第2章 日本の政府開発援助の具体的取組

第1節 政府開発援助大綱の基本方針に関連した取組

日本の政府開発援助(ODA)政策の理念や原則は、政府開発援助大綱(ODA大綱)によって定められています。ODA大綱の下に、政府開発援助中期政策、国別援助計画、分野別開発政策、国際協力重点方針、そして事業展開計画があります。

1. 政府開発援助大綱

2003年8月に改定されたODA大綱は、「I. 理念」、「II. 援助実施の原則」、「III. 援助政策の立案及び実施」、「IV. 政府開発援助大綱の実施状況に関する報告」から構成されています。

「I. 理念」では、ODAの目的を「国際社会の平和と発展に貢献し、これを通じて我が国の安全と繁栄の確保に資すること」としています。そのために日本は、<1>良い統治に基づく「開発途上国の自助努力支援」、<2>個々の人間に着目した支援を実施するための「人間の安全保障」の視点、<3>社会的弱者の状況(特に女性の地位向上)、貧富の格差や地域格差などを考慮した「公平性の確保」、<4>日本の経験、技術、人材などを開発途上国の発展に活かす「我が国の経験と知見の活用」、<5>国際機関や他の援助国、NGO、民間を含む様々な援助主体との連携を図る「国際社会における協調と連携」という5つの基本方針を掲げています。これらの目的および基本方針に基づき、<1>「貧困削減」、<2>「持続的成長」、<3>「地球的規模の問題への取組」、<4>「平和の構築」を重点的に取り組む課題としています。

「II. 援助実施の原則」では、環境と開発の両立やODAの軍事的利用の防止、開発途上国における民主化の促進などに注意を払い、援助を行うこととしています。

「III. 援助政策の立案及び実施」では、政府全体として一体性と一貫性のあるODA政策の立案・実施を行うことで、日本のODAの戦略性や機動性、効率性を高めていくことが重要であるとしています。また、ODAの原資は国民の税金であることから、国民の理解を得ることに努力することを明記しています。

「IV. 政府開発援助大綱の実施状況に関する報告」では、援助実施状況について毎年、白書をとおして閣議報告することとしており、ODA実施に関する説明責任を明確にしています。

2. 政府開発援助中期政策

ODA中期政策は、ODA大綱のうち、より具体的に示すべき事項を中心として、日本の考え方やアプローチ、具体的取組について記載しています。2005年2月に改訂された中期政策は、具体的事項として、<1>人間の安全保障の視点、<2>貧困削減、持続的成長、地球的規模の問題への取組および平和の構築といった重点課題、<3>効率的・効果的な援助の実施に向けた方策、を取り上げています。

3. 国別援助計画

国別援助計画は、援助相手国の現状や課題、開発計画、その国に対する日本の協力の意義や目指すべき方向性、重点分野などを記載しており、策定から約5年間をめどとした国別の援助計画を示しています。対象国は、援助量、世界的な開発課題との関連性、地域バランス、援助協調や戦略的重要性などを総合的に考慮した上で選定し、対象国にある在外公館やJICA事務所などで構成される現地ODAタスクフォースの意見を参考にして策定しています。

4. 分野別開発政策

国際場裡での議論を踏まえつつ、保健、教育、水・衛生、環境といった社会セクター毎の援助(注6)を戦略的に実施するために、日本は分野別開発政策を策定しています。具体的には、分野別開発イニシアティブの策定を通じ、分野別開発政策をODA案件形成などに反映させることで、中長期的な視点から援助相手国にとって望ましい援助を実施しています。また分野別開発政策は、国際社会における議論を喚起するという意味でも重要な役割を担っています。ODA大綱やODA中期政策、国別援助計画に加えて分野別開発政策を策定することは、日本の援助指針をより一層明確にし、ODAの透明性向上にもつながります。


注6 : 農業、防災、ジェンダー、法制度整備、人の移動等も含む。


5. 国際協力重点方針

国際協力重点方針は、日本の外交政策の進展や新たに発生した開発課題などに迅速に対応するために重点事項を明確にし、毎年度の案件形成に反映させることを目的として、2007年度から策定しています。2008年度は、第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)やG8北海道洞爺湖サミットの議長国として日本がリーダーシップを発揮するとともに、そのフォローアップに取り組むことや、2015年を達成期限とするミレニアム開発目標(MDGs)の中間年にあたることを踏まえ、<1>環境・気候変動問題に関する開発途上国支援、<2>食料価格高騰問題に関する開発途上国支援、<3>平和の構築や定着、復興、<4>開発途上国の経済成長と日本の経済的繁栄の促進、<5>人間の安全保障の確立およびその観点からのMDGs実現に向けた支援、の5点を重点事項として、国際協力を実施しました。

6. 事業展開計画

事業展開計画は、原則として、日本のODA対象国すべてについて国別に作成し、実施決定から完了までの段階にある国別のODA案件を、国ごとに設定した援助重点分野・開発課題・協力プログラムに分類して、一覧できるように取りまとめたものです。様々な援助手法を一体的に活用して、効率的かつ効果的にODAを企画、立案、実施することを目指しており、援助の予見可能性を高めることにも役立っています。

ODAを通じたジェンダーへの取組

開発途上国における社会通念や社会システムは、一般的に、男性の視点に基づいて形成されていることが多いため、女性は様々な面で脆弱な立場に置かれています。開発途上国の持続的な開発を実現していくためには、男女の均等な開発への参加と受益を図る必要があります。

日本は、ODA大綱やODA中期政策において、ジェンダーの視点を重視することを明記しています。これらに基づき、開発におけるジェンダー平等を推進するための具体的なガイドラインとして、2005年には「ジェンダーと開発(GAD)イニシアティブ」を発表しました。GADイニシアティブは、日本のODAにおけるジェンダー主流化(注7)のための基本的なアプローチを明確にするとともに、ODA大綱の重点課題である貧困削減、持続的成長、地球規模の問題への取組、平和の構築について、ジェンダーの視点に立った具体的取組を包括的に示しています。

ジェンダー平等に特に配慮した支援として、日本は2005年から2008年にかけて、アフガニスタンの女性課題省の各州への出先機関である州女性局と協力し、女性の組織化や起業支援を行いました。また、女性課題省が各州女性局を通じて女性を支援できるように、各地域の女性のニーズを調査・把握し、関係省庁やほかの関連機関と連携して女性の経済活動を促進するための環境整備に努めました。さらに、国際機関との連携においても、日本が国連開発計画(UNDP)内に設立した日・UNDPパートナーシップ基金などを通じ、ジェンダー平等に特に配慮した支援を実施しています。


注7 : ジェンダー主流化とは、あらゆる分野でのジェンダー平等を達成するための手段。GADイニシアティブでの「開発におけるジェンダー主流化」とは、「すべての開発政策や施策、事業は男女それぞれに異なる影響を及ぼすという前提に立ち、すべての開発政策、施策、事業の計画、実施、モニタリング、評価のあらゆる段階で、男女それぞれの開発課題やニーズ、インパクトを明確にしていくプロセス」と定義。


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