4.平和の構築

冷戦後の国際社会では、民族・宗教・歴史などの違いによる対立から地域・国内紛争が多発しています。紛争は、難民や国内避難民を発生させ、人道問題や人権侵害問題を引き起こすとともに、長年の開発努力の成果を損壊し、莫大な経済的損失を生み出します。このことを踏まえ、2005年に国連総会と安全保障理事会にて、平和構築委員会の設立が共同決議されました。この委員会は、紛争解決から復旧、復興および国づくりに至るまでの一貫したアプローチに基づいた助言や提案を行っています。

< 日本の取組 >

具体的な取組としては、紛争下における難民支援や食糧支援、和平(政治)プロセスに向けた選挙支援などを行っています。紛争の終結後は、平和の定着に向けて、元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR注48))への取組や治安部門の再建など国内の安定・治安の確保などへの支援を行っています。また、難民や国内避難民の帰還、再定住への取組、基礎インフラの復旧を通じて復興支援を行っています。

さらに、次の紛争が起こらないよう平和を定着させるべく、行政・司法・警察機能の強化、経済インフラや制度整備支援、保健や教育といった社会セクターへの取組を進めています。このような支援を継ぎ目なく行うため、国際機関を通じた支援と、無償資金協力、技術協力、円借款という二国間の支援を組み合わせて対処しています。

2007年6月、日本は、これまでの平和構築分野での取組が評価され、国連の平和構築委員会の議長に選出されました。2008年12月までの議長としての任期の間、国連の安全保障理事会との連携強化や世界銀行、IMF、地域機構との関係強化、対象国への関心の喚起や支援の呼びかけなど、委員会の活動の強化と定着に尽力しました。


注48 : DDR:Disarmament, Demobilization and Reintegration

平和構築分野での人材育成

多様化・複雑化する平和構築の現場のニーズに対応するため、2007年度、日本は、平和構築の現場で活躍できる人材を育成する「平和構築人材育成事業」を立ち上げました。2008年度は前年同様、日本およびその他のアジア諸国からの研修員約30人を対象に、<1>国内研修、<2>海外実務研修、<3>就職支援、を3本柱とした研修事業を実施しました。この研修を修了した研修員の多くが、スーダン、東ティモールなどの平和構築の現場で活躍しています。また、2009年から、官民を問わずシニアの方の活力を平和構築に活用するとの観点からこの事業を拡充し、「シニア専門家向けコース」などの新たなコースを実施しています。平和構築の現場で役立ち得る専門知識を有するシニア専門家を対象に、必要な研修を実施した上で平和構築の現場へ派遣するものです。

図表II-7 平和構築概念図

(1)イラク

国際社会はイラクの平和と安定を回復し定着させるため、国づくりの支援を進めています。イラクが平和な民主的国家として再建されることは、イラク国民や中東地域、および日本を含む国際社会の平和と安定にとって極めて重要です。2005年には国民議会選挙が実施され、2006年に新政府が発足しました。2007年5月には、政治、治安、経済、社会などの広範な分野にわたるイラク政府と国際社会の協力の在り方を定めた「イラク・コンパクト」発足に関する閣僚級会合がエジプトで開催され、74の国・機関が参加しました。イラク政府による主体的かつ自律的な取組を国際社会が支援していくことが期待されています。

< 日本の取組 >

日本はこれまで、自衛隊派遣による人的貢献とODAによる支援を「車の両輪」としてイラクの復興を支援してきました。自衛隊による支援については、陸上自衛隊が2004年初めから2006年7月まで、サマーワを中心に医療、給水、学校などの公共施設の復旧・整備といった人道復興支援活動などに従事しました。航空自衛隊による国連や多国籍軍の人員・物資の輸送活動については2008年12月に終了しました。

ODAに関しては、2008年度末時点で無償資金協力による直接支援約17億ドルを供与し、その着実な実施に取り組んでいます。また、様々な分野の研修事業を通じて、イラクの行政官や技術者に対する能力向上支援を行っています。2008年度末までにエジプトやヨルダンといった周辺国や日本で約3,100名のイラク人が研修を受けました。円借款による支援については、イラク側との協議や各種調査を経て、2008年度末までに、電力・運輸・石油・かんがいなどの分野で12件、約24億3,000万ドルの供与を決定しました。

債務問題については、2004年にパリクラブにおいてパリクラブ加盟諸国が保有するイラク債務総額約372億ドルのうち、80%を3段階で削減する合意が成立しました。これを受け日本は、2005年11月に約76億ドルの債権(日本は第1位の債権国)を3段階に分けて合計80%削減する内容の交換公文を日本・イラク間で署名しました。そして、2008年12月の削減を最後に合計約67億ドルの債務削減を完了しました。

サマーワを中心とするムサンナー県では、自衛隊の活動と連携し、総額2億ドル以上に及ぶ草の根・人間の安全保障無償資金協力や緊急無償資金協力による支援を実施してきました。特に、安全な飲料水の提供、電力供給の安定化、基礎的な医療サービスの提供、衛生状態の改善、教育環境の改善、生活道路の確保、雇用機会の創出、安全な生活を送るための治安回復および人材育成を優先課題として取り組んできました。


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