コラム 7 モンゴルの生命線を守る~火力発電所の改善に取り組むシニア海外ボランティア~

大相撲力士の活躍で日本人にとってすっかり身近になったモンゴルですが、毎年マイナス40度の厳しい冬を迎えることをご存知でしょうか。2009年の冬、モンゴルを襲った雪害では約800万頭もの遊牧民の家畜が被害に遭いました。この厳しい寒さからモンゴルの人々の暮らしを守っているのが首都ウランバートル市にある第4火力発電所です。

この発電所は、モンゴル国内の全電力需要の70%とウランバートル市の集中暖房用温水の65%を供給する、同国最大の熱併給発電所です。1983年の社会主義時代に旧ソ連の支援で運転を開始しましたが、その支援が停止した後、自国の力のみでの発電は難しくなり、日本が協力*1することになりました。

安元昭寛(やすもとあきひろ)さんは、2008年から、この発電所でシニア海外ボランティアとして活動しています。安元さんは、九州大学で大学院まで、主に熱力学や伝熱工学を学び、日立製作所に入社後は、海外の火力発電所の契約、建設などに携わりました。定年退職後、「これまで培った電力技術を海外で役立てたい」との強い思いが募ったころ、シニア海外ボランティアの募集を知り応募しました。当時、応募年齢の上限いっぱいの69歳になっていた安元さんですが、その能力、人柄から採用され、モンゴルへの赴任が決まりました。

安元さんは、発電所の社長室、企画部に配属され、経営改善のためのアドバイスを行っています。発電所の事情なら、何でもわかる安元さんでしたが、仕事を始めてみると、今までとは異なる課題に徐々に向き合うこととなります。

モンゴルの電気・温水の料金は、歴史的な理由や経済事情から低く抑えられています。原料となる石炭の価格も上がり、発電所の経営は、採算がとれるぎりぎりの状態でした。そのため、 安全な運転を続けるために必要な検査機器の買い入れや、緊急を要しない機械の修理は先送りされ、応急修理のみで運転を続けていました。このような機械の状態では、予測できない事故が起こる可能性があります。

こうした状況に対し安元さんは動き出します。発電所の幹部とともに政府に働きかけ、また、視察に来た国会議長に対し、「電気・温水の料金を上げないと、職員の給料も払えないし、機械のメンテナンスの部品も買えない」と訴えました。このような安元さんの奮闘のおかげで、電気・温水の料金は値上げされ、職員の仕事への意識に弾みがついたそうです。

限られた予算の中、政府など外部への働きかけを行う一方、安元さんは、その豊富な知識と経験で、発電所の安全な運転に取り組んでいます。消耗が激しい部位へ検査を集中し、使われずに倉庫に山積みになっていた予備品のリストを作成し、他の修理が必要なところに使えるかチェックするよう、くり返し職員に訴えています。

安元さんは、一緒に働くスタッフについて「過酷な経営環境の中で、エネルギーを必死に守っている発電所職員の努力と忍耐は、尊敬に値します」といいます。これに対し発電所のツェベーン社長は、「途方に暮れていたとき、日本が手を差し伸べてくれた。また、あなたのような発電所の友人を派遣してくれた」と感謝の言葉を述べます。

発電所の若きエンジニアたちの成長が安元さんの励みとなっています。「発電所職員とともにモンゴルの生命線を守るのが私の役割です」。極寒の地で71歳を迎えた安元さんの挑戦はこれからも続きます。


*1 : 有償資金協力、無償資金協力および技術協力

若手エンジニアと蒸気タービンの前で(右が安元さん)
(写真提供 : 安元さん)

若手エンジニアと蒸気タービンの前で(右が安元さん) (写真提供 : 安元さん)

ツェベーン社長と技術について討論(左が社長)(写真提供 : 安元さん)

ツェベーン社長と技術について討論(左が社長)(写真提供 : 安元さん)

モンゴルの地図


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