4. 効率的・効果的な援助の実施に向けた方策について

(1)援助政策の立案及び実施体制の強化の考え方

効率的・効果的な援助実施のためには、我が国の援助政策の立案及び実施の体制を強化し、政策立案から実施まで一貫性を持って行うことが重要である。我が国は主要な被援助国について、被援助国の開発計画や国際的な開発目標とも整合性を確保しつつ、国別援助計画及び重点課題別・分野別の援助方針を策定してきている。今後、我が国は国際機関や他ドナー等とも連携を強化しつつ、これらの政策立案能力を一層強化するとともに、政策を具体的な案件の形成・選定・実施につなげていくための体制を強化する。そのためには、被援助国と我が国の二国間関係、被援助国の政治・経済・社会情勢を踏まえた開発ニーズや援助の実態を最も直接的に把握できる立場にある在外公館や援助実施機関現地事務所等、現地の機能を強化することが必須である。中期政策では、現地機能強化について具体的取組及び体制整備を取り上げる。

(2)現地機能強化の具体的取組

我が国は、在外公館を中心にJICAJBIC等、援助実施機関の現地事務所を主要なメンバーとして構成される現地ODAタスクフォース(以下、現地TF)を中心とした現地の機能強化に努めてきているが、これを更に推進するため、現地TF及び東京においては以下の具体的取組を強化する。なお、その際、援助政策の決定過程・実施において現地TFが主導的な役割を果たすよう、現地TFは、以下の具体的取組において積極的な参画・提言を行い、東京はこれらに関する現地TFの提言を尊重する。

なお、現地TFが設置されていない被援助国においても、在外公館がIT等を活用して援助実施機関の兼轄事務所等の協力を得つつ、可能な範囲内で、同様の努力を行い、東京もこれを尊重する。

(イ)開発ニーズ等の調査・分析

現地TFは、被援助国の政治・経済・社会情勢を踏まえた開発ニーズや被援助国自身の開発の取組についての調査・分析機能を強化する。その際、現地関係者を通じて、現地の経済社会情勢などを十分把握する。また、現地TFは、必要に応じて外部人材を活用するとともに、現地援助コミュニティ(主要ドナー諸国・国際機関、NGO、学術機関等を含む。)との情報交換等も行う。

東京は、政策支援型の開発調査や政策アドバイザーの派遣等をより機動的に活用することを通じて、これを支援する。

(ロ)援助政策の立案・検討

a. 国別援助計画の策定への参画

国別援助計画は、上記(2)(イ)の被援助国の抱える開発ニーズ等を正確に把握した上で、外交的視点も入れつつ、向こう5年間程度の我が国援助の方向性や重点分野・項目を明確に示すものである。このような計画の策定や改定に当たり、現地TFは、援助計画が被援助国の開発計画や開発目標、更に国際的な開発目標と整合的な内容となるよう、現地援助コミュニティ(主要ドナー諸国・国際機関、NGO、学術機関等を含む。)との連携の在り方も視野に入れつつ、現場ならではの知見や経験を最大限に活用して積極的に参画する。

b. 重点課題別・分野別援助方針の策定への参画

現地TFは、上記(2)(ロ)a.の国別援助計画及び下記(2)(ロ)c.の政策協議を通じて明確にされた重点分野・項目に沿って、より具体的な重点課題別、分野別の援助方針策定に関して積極的に提言を行い、これにより、開発ニーズを真に反映した案件の形成・実施につなげることを目指す。東京は現地TFの提言を尊重する。

c. 政策協議の実施

現地TFは、国別援助計画及び重点課題別・分野別援助方針で示される中期的な取組の方針が実際の案件形成・要請・実施に反映されるよう、中期的視点から見た重点分野や政策・制度上の課題につき被援助国と認識を共有し、また、意見調整を行うため、必要に応じて東京からの参加者も得つつ、政策協議を実施する。

なお、国別援助計画が策定されていない国については、ODA大綱及び中期政策を踏まえ、政策協議を通じて現地TFが主導的に我が国援助の方向性や重点分野・項目を明確化する。

(ハ)援助対象候補案件の形成・選定

a. 現地TFの主導的役割

現地TFは、援助案件の形成・選定のための精査において主導的役割を果たす。具体的には、現地TFは、被援助国の要請(要望調査結果)を東京に報告する際に、援助候補案件の優先度について東京に提言する。東京は、案件を選定する際に、こうした現地TFの提言を尊重する。

b. 援助手法の連携と見直しへの提言

我が国の援助が全体として最大の効果を上げるためには、各援助手法の有機的連携が重要である。このため、現地TFは、特に、無償資金協力、円借款、技術協力それぞれの援助手法の適切な役割分担を明確化しつつ、これら3手法が相当程度実施されている被援助国について、具体的な連携モデル案件の形成に努める。また、現地TFは、国際機関や他ドナーとの援助協調等の国際的な動向を踏まえつつ、当該国における援助手法の見直しの必要性と可能性につき、具体的提言を行う。東京は、現地TFからのこれら提言を踏まえて、援助手法の連携と見直しにつき検討する。

(ニ)現地援助コミュニティとの連携強化

開発援助をめぐる国際的な取組として、援助コミュニティにおいて、ミレニアム開発目標(MDGs)を始めとする共通の開発目標や開発戦略の設定が進行している。こうした動向を踏まえ、現地TFは、我が国援助の効果を向上させる観点から、国際機関や他ドナーを始めとする現地援助コミュニティと緊密な連携を図りつつ、我が国の援助政策に沿った形で積極的に援助協調に参画していく。こうした取組は、現地において我が国の存在感を高めることにもつながり得る。特に、我が国の援助の重点分野において援助協調が推進されている場合には、我が国が主導的役割を果たすことも含め、被援助国政府の自助努力を促しつつ当該国の開発政策の策定・実施の過程に積極的に関与する。

