題となっています。

日本は2010年から一般文化無償資金協力により、ティカル遺跡の遺物を保存、修復するための施設の建設と機材の整備に協力*1しています。

この協力の一翼を担っているのがサイバー大学教授の中村誠一(なかむらせいいち)さんです。中村先生は高校時代にマヤ文明にロマンを感じ、金沢大学で考古学を専攻しました。卒業後、マヤ遺跡への関心から、ホンジュラスで青年海外協力隊員として発掘調査に携わり、今日までマヤ遺跡とかかわり続けています。

中村先生は、日本の大学の教員であるため、グアテマラには常駐せず、日本と行ったり来たりしながら、協力活動をしています。プロジェクトの目標である文化遺産保存研究センターの建設を進めるためグアテマラ文化スポーツ省の会議に出席したり、担当者と一緒に遺跡のあるティカル国立公園に行きます。公園内の現場では、遺物の発掘や修復の現場を見て、考古学にもとづくアドバイスを与えます。また、プロジェクト全体を順調に進めるための支援もします。

ティカル遺跡は、UNESCO(ユネスコ)にも登録されている世界遺産*2ですが、中村先生は、支援に当たり、常に心がけていることがあります。「世界遺産である前に、まずグアテマラなどの現地の宝です。彼らにとって大切なものに外国人がかかわるには『彼なら任せても大丈夫』という信頼を得ることです」とその国の人々との信頼関係が大切だと話します。

忙しい日々を送る中村先生ですが、プロジェクトを継続させていく上で、苦労することもあります。グアテマラ側の責任者が頻繁に交代するため、新しく来た人に、計画を理解してもらうためにその内容について最初から説明しなおすこともあるそうです。「計画を進めていくには、粘り強く相手方に説明しなければなりません」とその苦労を話します。

マヤ文明の遺跡は、メキシコ、グアテマラ、ベリーズ、ホンジュラス、エルサルバドルの5か国にまたがっています。これらの国々の人々は、それぞれに自分たちの国のマヤ遺跡を誇りに思っています。

しかし、この自分の国の遺産こそ一番だと思う気持ちが強くなりすぎると、マヤ遺跡についての交流がうまくいかなくなることがあります。中村先生は、「このようなときに私のような日本人が間に入ることによって、交流が活発化することがあります。マヤ遺跡の保存という共通の目的のために、お互いの知識、技術や経験を交換でき、とても好ましいことであると思います」と専門知識を持つ外国人の協力の意義を話します。

多彩な自然と貴重な文明が共生するティカルで、このプロジェクトは、2010年現在、順調に進み、育まれています。グアテマラの人々は、プロジェクトの重要性をよくわかり、経済的な制約がある中、できる限りの範囲で遺跡や遺物を保存していこうとしています。今回の保存研究センターの設立について中村先生は、「このプロジェクトはグアテマラの人々の自助努力の後押しをする協力の第一歩です。今後、保存研究センターを拠点に、日本の大学・学術機関の協力を得て、ティカルでの学生、教員同士の交流やマヤ遺跡の国際共同研究を模索していきます」と夢を将来につなぎます。


*1 : ティカル国立公園文化遺産保存研究センター建設計画

*2 : 文化遺産と自然遺産の両方の価値を兼ね備えた複合遺産

発掘現場での支援

発掘現場での支援(左側が中村先生)写真提供:中村先生)

ティカル遺跡のピラミッド

ティカル遺跡のピラミッド(写真提供 : 中村先生)

グアテマラの地図


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