コラム 20 地域の人の手による森林管理を~フィリピンの住民参加型森林管理~

フィリピンの首都マニラからバスで北上すること7時間余。シエラ・マドレ山脈に囲まれ、マガット、カガヤンの2大河川を抱える雄大な自然の中にヌエバ・ビスカヤ州があります。同州はフィリピン最大の穀倉地帯を支える重要な水源地ですが、過去の過伐採とその後の放牧や焼畑の横行が原因となり、深刻な森林劣化が進んでいます。その結果、農家は肥料や農薬に頼った農業をしなくてはならなくなる一方、主食である米や野菜の収穫量が低下し、消費者にも大きな影響が出ています。フィリピン政府の担当部局はこの問題を深刻に受け止めましたが、予算や人員の不足から、有効な手を打てませんでした。

このような状況を何とかしようと立ち上がったのが日本のNGOジーエルエム・インスティチュート(GLMi)です。2008年から日本政府の支援などを受け*1、地元のNGO*2とも協力し、地域の人々による森林管理を支援するプロジェクト*3を始めました。このプロジェクトを率いた相馬真紀子(そうままきこ)さんによれば、当初はなかなか行政機関や学校、住民たちの協力を得られませんでした。たとえば過伐採は森林劣化の原因の一つですが、伐採された木は海外に売られ、地元に収入をもたらしていたこともあり、今までの生活様式を変えることに対する抵抗もありました。相馬さんは、「行政は森林管理の重要性は分かっているのですが、資金や人手の不足からなかなか手が回りません。国、自治体や教育委員会など各関係者のリソースは限られています。だからこそお互いが足りない部分を補うべく協力する必要があると考えました。」とこの活動当初をふり返ります。

そこで相馬さんは、政府、学校、地域の人々にこのプロジェクトの意味や重要性を懸命に訴えました。人々はその大切さを徐々に理解し始め、住民自身による森林管理に乗り出すようになりました。ここで相馬さんの“お互いに補う”という方法が上手くいき、関係者が各自の長所を活かし、GLMiが橋渡し役をつとめることにより、森林管理活動が始まりました。

森林管理には、土壌を含む森林の再生が必要です。政府と住民はまず4つの町村に合計32ヘクタールのモデル農場を造成しました。そこでは、枯れ枝などを等間隔に打ち込む伝統的な土壌流失防止方法などが活用され、10,000本近い木が植えられました。また小中学生に対しては環境教育が行われる一方、彼らによる3,000本にのぼる植林も行われました。このような活動を通じ、人々は環境を守る大切さにあらためて気づき、積極的に活動に携わるようになっていきました。

自助努力、人づくりを重視するGLMiは、研修や各機関との橋渡し役などを徐々に住民自身に引き継いでいます。地元の村長は、「GLMiの取組は住民自身による森林管理だけではなく、あらためて自然や自分たちの暮らしを見直す“きっかけ”をも私たちにもたらしてくれました。」と喜んでいます。自然が再生されつつあり、人々の意識が変わりつつある今、相馬さんたちは将来、ヌエバ・ビスカヤの住民自身が森林を管理できる日に向けて、人々とともに自然を見守る活動に奔走しています。


*1 : 日本NGO連携無償資金協力

*2 : フィリピン農村再建運動(PRRM)

*3: ヌエバ・ビスカヤ州重要水源地における住民参加型森林管理支援プロジェクト

地方行政に森林管理への協力を要請

地方行政に森林管理への協力を要請(左から2番目が相馬さん)(写真提供: GLMi)

小学校での植林サイトを視察する相馬さん

小学校での植林サイトを視察する相馬さん(右手前が相馬さん)(写真提供: GLMi)


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