3. 重点課題について

重点課題に取り組むに当たっては、ODA大綱の基本方針である開発途上国の自助努力(オーナーシップ)支援、「人間の安全保障」の視点、ジェンダーの視点や社会的弱者への配慮を含めた公平性の確保、政策全般の整合性の確保を含めた我が国の経験と知見の活用、南南協力の推進を含めた国際社会における協調と連携を踏まえる。

(1) 貧困削減

(イ) 貧困削減の考え方

a. 開発途上地域では、いまだに約11億人が1日1ドル未満の貧しい生活を余儀なくされている。このような状況に対処するため、2000年9月に開催された国連ミレニアム・サミットを経て、貧困削減、ジェンダー格差、保健、教育、HIV/エイズを含む感染症の拡大防止、環境等について2015年までに達成すべき目標を盛り込んだミレニアム開発目標(MDGs)が設定された。MDGsはより良い世界を築くために国際社会が一体となって取り組むべき目標であり、我が国としては、その達成に向けて、効果的なODAの活用等を通じて積極的に貢献する。

b. 貧困は、単に所得や支出水準が低いといった経済的な側面に加え、教育や保健などの基礎社会サービスを受けられないことや、ジェンダー格差、意思決定過程への参加機会がないことといった、社会的、政治的な側面も有する。MDGsは、多くが教育・保健といった社会セクターに関する目標である。同時に、東アジアにおける開発の経験が示すとおり、持続的な経済成長は貧困削減のための必要条件である。したがって、経済・社会の両側面から包括的に貧困削減の達成を目指すことが必要である。

c. それぞれの国の貧困を形成する要因は、その国の経済構造、政治、文化、社会、歴史、地理等の諸要因が複雑に絡み合ったものであり、各国の個別状況を十分踏まえて支援することが必要である。この観点から、開発途上国自身が策定する貧困削減戦略に貢献するとともに、その貧困削減戦略と整合性の取れた支援を行う。

(ロ) 貧困削減のためのアプローチ及び具体的取組

a. 発展段階に応じた分野横断的な支援

貧困は様々な要因を背景とし、また、貧困層の抱える問題は多様であることから、貧困削減に効果的に取り組むためには、分野横断的な援助が必要である。そのために、案件形成に先立って、国や地域ごとに異なる貧困事情の把握や貧困人口のニーズの分析に努める。貧困層にかかわる様々な情報収集のために、政府やNGO、大学、研究機関、民間企業等とのネットワークを強化する。また、分析に基づき、有償資金協力、無償資金協力、技術協力の二国間援助スキーム及び国際機関を活用した支援を国や地域ごとの事情や相手国の発展段階に応じて効果的に組み合わせて実施する。

例えば、HIV/エイズ対策は、保健医療にとどまらない問題として、各種スキームを活用しつつ、セクター横断的な対策を行う。具体的には、予防及び自発的カウンセリングと検査(VCT)の強化に重点を置くが、同時に、地域保健医療システム全体の強化にも配慮する。また、ニーズに応じて感染者の雇用支援や、治療・ケア、感染者や家族、エイズ遺児等への社会的支援も行う。経済活動の発展に伴う人の移動・集中によるHIV/エイズ流行の危険性、児童や女性の人身売買、麻薬問題等に伴うHIV/エイズ感染リスクの拡大などを考慮し、必要に応じそれぞれの開発援助プログラムにエイズ対策を加えるよう配慮する。

b. 貧困層を対象とした直接的な支援

貧困削減を図る上で、貧困層に焦点を当てた直接的な支援は重要な意義がある。その際、人間の安全保障の視点から、貧困層や地域社会の能力を強化し、自らの生活に影響を与える援助政策の策定やプロジェクトの計画や実施段階において貧困層が参加できるようにすることが必要である。特に、草の根レベルで多様なニーズに応じた対応が可能なNGO等と協働していく。

(i)基礎社会サービスの拡充

貧困層の生活の質の向上を図るため、教育、保健、安全な水、居住の場の確保、電化等の基礎社会サービスの拡充を当該国のガバナンス改善も慫慂しながら積極的に支援する。例えば、貧しい地域で建設された学校で井戸、トイレの設置により衛生状態の改善及び意識の向上を図るほか、給食を通じて児童の栄養改善を図る。基礎社会サービス供給の強化の観点から、中央政府及び地方政府の能力強化や保健医療システム等の強化を支援すると同時に病院や学校へのアクセス改善を目的とした運輸・通信・電力インフラの整備を行う。また、サービスの質の向上を目的として、人材養成・研修、教材の普及を支援する。さらに、女性と子供の健康、リプロダクティブ・ヘルス、感染症対策、女性の能力構築に資する支援を行う。

