コラム 8 教育の機会を提供し、自立を促す~バングラデシュで家事使用人として働く少女を支援~
世界の最貧国の一つであるバングラデシュ。この国では子どもたちへの支援が課題となっています。ストリートチルドレンについては、多くの団体が援助を行っていますが、その大半は男の子が対象です。日本のNGOであるシャプラニールは、「貧困層の女の子たちがどこにいるのか?」という問題意識から調査を行い、首都ダッカで家事使用人として働く少女たちの支援*1を日本政府と協力して行っています。このプロジェクトをシャプラニールの駐在員として指揮するのが菅原伸忠(すがはらのぶただ)さんです。
大学生のときに南北問題を知り、衝撃と憤りを感じて国際協力の道を志した菅原さん。神戸大学大学院国際協力研究科で学んだ後、民間企業勤務を経て、2008年にシャプラニールに就職し、2010年5月からダッカに赴任しました。
支援を必要とする「目に見えない」少女たちがどこにいるのかをさがすことから、菅原さんたちの仕事は始まりました。実際に、現場ではパートナーである現地のNGOと連携してプロジェクトを行うのですが、家の中で働くこうした少女たちの存在を見つけることは容易ではありません。そこで、シャプラニールの支援に協力してくれる、働く少女たちの雇い主をさがし、その数を徐々に増やしていくことにしました。
しかし、当初はプロジェクトの趣旨がなかなか雇い主に理解されず、スタッフが門前払いされることもしばしばあったそうです。菅原さんは、「困難な作業でしたが、コミュニティや少女たちの雇い主との信頼関係を築くようにスタッフを励ますとともに、その前提として私たちが彼らとの信頼関係を築くことに心をくだきました」とその苦労を語ります。
スタッフがあきらめず訪問を続けた結果、しだいにこのプロジェクトを理解する雇い主が増え、支援を必要とする少女たちの居場所が明らかになっていきました。
菅原さんたちは、少女たちの雇い主と交渉し、彼女たちが支援センターで勉強や職業訓練を受けられるように働きかけました。支援センターでは、少女たちが将来自立できるように読み書きや計算などを教えたり、アイロンかけや料理およびミシンを使った縫製などの職業訓練を行います。
日本とバングラデシュのNGOが連携して協力することにより、少女たちは支援センターに通うようになりました。しかし、彼女たちが勉強や職業訓練を続けられるようにするには、NGOスタッフから粘り強く雇い主に訴える必要がありました。菅原さんは、「雇い主への訪問回数と少女たちの支援センターへの出席率は、明らかに関係があるため、私たちは絶やすことなく家庭訪問を行っています」といいます。
このようにして支援センターに通い、読み書きを覚え、職業訓練を受けた少女たちは、しだいに自分たちの力で立ち上がります。何人かの少女たちは雇い主に、「アイロンや料理も上手にできるようになりました。だから私の給料を上げてください」と交渉し、彼らの同意を取り付けたそうです。
自信を得つつある少女が増える中、菅原さんは、「自立に必要なものは彼女たちが自信を持つようになることです」と活動的になった少女たちに未来を託します。
*1 : 日本NGO連携無償資金協力(家事使用人として働く少女支援プロジェクト(2010年1~12月))
教材の使い方を教わる少女たち(左から2人目が菅原さん)(写真提供 : シャプラニール)
支援センターでお互いの経験を話す少女たち(写真提供 : シャプラニール)