(5)政策立案・制度整備
開発途上国の持続的成長のためには、経済社会基盤の整備とともに政策立案・制度整備や人づくりが重要です。そのためには、汚職の撲滅、法・制度の改革、行政の効率化・透明化、地方政府の行政能力の向上などへの支援が必要です。
< 日本の取組 >
政策立案・制度整備支援の一環として、法制度整備支援を進めています。法制度整備は良い統治(グッド・ガバナンス)に基づく自助努力を通じた国の発展となるものです。同分野への支援は「人と人との協力」の代表例であり、日本の顔が見える援助の一翼を担っています。また、それにより開発途上国の法制度が整備されれば日本企業の活動の円滑化にもつながります。2009年4月には関係省庁の局長級会議で「法制度整備支援に関する基本方針(注34)」が策定され、同月、第21回海外経済協力会議により了承されました。そこでは、法制度整備支援にかかわる基本的な考え方、アジアを中心とする国々への支援の現状、課題と今後の方向性がまとめられました。日本の法制度整備支援は、日本のソフトパワーによる支援であり、アジアの成長力強化を下支えするために重要な役割を果たしています。
また、民主的発展の支援のために、法制度、司法制度、行政制度、公務員制度、警察制度などの各種制度整備や組織強化支援、選挙支援、市民社会の強化、女性の地位向上支援などの取組を行っています。汚職の防止や統計能力の向上、地方行政能力の向上の支援も行っており、タイ、ベトナム、カンボジア、バングラデシュ、パキスタンといったアジア諸国、パラグアイ、ホンジュラスなどの中南米諸国、タンザニア、ザンビアなどのアフリカ諸国への協力を行っています。
さらに、特定のプロジェクトだけではなく、開発途上国の財政に資金を投入する政策立案・制度改善支援も実施しています。たとえば、2004年度以降、インドネシアに対し、世界銀行やアジア開発銀行と協調して開発政策借款(DPL(注35))を供与しています。DPLは、マクロ経済の安定化、投資環境の改善、公共財政管理、汚職撲滅などのガバナンス分野における改革推進や貧困削減を対象にしています。
国内治安維持の要となる警察機関の能力向上については、制度づくりや行政能力向上への支援など人材育成に重点を置きつつ、日本の警察による国際協力の実績と経験を踏まえた知識・技術の移転と、施設整備や機材供与を組み合わせた支援を実施しています。警察庁では、インドネシア、フィリピンなどのアジア諸国を中心に専門家の派遣や研修の受入れを行っており、文民警察として国民に信頼される日本の警察の姿勢や事件捜査、鑑識技術の移転を目指しています。このほか無償資金協力により無線機や交番、鑑識機材などを供与しており、無線通信網の整備により、市民からの通報に迅速な対応が可能となり、また物証に基づく捜査技術が向上するなど、市民生活の安全に貢献しています。
(写真提供 : JICA)
注34 : 2008年1月に開かれた第13回海外経済協力会議にて、法制度整備支援が海外経済協力の重要な一分野として戦略的に進めていくべきことが確認され、本基本方針はこれを受けたもの。
注35 : DPL:Development Policy Loan
カンボジア法制度整備プロジェクト
20年にわたる内戦の終結後、カンボジアでは基本法体系が十分に整備されておらず、また法曹人材がきわめて少ない状況でした。このため日本は、1999年から法制度整備プロジェクトを開始し、日・カ合同起草チームによる民法・民事訴訟法の起草支援や立法化支援(2006年7月に民事訴訟法公布、2007年12月に民法公布)、および附属法令の起草支援を行いました。2008年からは、両法が適切に運用されることを目指し、附属法令の整備、司法省の能力強化、新法の普及活動を支援しています。裁判官・検察官などの法曹人材育成も支援しており、公正な司法の実現に向け一体的に取り組んでいます。
カンボジアの民法と民事訴訟法(写真提供 : JICA)