(ii)生計能力の強化

貧困層の貧困状態からの脱出を可能とするためには、貧困層の生計能力を強化し、自らの生産的活動を通じた収入確保を図ることが重要である。貧困層が裨益するような農産物市場や漁港、農道、灌漑施設等の小規模な経済インフラを整備し、小規模金融(マイクロファイナンス)支援や貧困層を対象とした失業プログラムを実施する。同時に、貧困層に対する技能訓練等、貧困層の能力開発を行う。

(iii)突然の脅威からの保護

貧困層は経済危機、麻薬、犯罪等の社会問題や自然災害等に対して極めて脆弱であることから、こうした脅威からの保護及び対応能力の強化が重要となる。そのために、貧困層を対象とした失業対策、栄養改善プログラムや社会サービスの提供等の「セーフティー・ネット」の構築を支援する。2004年12月に発生したスマトラ島沖大地震及びインド洋津波災害を踏まえ、「防災協力イニシアティブ」に基づき、地震、津波を始めとする自然災害に包括的かつ一貫性のある協力を行う。災害予防を国家政策、都市計画、地域計画に反映・定着させる上で必要な政策提言や制度構築、人材育成及び計画の着実な実施を支援する。また、災害発生後、被災者への支援が速やかに届けられるよう迅速な支援を実施するとともに、復興時において災害と貧困の悪循環を断つことにより、貧困層の災害への脆弱性の緩和に努める。

c. 成長を通じた貧困削減のための支援

貧困削減のためには、貧困層に対する直接的な支援と同様に、国全体あるいは貧困地域を含む地方全体の経済成長を促進して貧困削減につなげるアプローチが重要である。特に、貧困層に裨益効果をもたらす成長となるよう配慮する。

(i) 雇用創出

就業を通じた所得の向上は、貧困層の生活水準を高めるための重要な手段である。このため、特に、労働集約的な中小・零細企業育成を支援する。また、企業活動の基盤となる経済インフラ整備、零細企業の参入・国内外からの投資を拡大するための制度改革及び労働環境整備を支援する。文化面の魅力を活用して観光の振興を図ることは雇用の創出にもつながる。

(ii) 均衡の取れた発展

経済成長を遂げている国においても、地域間格差の問題が存在する。この格差は、多くの場合、貧しい農村地域と比較的恵まれた都市部との間で生じている。農村地域の発展のためには、農業生産性向上が重要であることから、農業関連政策立案支援、灌漑や農道等の生産基盤の強化、アフリカにおけるネリカ稲など生産技術の普及及び研究開発、住民組織の強化を支援する。加えて、農村地域における農産物加工、市場流通や食品販売の振興等の農業以外の経済活動の育成を支援する。

また、このような地域間格差が存在する都市部と村落地域を結びつける運輸、エネルギー、通信等の基幹インフラを整備する。その際、幹線道路に農道を結びつける等の工夫により、基幹インフラが貧困層による経済・社会活動への参加に役立つよう配慮をする。

都市部においても、人口増加や村落地域からの人口流入などにより極めて貧しい地区が存在している。労働集約的な中小・零細企業育成を支援し、特に都市部において小規模金融やその育成に資するような技術協力を行う。

なお、貧困層は自然資源を直接生活の糧としている場合が多いこともあり、環境劣化により特に深刻な影響を受けるため、成長を通じた貧困削減においては、特に持続可能な開発の視点に十分留意する。

d. 貧困削減のための制度・政策に関する支援

(i) 貧困削減のためには、法の下の平等に基づき貧困層の権利が保障され、政治に参画し、自らの能力を発揮できるようにする制度、政策の構築が重要である。そのため、人権の保障、法による統治、民主化の促進に資する支援を実施する。

(ii) 開発途上国政府が適切な開発戦略を策定し、実施できるよう能力向上を支援する。

(iii) 経済危機やインフレーションなどによる貧困層への影響を回避する観点から、適切な財政・金融政策を通じたマクロ経済の安定化は不可欠である。そのために、専門家派遣等を通じて政府関係者の能力強化を支援する。

