(6)国境を越える犯罪・テロ

グローバル化やハイテク機器の進歩、人の移動の拡大などが進み、国際組織犯罪やテロは、国際社会全体の脅威となっています。薬物や銃器の不正取引、不法移民、女性や児童の人身取引、現金の密輸出入、通貨の偽造および資金洗浄(マネー・ロンダリング)などの国際組織犯罪は、近年、その手口が一層多様化、巧妙化しています。また、テロについては、国際テロ組織「アル・カイーダ」および関連団体の勢力はいまだ軽視し得ず、加えて、アル・カイーダの思想、テロ手法の影響を受けた組織による過激主義運動が新たな脅威となっています。このように国境を越えて進行する国際組織犯罪やテロに効果的に対応するには、一国のみの努力では限りがあります。したがって各国による対策強化に加え、開発途上国の司法・法執行分野におけるキャパシティ・ビルディングの支援などを通じて、国際社会全体で法の抜け穴をなくす努力が必要です。

< 日本の取組 >

薬物対策については、日本は国連麻薬委員会の国際会議に積極的に参画するとともに、国連薬物犯罪事務所(UNODC)の国連薬物統制計画(UNDCP)基金への拠出などを通じ、アジア諸国を中心とした開発途上国を支援しています。2008年度には、UNDCP基金へ約489万ドルを拠出し、アジア地域の取締り強化プロジェクト、麻薬物質規制プロジェクト、アフガニスタンの刑事司法に関するキャパシティ・ビルディング支援、同国西部・南西部での国境管理および同国南部パキスタン国境地帯における麻薬の需要を減らすための難民コミュニティ支援などを実施しました。

人身取引対策については、被害者の社会復帰、安全な帰国および帰国後の支援に重点的に取り組んでいます。2008年度には、UNODCの犯罪防止刑事司法基金(CPCJF)に10万ドルを拠出し、各種プロジェクトを支援しています。また、国際移住機関(IOM)による「人身取引(トラフィッキング)被害者帰国支援事業」や、不法移民・人身取引および国境を越える犯罪に関するアジア太平洋地域の枠組みである「バリ・プロセス」への支援も行っています。

また、東南アジア諸国などの出入国管理行政機関の担当者を招き、1987年度以降毎年「出入国管理セミナー」を開催し、情報・意見交換を通じた相互理解の増進や協力関係の強化、そして各国の出入国管理業務に携わる職員の能力の向上を支援しています。さらに、1995年度以降毎年「偽変造文書鑑識技術者セミナー」を開催し、日本の偽変造文書鑑識技術や他の先進国などの情報の提供による行政上の技術移転、参加国間における情報の共有を図りました。テロ対策に関しては、テロリストにテロの手段や安住の地を与えない、そしてテロに対する脆弱性を克服するという観点から、テロ対処能力が必ずしも十分でない開発途上国に、テロ対策能力向上のための支援をしています。特に日本と密接な関係にある東南アジア地域におけるテロを防止し、安全を確保することは、日本にとっても重要であり、重点的に支援を実施しています。具体的には、出入国管理、航空保安、港湾・海上保安、税関協力、輸出管理、法執行協力、テロ資金対策、テロ防止関連諸条約などの各分野において、機材供与、専門家の派遣、セミナーの開催、研修員の受入れなどを実施しています。特に2006年以降、テロ対策等治安無償資金協力が創設され、開発途上国でのテロ対策の支援を強化しています。

2008年5月には米国、オーストラリアおよびマレーシアとの共催により、生物テロ対策における関係機関間の情報共有・連携に焦点を当てたワークショップを開催しました。また、11月には、ベトナムでテロが起こったことを想定して、日本およびASEAN各国の交通担当省、港湾管理者など関係組織間で保安情報の伝達を行う、第3回日ASEAN港湾保安共同訓練を実施しました。さらに、UNODCテロ防止部へ6万6,000ドルの拠出を行い、インドネシアを中心としたASEAN諸国へのテロ対策法整備支援を実施しました。

このほか、海賊行為についての対策も講じる必要があります。日本は、石油や鉱物などのエネルギー資源の輸入のほとんどを海上輸送に依存しており、重要な海上交通路における海賊対策は日本の平和と安定に直結します。海賊問題解決のためには、沿岸国の取締り能力の向上や不安定なソマリア情勢の安定化、情報の共有強化、人材育成などが重要であり、日本はこれらに関して具体的な支援を行っています。

外務省 日本の人身取引対策パンフレット

外務省 日本の人身取引対策パンフレット

マレーシア海上警備強化機材整備計画

世界海運の約3分の1の大型船舶が通過するマラッカ海峡では、海賊行為が多く発生しており、同海峡を含むマレーシア海域の保安体制強化が課題となっています。日本はテロ対策等治安無償資金協力を通じて、マレーシア海上警察が海上保安のために必要な小型高速艇、夜間暗視装置などの供与を実施しました。

タイにおける人身取引被害者の芸術療法に係るプロジェクト

2008年、日本はタイにおいて、UNODCを通じ、人身取引被害者の心理的ケアを行うアートキャンプを実施しました。アートキャンプは、演舞、合唱、水彩画、粘土細工などを通じた芸術療法により自己表現の方法を学ぶ機会を与え、被害者の心の傷の回復と社会復帰を目指したものです。チェンマイの被害者保護施設から参加した幼い兄弟も、それまでは笑顔を見せることがありませんでしたが、このプログラムに参加している間、多くの笑顔を見せてくれました。


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