コラム 9 適切な医療を難民に~ジブチでの難民支援~

紅海を臨むアフリカの角のつけ根に位置するジブチ。ヒト、モノがジブチ港を経由して対岸のアラビア半島と行き来し、アフリカとアラブの十字路にあたります。

ジブチには1990年ごろからソマリアやエチオピアで起こった紛争を契機に多くの難民が国境を越えて流れ込み、ソマリアとの国境に近い難民キャンプで、故郷への帰還や他の国への移住を待ちつつ暮らしています。一旦は終息したかに見えた難民の流入ですが、2008年に起こったソマリア南部での政情悪化で、ふたたびその数が増えました。

日本のNGOであるAMDA(アムダ)は、1993年から国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の実施パートナーとして、ジブチでソマリアなどからの難民に対する保健医療サービスを行っています。主な活動としては、難民キャンプにおける診療、母子保健サービス、栄養改善プログラム、保健衛生教育、そしてキャンプでの治療が困難、精密検査を必要とする患者などを、より高度な医療設備と技術を有する医療機関へ紹介、搬送するリファラルサービスです。

AMDAは、日本政府の資金協力*1 を得て、2008年から3年間の計画でこのリファラルサービスを強化する事業に取り組んでいます。

ジブチでAMDAの代表をつとめるのが村上久子(むらかみひさこ)さんです。もともとは、日本語を教える仕事をしていたのですが、1990年代にパキスタンで日本語を教えているとき、アフガニスタンやサラエボから流入してきた難民を間近で見るうちに、人道支援や開発に関心を持ち、アメリカへの留学を経て、国連ボランティアを皮切りに支援活動に携わって来ました。

村上さんは、代表として首都のジブチ市でリファラルサービスの必要な患者の受け付けから、入院後のフォローアップまで、一貫してこのサービスを必要とする難民に対する支援などを行っています。難民の数が増えたことにともない、できるだけ効率的なリファラルサービスを行うために、明確な基準の設定、システム運用の改善などを続けています。

スタッフに恵まれたこともあり、順調に業務を行っていますが、難民キャンプのコミュニティリーダーが、自分のコミュニティの患者を早く治療して欲しいと思うあまり、村上さんにつかみかかりそうになるなど、危険な目にあったこともあるそうです。また、週に1回は、難民キャンプの近くにあるフィールド事務所まで往復250kmのドライブをして日帰りで訪れ、現場の様子を見るなどリファラル関係以外にも多くの仕事を代表としてこなします。治安が安定しているジブチですが、村上さんを悩ませるのは、暑さです。特に7、8 月にアラビア海を越えてくる“ハムシン”とよばれる風は、「まるでドライヤーを顔に当てたようにヒリヒリする」ほど厳しいものだそうです。

このような村上さんたちの取組の結果、2009年には、2,406人がリファラルサービスを受け、より上位の医療機関に搬送されました。また、有志によるロバを使った清掃活動やAMDAのスタッフとともに公衆衛生の改善をはかるなどのコミュニティ活動にも取り組んでいます。そのほかにも、難民によるヘルスコミッティを立ち上げ診療所経営に難民自身が携わるようにしました。

村上さんは、リファラルの強化に加え、難民自身によるこうした取組について、「難民という限られた枠の中で少しでも“自立”の方向に考えが及ぶのではないでしょうか」と、期待を寄せています。


*1 : 日本NGO連携無償資金協力(プロジェクト名 : ジブチ共和国におけるソマリア・エチオピア難民リファラル強化事業)

AMDAジブチ事務所

AMDAジブチ事務所(右が村上さん)(写真提供 : 村上さん)

難民キャンプでのロバを使った清掃活動

難民キャンプでのロバを使った清掃活動(写真提供 : 村上さん)

ジブチ


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