(2) 持続的成長

(イ)持続的成長の考え方

a. 貧困を削減し、また、開発の成果を持続的なものとするためにも、開発途上国の持続的成長が不可欠である。持続的な経済成長のためには、民間セクターの主導的な役割が鍵となることから、ODAによって、貿易・投資を含む民間セクターの活動を促進することが重要である。加えて、ODAを通じて途上国の多角的自由貿易体制への参画を支援することも重要である。

b. 国際貿易の恩恵を享受し、資源・エネルギー、食料などを海外に大きく依存する我が国としては、ODAを通じて開発途上国の持続的成長のために積極的に貢献する。このことは、我が国の安全と繁栄を確保し、国民の利益を増進することに深く結びついている。

c. 持続的成長の阻害要因を国ごとに分析し、各国の個別状況及び発展段階に応じて経済社会基盤の整備、政策立案・制度整備、人づくりを包括的に支援することが重要である。これらの包括的な支援を通じて各国の投資環境の改善と経済の持続的成長を追求する。

d. 近年、各国間で進んでいる経済連携は、貿易・投資の自由化に加え、経済制度の調和を進めることにより、人、モノ、カネ、情報の国境を越えた流れを円滑化し、関係国全体の成長に資するという重要な意義がある。我が国は、東アジア地域を始め各国との経済連携の強化を進めているが、相手国のうち開発途上国に対しては、経済連携を強化し、その効果を一層引き出すための貿易・投資環境や経済基盤の整備を支援するため、ODAを戦略的に活用していく。

(ロ) 持続的成長のアプローチ及び具体的取組

a. 経済社会基盤の整備

民間セクターの活動を促進する上で、インフラは根本的な重要性を有する。我が国は、従来、経済成長の下支えとなる経済・社会インフラの整備を円借款などを通じて積極的に支援し、アジア地域を中心に経済成長の基盤整備に大きな役割を果たしてきた。経済・社会インフラ整備を促進するに当たっては適切な規模の中長期資金が必要であること、また、十分な自己財源や民間資金の流入を確保し得る開発途上国がまだ一部に限られていることにも留意する必要がある。この観点から、途上国の制度政策環境や債務管理能力などに留意しつつ、道路、港湾等の運輸インフラ、発電・送電施設、石油・天然ガス関連施設等のエネルギー関連インフラ、情報通信インフラ、生活環境インフラといった貿易・投資環境整備等に資する経済社会基盤の整備を支援する。また、インフラの維持管理と持続性の確保のため、インフラ整備への支援と併せて、分野ごとの課題に関する政策策定・対話の推進、人材育成等、インフラのソフト面での支援も行う。

インフラ整備が幅広い地域や国境を跨いで裨益をもたらす場合もあることから、支援を行うに当たっては、地域全体の発展という観点を考慮する。また、国境を越えた人・モノの移動の円滑化を確保する観点から保安上の問題への対処能力向上や安全対策を支援する。開発途上国にとってのODA以外の資金の重要性にかんがみ、民間資金及びODA以外の公的資金(OOF)との役割分担と連携や、民間セクターの参入等を図る官民パートナーシップ(PPP:Public Private Partnership)の構築を重視する。インフラの建設に当たっては、環境社会配慮を徹底する。

b. 政策立案・制度整備

経済社会基盤の整備に加え、マクロ経済の安定化、貿易や投資に関する政策・制度の構築、情報通信社会に関する政策・制度整備といったソフト分野の支援は、民間セクターが牽引する持続的な成長を促進する上で不可欠である。

マクロ経済の安定化に関しては、適切かつ持続可能な財政・金融政策、公的債務管理、経済政策の立案・実施に向けた支援を行うとともに、貿易・投資の拡大を見据えた産業政策、地方分権化を受けた地方振興策等の立案に向けた支援を重視する。具体的には、財務管理、金融、税務、税関分野の制度構築、人材育成のための支援を行い、また、地場産業や裾野産業の振興を支援する。特に市場経済移行段階の開発途上国に対しては、政策、制度構築、法整備、人材育成を含めた市場経済化支援を行う。

