コラム 6 生き物を守り、環境の大切さを教える~マダガスカルの環境教育への協力~

マダガスカルは、海峡を挟んだアフリカ大陸とは異なる系統の動物や植物の生きる島国です。この島にしかいない固有の生き物も多く、貴重な自然が残っています。しかし、人口の増加と開発のための森林伐採などにより、動植物の生活環境が破壊されつつあります。地球の生き物を守り、環境の大切さを教えることが求められていますが、マダガスカルの首都アンタナナリボにあるチンバザザ動植物園では、動物ではアイアイやキツネザルなど、植物ではバオバブなど同国ならではの固有種が多く見られ、環境教育の拠点の一つとなっています。

「動物と間近にふれあうことで動物を好きになる場所になれば、環境教育や生物多様性の保全に対する動物園の役割は大きいと思います」と、かつて青年海外協力隊員としてチンバザザ動植物園で活動し、現在は仙台市八木山動物公園に勤務する田中ちひろさんはいいます。

田中さんは、マダガスカルで「アイアイって何?」と人々がいうのを聞き、動物園は多くの人々に動物について知る機会を提供し、生き物をどのように守っていくか、みんなで考えてもらうために大切だと思ったそうです。

小さいころからゴリラが大好きだった田中さんは、大学卒業後も霊長類の研究者になることを夢見て、進路を模索していました。そうした時期に、協力隊に応募して合格し、マダガスカルへ派遣されました。

チンバザザ動植物園で飼育員として活動を始めた田中さんは、当初、現地の言葉や仕事がままならず、いろいろと苦労することが多かったそうです。仕事のパートナーであるクロディーヌさんから、「私以外のできるだけたくさんの人と仕事をしなさい」といわれ、ショックを受けましたが、その言葉どおり、できるだけたくさんの職員と仕事をしました。そのおかげで多くの仲間や理解者が増え、「様々な人と知り合ったことにより、自分に何ができるかということについて、広い視野でじっくり考えることができました」と田中さんはふり返ります。また、「道具を使わずにワシを捕まえるなど、制約がある中で、いろいろ工夫している仕事仲間などからも学ぶことがありました」ともいいます。

2年の任期を終えて帰国した田中さんは、八木山動物公園に採用されましたが、2008年には八木山動物公園は宮城教育大学とともに、自然環境保全分野でチンバザザ動植物園に対し協力*1することとなりました。日本から専門家を派遣したり、チンバザザの職員が研修を受けに仙台に来るほか、田中さんもマダガスカル向けの環境教育の教材開発などに携わっています。クロディーヌさんともこの協力事業で再会しました。

2010 年の初夏にもチンバザザの職員が来日し、宮城教育大学で研修を受けたほか、八木山動物公園で田中さんを含む職員から、野生動物の飼育実習や実地の環境教育などを学びました。こうした協力は、豊かな生物多様性を有するマダガスカルでの環境教育に活かされています。

これからの協力について田中さんは、「共通の目的に立って互いの特技を活かした協力関係を築き、問題解決の努力をしていくこと。時間をかけて築かれた人と人のつながりは、語り継がれ、遠い国に住む人を思いやるきっかけとなり、人間以外の動物・自然のことも考えられるようになる・・・日本でもマダガスカルでもこのような良いつながりを生み出せるようになることが理想です」といいます。

●脚注

マダガスカルでは、2009年3月に憲法手続きにのっとらない形で「暫定政府」が樹立されたことから、我が国はマダガスカルに対して、既に実施中の案件を除き、当面新規の二国間援助は原則として行わないとの措置を採っている。ただし、緊急的・人道的性格を有する新規案件および民主化プロセス支援のための新規案件については個別に検討し、実施することの適否について判断する方針としている。このコラムで取り上げている事業は、2008年10月、JICAの草の根技術協力として開始されたものであることから、実施が継続されているものである(2011年3月終了予定)。


*1 : 自然環境保全に関わる環境教育実践プログラム研修(草の根技術協力事業(地域提案型))

八木山の読み聞かせボランティアによる研修で
(前列中央が田中さん)(写真提供 : 田中さん)

八木山の読み聞かせボランティアによる研修で (前列中央が田中さん)(写真提供 : 田中さん)

展示手法の研修(写真提供 : 田中さん)

展示手法の研修(写真提供 : 田中さん)

マダガスカルの地図


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