(ホ)被援助国における我が国関係者との連携強化

我が国が有する優れた技術、知見、人材、制度を活用することも重要であることから、現地TFは、被援助国において活動する我が国のNGOや学術機関、経済団体(現地に進出している民間企業を含む。)等との連携強化のため、これら関係者との意見交換を活発に行う。

(ヘ)我が国ODAのレビュー

現地TFは、被援助国に対する政策レベル及びプログラムレベルでのODA評価の結果等も参考にしつつ、被援助国に対するこれまでの我が国援助が所期の目的・意義を達成したか、目指すべき方向性は適切であったか、重点分野・重点項目の置き方は有効であったか、援助実施上の留意点には有効に対処できたか等についてレビューを行う。

また、現地TFは、このレビューの結果を踏まえて、国別援助計画や重点課題別・分野別援助方針の策定・改定等への参画に際して、適切な改善を図る。

(ト) 情報公開と広報

ODAに関する透明性向上を図るために、現地TFは、東京からの支援も得つつ、タスクフォースの活動、国別援助計画や政策協議等の内容について、ホームページ等を活用した積極的な広報に努める。

(3)現地機能強化のための体制整備

上記(2)に列挙された現地の機能強化を行うためには、現地TFのみならず、東京も含めた体制の強化が重要である。このため、以下を始めとする具体的施策を可能な範囲で実施する。

(イ) 適切な人員配置と人材育成(外部人材の積極的な活用を含む。)

現地TF及び東京の両方において、援助業務に関する経験と高い実務能力を備えた人材及び現地の政治・経済・社会情勢に精通した人材等、政府内及び外部からの有為な人材を積極的に活用しつつ、適切な人員配置を行う。また、援助においては緊急に対応を必要とする場合もあることから、そのような事態にも柔軟に対応できるよう、機動的かつ柔軟な人員配置も併せて行う。

現地機能を強化する上で、援助協調等の国際的潮流や我が国援助の政策や実施の全般について広い経験と知見を有する人員の確保は必須であるため、現地TF及び東京の両方においてIT等も活用して研修を充実させることも含め、援助に携わる人材育成を通じて我が国援助の裾野を広げることを目指す。

(ロ) IT等を活用した情報・知見の共有の促進

東京は、現地TFが、特に(2)(ロ)b.の重点課題別・分野別援助方針等を策定するに当たって有益と考えられる関連情報や知見を、IT等を活用して積極的に現地TFに紹介・共有する。

 

附属

「人間の安全保障」の視点を理解する上で参考となる案件例 (2004年現在実施中のもの)

セネガルにおける住民参加型の給水整備

セネガルの村落地域には、井戸などの適切な給水施設が整備されていないため、多くの女性や子供達は日課として遠方まで水汲みに行かなければならず、また、安全な水が入手できないために極めて衛生状態が悪い地域が多く存在する。

我が国は、水の「欠乏」という脅威から住民を保護するため、無償資金協力により給水施設の整備を行った。給水施設の整備に加え、人々が持続的に自らの力でより良い生活を実現できるよう、技術協力により住民の能力強化につながる支援を行った。具体的には、我が国は村落レベルで給水設備の運営・維持管理が行えるよう、住民組織を形成して保守・点検方法や、料金徴収方法を研修したり、女性を始めとする地域住民の生活改善のために水衛生と関連付けて保健衛生教育を行った。また、これに関連して、給水施設管理の余剰金で住民自らが養鶏事業を始める等世帯収入が向上した。これらの活動は、人々の能力強化、村落の開発そのものを支援するものであり、また、女性や子供といった脆弱な層への支援、保健・衛生・教育分野等の分野横断的な支援や、他国の援助機関が普及に努めている住民組織モデルを活用することによる他機関との連携などを組み合わせたものである。

これらの我が国の援助によって、村落地域の多くの女性や子供達が水汲み労働から解放され、住民はより衛生的な生活を実現できるようになってきている。

カンボジアにおけるHIV/エイズからの保護

カンボジアでは、HIV/エイズの感染率が高く、経済活動の活発化に伴う人の移動・集中によりHIV/エイズ感染が更に拡大するおそれがあり、その結果、住民や労働者がHIV/エイズの脅威にさらされる可能性がある。

我が国は、有償資金協力により支援したカンボジアのシハヌークビル港改修事業において、人々をHIV/エイズの脅威から保護し、また自らを守る能力を強化するためのプログラムを事業の中に取り込むなど、「人間の安全保障」の視点を反映させるよう工夫した。

具体的には、HIV/エイズという脅威から周辺住民を含む事業関係者を保護するために、労働者に検診を義務付け、またコンドーム配布を教育活動と組み合わせて人々の行動を変えるような措置を採ったり、労働者の中からリーダーを育成し仲間同士の会合の場で保健衛生についての知識を深めるような活動を行ったほか、HIV/エイズに対する問題提起や広報活動を広く行った。また、これらの活動が関係者に確実に浸透するよう現地のNGOと連携して実施した。

この試みの結果、HIV/エイズ及び性感染症に関する感染経路や予防手段等が認識され、労働及び住民自らがHIV/エイズ感染のリスクから身を守る能力が強化された。


<< 前頁   次頁 >>