貿易・投資促進のための制度整備に関しては、各国の経済状況に配慮しつつ、政府調達、基準・認証制度、知的財産権保護制度、物流網構築やその運用に向けた支援を含め、国際経済ルールにのっとった制度整備を支援していく。汚職の撲滅、法・制度の改革、行政の効率化・透明化、地方政府の行政能力の向上は、民主的で公正な社会の実現のためにも、また、投資環境の改善のためにも重要であることから、ガバナンス分野で政府の能力向上を支援する。

c. 人づくり支援

人づくりは、労働力の質的な改善につながるとともに、新たな技術革新を生み出す力ともなる。我が国の経済発展の経験に照らしても、国の経済・社会開発や科学技術振興に必要な官民の人材育成が経済成長に果たした役割は大きい。したがって、開発途上国における基礎教育、高等教育及び職業訓練の充実に向けた支援に加え、我が国の高等教育機関への留学生の受入れなどを通じた幅広い分野における人材育成のための支援を行う。また、専門家の派遣や研修制度等を活用し、我が国の技術、知見、人材を活用して我が国の経験を伝えつつ、中小企業振興や情報通信を含む産業発展を始めとする様々な分野における人材育成を支援する。

d. 経済連携強化のための支援

地域レベルの貿易・投資の促進は、各国の経済成長に直接貢献するとともに、開発に必要な資金の動員や民間セクターの技術水準向上等に寄与する。このため、国や地域に跨る広域インフラの整備を行うほか、貿易・投資に関連する諸制度の整備や人材の育成を積極的に支援する。我が国が経済連携を推進している各国・地域に対しては、知的財産保護や競争政策等の分野における国内法制度構築支援や、税関、入国管理関連の執行改善・能力強化支援、情報通信技術(ICT)、科学技術、中小企業、エネルギー、農業、観光等の分野における協力を行う。

(3)地球的規模の問題への取組

地球温暖化を始めとする環境問題、感染症、人口、食料、エネルギー、災害、テロ、麻薬、国際組織犯罪といった地球的規模の問題は、国境を越えて個々の人間の生存にかかわる脅威である。国際社会の安全と繁栄を実現するために、我が国はODAを用いて積極的に貢献する。中期政策では、これらの地球的規模の問題のうち、特に貧困削減と持続的成長の達成に密接かつ包括的に関係する環境問題、及び2004年12月に発生したスマトラ島沖大地震及びインド洋津波災害を踏まえ、地震、津波を始めとする自然災害への対応を取り上げる。

(イ)環境問題及び災害への取組に関する考え方

a. 環境と開発の両立を図り、持続可能な開発を進めていくことは世界共通の課題である。地球温暖化の進行、開発途上国における経済成長に伴う深刻な環境汚染、人口増加や貧困を背景とした自然環境の劣化の急速な進行などは、開発途上国の人々の生活の脅威となっている。これら環境問題の解決のためには、広範にわたる一貫した取組が必要である。また、地震や津波などによる災害は、発生直後の被害のみならずその後も人間の生存や社会経済開発を脅かす問題であり、その対応のためには開発途上国の自助努力を支援するとともに緊急対応、復興、予防の各段階に応じた包括的かつ一貫性のある取組が重要である。

b. 我が国は、環境問題に対して、「持続可能な開発のための環境保全イニシアティブ(EcoISD)」、「京都イニシアティブ」などに基づき、また、災害問題に対して、「防災協力イニシアティブ」を踏まえて、ODAを活用して積極的に取り組む。

(ロ)環境問題への取組に関するアプローチ及び具体的取組

<1>再生可能エネルギー、省エネルギーといった温室効果ガスの抑制・削減(京都メカニズム活用のための支援を含む。)、気候変動による悪影響への適応(気象災害対策を含む。)などの「地球温暖化対策」、<2>大気汚染対策、水質汚濁対策、廃棄物処理などの「環境汚染対策」、及び、<3>自然保護区の保全管理、森林の保全・管理、砂漠化対策、自然資源管理などの「自然環境保全」の3つを重点分野として、以下のアプローチ及び具体的取組により協力を推進する。

a. 環境問題への取組に関する能力の向上

各国の実情に応じ、開発途上国の関係当局や研究機関などの環境問題への取組に関する能力を総合的に高めるため、人材育成支援を推進するとともに、的確な環境監視、政策立案、制度構築、機材整備などに対する協力を行う。

b. 環境要素の積極的な取り込み

我が国が策定する開発計画やプログラムなどに環境保全の要素を組み込むとともに、適切な環境社会配慮が実施又は確認された開発途上国の事業に対し協力を行う。

c. 我が国の先導的な働きかけ

政策対話、各種フォーラムなどの適切な協力方法を通じて開発途上国の環境意識の向上を図り、環境問題に対する取組を奨励する。

d. 総合的・包括的枠組みによる協力

地域レベルや地球規模の環境問題の解決のために、多様な形態の協力を効果的に組み合わせて総合的・包括的枠組による協力を実施する。

e. 我が国が持つ経験と科学技術の活用

我が国が環境問題を克服してきた経験・ノウハウや複雑化する環境問題に対する科学技術を活用した途上国への支援を行う。それらの経験・ノウハウや、観測、データ解析、対策技術などに関する科学技術は、地方自治体、民間企業、各種研究機関、NGOなど我が国政府機関以外の組織にも幅広く蓄積されており、支援においてはそれらとの積極的な連携を図る。また、専門的知見や実施体制を有する国際機関などとの連携も図る。

(ハ)災害への取組に関するアプローチ及び具体的取組

地震や津波などによる災害に対して我が国が国際的に高い比較優位を有する自国の経験や技術(観測などに関する科学技術を含む。)、人材を活用して、上記(ロ)と同様のアプローチにより取り組む。

(4)平和の構築

(イ) 平和の構築の考え方

a. 冷戦後の国際社会では、地域・国内紛争が多く発生している。また、いったん停戦が成立した後、紛争が再発することも少なくない。紛争は、難民・国内避難民の発生、経済・社会基盤の破壊、統治組織の機能不全といった様々な問題を引き起こす。その結果、人々の生命や生活、尊厳を維持することが極めて困難となるほか、その国及び地域全体の開発も妨げられる。その意味で平和と安定は開発の前提条件である。

b. 平和の構築は、紛争の発生と再発を予防し、紛争時とその直後に人々が直面する様々な困難を緩和し、そして、その後長期にわたって安定的な発展を達成することを目的としている。紛争予防や紛争の終結段階における支援、紛争後の緊急人道援助、そして、中長期的な復興開発支援は、平和を定着させるために欠かせない。例えば、ODAによる雇用創出事業や病院、学校の復旧事業を通じ、人々は生計を立て保健・教育サービスを受けられるようになる。その結果、人々は「平和の配当」を実感し、社会の平和と安定につながる。

平和の構築に関する支援に当たっては、対立グループ間の対話など、和平のための政治的プロセスを十分踏まえて、これを促進するよう配慮する必要がある。さらに、政治、社会、歴史、文化といった各国又は地域の個別状況を十分踏まえる必要がある。

c. 我が国としては、国際機関や、他ドナー、さらには国内の民間部門やNGOと協力しつつ積極的に貢献する考えである。

(ロ)平和の構築に向けたアプローチ及び具体的取組

我が国の平和の構築に関する支援には、現地の治安状況や政府の機能不全など様々な難しい障害があり得ることに留意する必要がある。我が国が平和の構築に取り組むに当たっては、支援関係要員の安全に最大限の配慮を払いつつ、できることを着実に実施するという姿勢で取り組むべきである。

a. 紛争前後の段階に応じた支援

紛争の予防・再発防止、紛争直後の段階から復興・再建段階、そして中長期的な開発といった段階に応じて、以下のような支援を行う。

(i) 紛争予防・再発防止のための支援

紛争のおそれのある国及び紛争後なお社会が不安定な状況にある国においては、紛争予防に十分配慮して開発援助を実施することが特に重要である。援助の対象地域や対象者の選定に当たっては、被援助国における紛争要因を歴史や文化を踏まえて正確に把握し、裨益対象が偏るなどして紛争を助長しないよう配慮する。また、例えば、環境保全やインフラ整備といった非政治的分野で地域協力プロジェクトを実施することによって、対立グループ間の対話と協力の促進を図る。また、紛争予防の観点から、兵器の拡散を防止することは重要であり、輸出入管理の強化、不正な武器の取引防止、法制度整備等に関する途上国の能力強化を支援する。

(ii) 紛争後直ちに必要となる緊急人道支援

紛争直後、難民や国内避難民を始めとする人々が自らの生命、生活を守るためには、最低限必要な「衣食住」にかかわる緊急人道支援を迅速かつ効果的に提供することが必要である。このため、難民・避難民の帰還や住居、食料、水、衛生、保健、教育などに関する緊急人道支援を実施する。

(iii) 紛争後の復興支援

復興支援においては、人材育成を支援しつつ、紛争により破壊された病院、学校、道路、公共交通、上下水道、エネルギー関連施設などの社会資本を復旧して、経済社会活動を軌道に乗せるための環境を整備することが必要である。このため、我が国は、社会資本の復旧を支援するとともに、政府の統治機能の回復のための選挙支援、法制度整備に関する支援、民主化促進のためのメディア支援等を実施する。

(iv) 中長期的な開発支援

中長期的な開発支援においては、開発を軌道に乗せることが必要である。このためには貧困削減や持続的成長を目的とする幅広い支援を実施する。

b. 一貫性のある支援

平和の構築の実施に当たっては、紛争前後の段階に応じて必要な対応を継ぎ目なく一貫性を持って行うことが不可欠であり、この観点から、紛争直後の段階から中長期的な支援に至るニーズを正確に把握することが必要である。そのため被援助国において、政府及び援助実施機関等の関係者との間で十分な意思疎通を図り、具体的なニーズの発掘や案件の形成に当たるとともに、我が国のODAの考え方等について認識の共有に努める。また、復興計画策定と即応的な復旧事業の形成を同時に行う緊急開発調査を活用しつつ、必要なタイミングで調査の結果得られた情報を活用できるよう準備しておく。そして、緊急人道支援からその後の復興開発協力へのスムーズな移行を確保し、両者の間で生じやすい空白(ギャップ)を極力解消していく。

c. 迅速かつ効果的な支援

紛争は、多数の難民・国内避難民の発生、インフラの破壊や統治組織の崩壊、食糧不足、貧困、病気の蔓延など様々な問題を引き起こす。このような危機的状況の下では、人間の生命、生活を保護するため迅速な対応が必要となる。国際機関、地域機関、内外のNGOなどと連携してより効果的な援助を実施する。

また、我が国が、今後、平和の構築を積極的・効果的に行っていくためには、平和の構築支援に携わる人材の育成が不可欠となる。そのため、JICA職員・専門家、コンサルタント、NGO等を対象とした各種研修を実施する。また、治安の状況に応じた協力形態を柔軟に活用するとともに、派遣される各人に対して治安対策研修を行う。必要なときに迅速な要員派遣を可能とする制度の整備を強化し大使館・JICAの体制を整備する。

d. 政府に対する支援と地域社会に対する支援の組み合せ

紛争後の状況においては中央政府や地方政府がしばしば機能不全に陥る。政府の機能不全を緊急に補うため、地域社会に対する草の根レベルの支援を通じ保健医療、教育、飲料水、食料などの基礎社会サービス提供を行い、地域コミュニティの再生に努める。同時に、中央政府・地方政府の人材育成や制度整備を支援することによって政府の機能の回復に努め、早急に国として自立できるように努める。

e. 国内の安定と治安の確保のための支援

紛争が終了しても政府の治安を維持する能力が不十分である場合が多く、このために人々の安全が脅かされ、開発活動が妨げられ、さらには紛争再発に至ることもある。したがって、人道・復興支援と平行して、治安強化・紛争再発予防のために、ODA大綱との整合性に留意しつつ、警察支援、雇用創出を通じた除隊兵士の社会復帰、地雷や小型武器を含む武器の回収及び廃棄、司法制度の改革等を支援する。

f. 社会的弱者への配慮

健康等を害している人や女性、児童等紛争により特に深刻な影響を受ける人々や紛争により直接の被害を受けた人々を速やかに保護する。地雷被害者を含む社会的弱者の能力強化に対し特段の配慮を図る。

g. 周辺国を視野に入れた支援

紛争国に隣接する国の中には、難民の流入、貿易や投資への悪影響など紛争に起因する問題に直面し、困難な状況に陥る場合がある。また、こうした周辺国は、紛争国と密接な関係を持っており、政治的な発言力を有していることから、仲介によって紛争解決に貢献することが可能であるほか、貿易や人の交流を通じても地域の安定・紛争予防に重要な役割を担っているケースも少なくない。他方、周辺国が紛争当事国内の特定勢力を支援し、勢力間の対立関係に周辺国間の力関係が反映された場合も多く見られる。したがって、このような事情を踏まえて紛争の解決や予防、地域の安定も念頭に置きつつ周辺国の支援を検討する。


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